京介「行ってきます」 その2|ブログインデックス

455: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:16:00.98 ID:p6pxM8T80
桐乃「京介、ちょっと聞いてよ」

京介「なんだ。 帰ってきて早々に……飯も風呂もまだなんだけど」

桐乃「そんなのはどーでも良いの! そんなことより大事な話」

京介「分かった分かった。 聞くから言ってみろよ」

桐乃は困った様な、悩んでいる様な顔をしながら俺に言う。

関連作品
京介「なあ、桐乃」 桐乃「なによ」 その1
京介「なあ、桐乃」 桐乃「なに? 京介」
京介「ただいま」 桐乃「おかえり」 その1
京介「おかえり」 桐乃「ただいま」 その1
桐乃「行ってきます」 その1
京介「行ってきます」 その1

京介「行ってきます」 その2|ブログインデックス|画像ID:27

456: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:16:31.04 ID:p6pxM8T80

桐乃「あの子さ、最近成績がちょっとねー」

……ううむ。 そっち系の話と来たか。

正直、俺も人に自慢できる程の頭は持ち合わせていないし、そういう方向の問題なら桐乃に任せているのだが。

まあ、桐乃が相談してきているんだ。 その相談に乗ってやらないわけにはいかないよな。

京介「分かった。 着替えてからでも良いか?」

桐乃「うん。 あたし、リビングで待ってるから」

457: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:17:12.16 ID:p6pxM8T80
京介「おう。 すぐ行くよ」

俺は桐乃に言い、一旦部屋へと入った。

着ていたスーツを壁に掛け、ふと物思いに耽る。

そういや、昔似たような顔をされた気がするな。

あの時はもっと、事態は大きな物だったが。

458: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:17:43.61 ID:p6pxM8T80
「……」

俺と桐乃はいつものアパートに居た。

時刻は夜中。 明日からはしばらくの間、俺と桐乃は休み。

俺は仕事が始まるのでぼけっとだけはしていられないが、今日くらいは別に構わないだろう。

桐乃は布団を口元まで被り、俺はそこから少し離れた場所で窓の外を見ていた。

お互いに無言で、普段なら別に気まずくは思わないが……今日は違う。

ぶっちゃけ、すげえ気まずい。

459: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:18:13.83 ID:p6pxM8T80
そんな気まずさを紛らわす為に、俺はきらきらと光っている星を見ながら今日のことを振り返る。

まず、そうだ。

大学の卒業式があったんだ。

いやいや、今思い出したみたいになっているが……しっかり覚えていたぜ?

だけど、そんな今日のことがもう遥か昔みたいな感覚になりつつあるんだよな。

460: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:18:39.59 ID:p6pxM8T80
それくらい、今日は色々とあったから。

家に帰ってきて、すると桐乃から『人生相談』があると言われて。

連れて来られた場所は、いつかの式場だった。

桐乃「……」

ふと桐乃の方を見ると、起きているのが見て取れる。

俺はそれを確認した後、ようやく口を開いた。

461: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:19:11.26 ID:p6pxM8T80
京介「なあ、桐乃」

桐乃「……」

桐乃はそれに答えない。

その沈黙は恐らく、黙って聞くということだろう。 それくらい、もう分かる。

俺は小さく笑うと、続けた。

京介「……子供の名前どうする?」

462: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:19:37.59 ID:p6pxM8T80
桐乃「は!? ちょっと待った! いきなりそれ!?」

桐乃はがばっと飛び上がり、俺の方にどんどんと詰め寄る。 さっきまでのしおらしさはどこへ行ったんだ。

京介「じゃあ他に何て言えってんだよ?」

桐乃「もっとあるでしょ!! これからのことを語りだすとか、あたしを安心させるようなことを語るとか!」

分かった分かった。 分かったから胸倉を掴むのはやめてください。 首が絞まって息が出来ません。

463: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:20:04.15 ID:p6pxM8T80
京介「お、落ち着け……落ち着けって。 そりゃ、お前が元気無さそうにしてたからさ」

桐乃「あったりまえじゃん。 だって」

桐乃「……そんなの、おかしいし」

言うと、桐乃は俯く。

……はぁ。 仕方ねえな。

てか、お前は望んでいたんじゃないのかよ。

いいや分かっているさ。 こいつだって、本心はそうなのだろうから。

464: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:20:37.33 ID:p6pxM8T80
京介「そうだ。 おかしい」

京介「でも、今更じゃねえか」

桐乃「だけど!」

京介「……そりゃ、大変だとは思うぜ」

京介「だって俺とお前は兄妹なんだから。 それはもう変えられないからな」

桐乃「うん。 分かってる」

465: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:21:08.34 ID:p6pxM8T80
桐乃は目尻に涙を少し溜めて、漏らすように言った。

桐乃「……こんなんだったら、本当に義理なら良かった」

京介「ばーか。 弱音吐いてるんじゃねえよ。 似合わねえ」

俺は桐乃にでこぴん。

桐乃「……はいはい。 今のは忘れて」

俺にでこぴんされた場所を摩りながら、桐乃。

京介「俺だって、怖いんだよ」

466: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:21:35.85 ID:p6pxM8T80
俺の言葉に驚いたような顔を桐乃はしていた。 意外に思っているのか、それとも。

これはあくまでも俺の予想で、事実は違う可能性なんて存分にある。

桐乃はこの時、こう思っていたのでは無いだろうか。

嬉しい、と。 俺が真剣に考えていて、嬉しいと。

467: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:22:41.96 ID:p6pxM8T80
京介「怖くて、怖くて堪らねえよ。 だけど、それでも俺はそうしたいんだ」

京介「そんな怖いだとか、不安だとか、全部吹っ飛んじまうくらいにお前のことが好きだから」

京介「お前となら、大丈夫だと信じられるからな」

そうして俺は桐乃に笑い掛ける。

桐乃の顔を見て、俺はこう思った。

ああ、くそ。 やっちまった。 って。

468: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:23:07.75 ID:p6pxM8T80
どうやら俺は、親父との約束を破ってしまったらしい。

面目無い。 悪いな、親父。

だけど、どうしてだろうな。

どうして俺は、こんなにも幸せな気持ちになっているのだろう。

それは今、目の前にある物を見ればなんとなく分かる。

桐乃の頬を伝っていた涙を見れば、なんとなく。

469: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:24:31.28 ID:p6pxM8T80
桐乃「ちょっと、着替えるのにどんだけ時間掛かってんの?」

京介「おお、悪い悪い。 今行くから待ってろ」

桐乃「ふん。 早くしてよね。 あの子も待ってるから」

桐乃は言うと、部屋の扉を少しだけ勢い良く閉める。

……変わらないなぁ。 昔っから。

470: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:25:32.50 ID:p6pxM8T80
あの日、俺と桐乃はひとつの約束をしたのだ。

正真正銘、俺と桐乃だけの秘密。

これが破られる日は恐らく来ないだろうし、来たとしても手をあげて喜べやしないだろう。

もし、万が一に破られるとしたら。

つまり、あの時とは逆ってことだから。

今はとにかく、桐乃からの呼び出しに早く答えてしまわないとな。

俺と桐乃の大切な子の為にも。

471: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:25:59.72 ID:p6pxM8T80
「桐乃、ひとつ約束してくれるか」

「なに? 約束って」

「もし、子供が出来てさ……生まれたら」

「……俺とお前が兄妹ってことは、絶対に秘密だ」

「……子供を騙せってこと?」

「そうだ。 ばれたら皆が傷付くから、俺とお前が背負わないといけないんだよ、それは」

472: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:26:47.18 ID:p6pxM8T80
「ずっと、一生?」

「多分、な」

「……」

「……桐乃、これは大切なことだから。 それくらい分かるだろ? だからしっかり返事、聞かせてくれ」

「……うん。 分かった。 絶対に言わない」

「……ごめんな」

473: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:27:15.57 ID:p6pxM8T80
「京介が悪いわけじゃないから。 悪いのはあたしも一緒」

「そうだな。 へへ」

「大丈夫だ。 俺とお前の子供だぜ? 超立派になるに決まってんだろ」

「……八割あたしのおかげだけどね?」

「へいへい……」

474: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:29:02.53 ID:p6pxM8T80
「桐乃……幸せか?」

「ふん。 分かってるくせに」

「……心配か?」

「……やっぱり、ね」

「……怖いか?」

「……うん」

「……なあ、桐乃」

「安心、出来たか?」

「……うん。 ありがと」

475: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:29:29.83 ID:p6pxM8T80
京介「悪い、待ったか?」

桐乃「ぜーんぜん? ねー?」

桐乃は言うと、正面にちょこんと座る中学三年生になる娘に語りかける。

……ほんと、成績が芳しくないのは桐乃が溺愛している所為なのでは。

だってこいつらときたら、すぐに俺をからかってくるからな。 いっつも手を組みやがって。

まあ、良いさ。 俺には俺で手を組む奴が居るからよ。

高校三年生になる、立派な息子が。

476: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:29:56.75 ID:p6pxM8T80
……で、ちょっと待て。

なんでその息子の方も、一緒になって居るんだ?

京介「……桐乃?」

桐乃「……あたしも分からないって」

桐乃に耳打ちをして尋ねたのだが、どうやらこいつも理由はしらないらしい。

477: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:30:25.80 ID:p6pxM8T80
ふうむ。 確かに前まで喧嘩ばっかだったのが多少はマシになったとは思うけど、妹の説教にわざわざ同伴までするのだろうか。

何か、こいつの方からも話があるのか? そしたら。

京介「……そっちの話から聞くか。 それで良いよな?」

俺が息子に話し掛けると、一度頷き、口を開いた。

478: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:30:57.89 ID:p6pxM8T80
その言葉は結局、回りまわって来たというわけで。

こいつら兄妹は結局、俺と桐乃の子供というわけで。

どこまでそっくりなんだろうな。

なあ、桐乃。

お前もそう思うだろ? こいつらはやっぱ、俺たちの子供だよ。

この兄妹の場合は一体、どんな物語になるのだろうか。

479: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:31:23.20 ID:p6pxM8T80
俺はそれに真剣に耳を傾けなければなるまい。 無論、桐乃も。

親として、家族として。

そして俺と桐乃……兄妹としても、な。

全く。 やれやれ。

桐乃からの『人生相談』は、終わったとしても。

その性格やら、考え方やら、やり方も。

しっかりと受け継がれてしまっている様だ。

480: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:31:50.58 ID:p6pxM8T80
「ね、京介」

「……ん?」

あの日。 約束を交わした日。

桐乃は俺に、こう言った。

「もし……さ。 あたしと京介の子供が、馬鹿やったらさ」

「馬鹿ってのは、俺とお前が馬鹿やってるみたいにか?」

481: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:32:17.13 ID:p6pxM8T80
「うん。 そう」

「それで、今度はあたしたちが親の立場だったとしたら」

「……しっかり話そう。 全部」

「……おう。 分かった」

「それで助けてあげよう。 傷付くとは思うけど、そうしないとダメだと思うから」

「助ける……ってのは? どっちの意味でだ?」

「……まだ分からないかな。 その時になってみないと、分からない」

「そっか。 でも、良いぜ。 約束だ」

「……うん!」

482: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:32:44.52 ID:p6pxM8T80
あの時のどっちかは、もう桐乃は分かったのだろうか。

俺はしっかりと分かった。

だってよ、こんな真剣な顔をされちまったら適わねえよ。

隣に座って先ほどから黙っている桐乃の顔を俺は見た。

そして、すぐにそれも分かった。

桐乃も俺が何を言おうとしたのかは分かったようで、俺と桐乃は同時に口を開く。

「俺に任せろ」「あたしに任せて」

483: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:33:13.23 ID:p6pxM8T80
俺はしっかりと幸せを見つけた。

小さくて、見落としていたかもしれない幸せを。

でも見つけることが出来たんだ。 俺には、桐乃が居たから。

だから大丈夫だよ。 お前らにもきっと見つけることが出来るだろうさ。

なんつったって、俺と桐乃の子供なんだから。

幸せの形 終

533: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:44:27.35 ID:409ArHoo0
あやせ「それじゃ桐乃、また明日」

桐乃「うん。 ばいばい」

いつもの分かれ道であやせに手を振り、あたしとあやせは別れる。

学校から帰るときはいつもここで手を振って、遊ぶ予定とかがない時は「また明日」仕事とか、遊ぶ予定がある時は「また後で」そんな感じで、いつも分かれている場所だ。

そして今日はその前者。 遊ぶ予定が無い日。

あやせは暇だったらしく、今日この日は遊びに誘われていたんだけど……。

それでもどうしても、あたしには今日を譲ることはできなかった。

534: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:45:06.19 ID:409ArHoo0
桐乃「……」

あやせが角を曲がり、あたしの視界から消える。

桐乃「よし、よし! 早く帰らないと!!」

それを確認して、走り出す。 もうマジで、今この瞬間にリアと勝負すれば勝てるんじゃないかってくらいの走り。

それもそう。 今日は新作エロゲーの発売日!!

待ちに待って、ようやく訪れた今日!

京介は休みで家に居るので、午前中には届くように通販を使っておいた。 帰ったらすぐやりたいし。

今度のエロゲーは普通じゃない。 前作の2倍のボリューム、シナリオ分岐、システム面の改善。 他にも色々あるんだけど。

535: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:45:34.08 ID:409ArHoo0
しかーし! それさえも「その他」に分類しちゃうくらい新しいシステム!

簡単に説明すると、なんと本編をヒロイン視点でプレイすることが出来ちゃうの!

一周すれば解放されて、主人公の内面だけでなく、ヒロインたちの内面も全部見れちゃうってワケ! ヤバくない? あのかっわいいヒロインたちがどんなことを思っているのかとか、考えただけでテンションあがるんですケド!!

そんな新作エロゲーをいち早くプレイしたく、あたしは走って家に帰っているのだ。

桐乃「ふひひ~。 ヤバイってヤバイって……ひひ」

536: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:46:01.95 ID:409ArHoo0
桐乃「たっだいまぁ!」

京介「おう。 おかえり」

桐乃「エロゲー届いた!?」

京介「帰ってきて早々それかよ……。 分かってたけどな」

京介「ほら。 しっかり受け取っといたぜ」

京介は言うと、あたしにそのゲームを手渡す。 タイトルは『妹姉妹』。

読み方は『マイシスター』。 いい名前っしょ?

537: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:46:30.81 ID:409ArHoo0
桐乃「うひょお! きたぁああ!!」

京介「エロゲーも良いけどよ。 今日、お前の番だからな?」

……知ってる知ってる。 分かってるって。

桐乃「……ねね。 お願いがあるんだけど」

京介「お前今の俺の言葉から言うお願いって、あれしかねえじゃん」

桐乃「明日と明後日あたしが材料買ってくるから、今日は頼んで良い? ね?」

538: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:47:11.22 ID:409ArHoo0
京介「……明日と明後日とその次の日も」

桐乃「……うぐぐ」

京介「睨んでも譲らねーぞ。 へへ、別に嫌なら良いんだぜ?」

桐乃「チッ……。 分かった。 明日から三日連続ね」

京介「オッケーオッケー。 なら聞いてやろう」

偉そうに言ってるけど、結局あたしが一緒に来てって言えば一緒に来るじゃん。 素直じゃないなぁ。

539: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:47:40.00 ID:409ArHoo0
桐乃「ふひひ。 かえでちゃん、今から一緒に遊ぼうねぇ……じゅる」

京介「……程ほどにな」

京介の言葉を軽く受け流し、手洗いなどを済ませ、パソコンの前へスタンバイ。

京介はどうやら、時間までは勉強をしている様子。 地味に偉いんだよね、そういうとこ。

って、今はそっちに気を取られてる場合じゃない。 あたしはかえでちゃんを愛でなければならないのだ。

桐乃「いんすこいんすこ~。 うわ、なが」

さすがに大容量だけあってかなり時間が掛かりそう。 にしても、なーんかパソコンが重い。

うーん、文句言っても仕方無いよね。 それまでどうしよっかな。

540: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:48:05.85 ID:409ArHoo0
桐乃「よし! お風呂だ!」

京介「うるせえよ! 独り言でももう少し静かにやってくれ!」

桐乃「……う、はいはい」

いけないいけない。 ついつい興奮してしまった。

京介も本気で怒っているわけでは無い……けど。 それでも、邪魔になっていそうなのは事実だしね。

は~。 素直に自分の非を認めるあたしは偉いなぁ!

541: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:49:00.81 ID:409ArHoo0
京介「機嫌良さそうで何よりだ。 だけど……別にお前は偉くねえぞ?」

桐乃「へ? ちょ、あたし今口に出てた?」

京介「出ては無いけど、顔を見れば分かる」

……そんなジロジロ見ないで欲しいんですケド。 シスコンシスコン。

桐乃「そんなあたしの顔を見たいなら、もっと近くに寄ればぁ? ふひひ」

京介「……」

茶化すようにあたしが言うと、京介は黙って立ち上がる。

542: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:49:26.65 ID:409ArHoo0
で、あたしのすぐ傍まで来て、あたしの顔を両手で挟む。

いやいや待って! 何この展開!?

あたしもしかして、無理矢理キスとかされちゃうワケ!? ありえなくない!?

桐乃「な、なにしようっての」

京介「何も? お前が顔を見たいなら近くに寄れって言うから、こうしてるだけだけど」

桐乃「……見るなッ!」

京介の手を無理矢理解き、あたしはそそくさとお風呂場へと向かっていった。

543: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:49:53.32 ID:409ArHoo0
桐乃「……はぁあああ」

なんだっての。 普通、いきなりあんな近くに来る? 京介ってばそれでなんとも無い様な顔をするからムカつくムカつく。

あたしが逆に顔を近づけたら顔を赤くして逸らす癖に。 一体何を考えているのやら。

そんなことより! 今はとにかくエロゲーエロゲー。 ちゃっちゃとお風呂を済ませて、エロゲーに興じるとしよう。

桐乃「ふひひ……待っててね。 かえでちゃん……ふひ」

「おーい、声聞こえてんぞ」

と、扉の奥から京介の声がする。

544: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:50:23.26 ID:409ArHoo0
桐乃「盗み聞きとかキモ~い。 そんなにあたしの声が聞きたかったワケぇ?」

「へいへい……すいませんでしたね」

正直な話、また同じ様なノリだと思ったんだけど……違うのか。 それともなに、京介もやっと振りじゃないってことを理解してくれたみたいな?

ばかじゃんばかじゃん。 どう考えても振りでしょうが!

……あたし少しのぼせたかな。 馬鹿なことを考えている気がするし。

そうと分かればちゃっちゃと出よう。 そんで、エロゲーをプレイしよう。

ていうか、当初の目的ってそれだしね。 京介と話すことじゃないし。 ふん。

545: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:50:56.47 ID:409ArHoo0
桐乃「飲み物オッケー! お菓子オッケー! よし、やるぞぉおお!」

京介「……なんか、お前見てると楽しくなってくるな」

桐乃「なにそれ。 馬鹿にしてる?」

京介「してないしてない。 全然、これっぽっちも」

桐乃「……ふうん。 ま、良いや」

横でちょくちょくと口を挟んでくる京介の方に顔を向け、あたしはありがたいお言葉を放ってあげる。

546: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:51:59.89 ID:409ArHoo0
桐乃「ねね、特別に一緒にやってもいいよ?」

京介「……お前がどうしても一緒にやって欲しいって言うなら、別に良いけど?」

桐乃「しっしっ……あっち行け」

京介「へいへい……」

別にそこまでして一緒にやって欲しくは無いし~。 あたしはどうでも良いし~。

……素直に一緒にやりたいって言えばいいのに。

ま、まぁ良い。 気持ちを切り替えて~っと。

547: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:53:08.26 ID:409ArHoo0
桐乃「……てか、なんか長くない? まだ終わって無いとか」

てっきりインストールは終わっていると思ったんだけど、どうやらまだ終わっていない様子。

ふうむ。

仕方無い、とりあえずネットサーフィンでもして時間を潰そう。

で、マウスを握って操作……しようとしたとき、気付く。

桐乃「ウソ。 フリーズしてる」

うーん……最近、特に変わった様子は無かったんだけど。

548: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:54:06.99 ID:409ArHoo0
桐乃「……はぁ」

仕方無い仕方無い……ウィルスチェックは後でやるとして、とりあえず応急処置で違うパソコンを使おう。

メインがこれだから、使いやすいんだけどね。

京介「おう、どうしたんだよ。 見るからにしょぼくれてるけどよ」

桐乃「パソコンが固まったの。 なーんか重いし、変……」

言いながら、横に居る京介の方に顔を向ける。

なんだ、結局一緒にプレイしたかったんじゃん。

549: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:55:27.59 ID:409ArHoo0
……じゃない! いやいや、もしかして。

桐乃「ねえ、昨日パソコン貸したよね?」

京介「その言い方だと俺が貸してくれって頼んだみたいじゃねえか……」

別にそんなのはどうでも良い。 ただ、京介には未だにエロゲーに対する信念とか信条とかが足りないとあたしが思って、ゲームを貸してあげたんじゃん。

無論、プレイするのはあたしが家に居るとき限定でね。 で、問題はそれ。

桐乃「京介さ、ゲーム以外やってない?」

550: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:56:37.78 ID:409ArHoo0
京介「そんなのお前が見てる前でしかやってないんだから……」

桐乃「じゃなくて、あたしがお風呂入ってたりしてる間」

京介「ん? ああ、その時は暇だったから適当にネット見てたけど」

……それだ! 絶対それだ!

桐乃「そ、その時……なんか怪しいサイトとか見てない?」

京介「見てねえよ! 見たら絶対お前怒るじゃねえか!」

551: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:58:01.35 ID:409ArHoo0
桐乃「……ふうううむ」

京介の顔を見る。 見る。 見る。 見続ける。

京介「……」

恥ずかしそうに顔を逸らす京介。 うん、嘘は吐いて無さそう。

京介「……あ、でもさ。 お前が喜ぶだろうと思って」

桐乃「あたしが?」

京介「おう。 なんか、変な表示が出たからよ」

桐乃「……うん」

ヤバイ。 嫌な予感がしてきた。

552: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:59:03.09 ID:409ArHoo0
京介「なんだっけな……お使いのパソコンがクラッシュ寸前です、みたいな」

桐乃「……そ、それで?」

京介「やべえって思って、サイトを辿って行って……改善するソフト落としといたぜ」

それだああああああああああああ!!!! 絶対それじゃん!!!!! 何してくれてんのこのクソ兄貴!!!!!!

桐乃「……ふ、ふふ」

京介「……桐乃?」

桐乃「こんのクッソ兄貴!!!!!!!!!!」

553: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:00:53.65 ID:409ArHoo0
それからは説教。 延々と。

どのくらいだろう。 約二時間ほどは続けた気がする。 勿論、その間に別のパソコンでエロゲーのインストールは済ませているけどね。

桐乃「そんなんだからあんたは何も分かってないの! 妹たちに申し訳ないとは思わないワケ? しっかり心の奥から悪いと思ってんの?」

桐乃「大体、京介にはエロゲー愛がまず足りてない。 保管の仕方も適当だし、扱いも適当すぎ。 定期的にパッケージも出して拭かないと埃が付いちゃうでしょ。 聞いてる?」

京介「……はい」

桐乃「チッ……。 もう良い。 さっさとご飯の材料買ってきて」

554: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:02:02.99 ID:409ArHoo0
全く全く。 分かってくれればいいんだけど、その理解するのに時間掛けすぎ! 京介にも悪気があったってわけじゃないのは分かるけどさ。

京介「桐乃、ごめんな……」

申し訳なさそうに謝る京介に、本来なら「別に良い」くらい言うべき場面だったのだろう。 でも、あたしにはそれが出来なかった。

家を出て行く京介の背中を横目で見ることしか、出来なかった。

桐乃「……ふん。 ばか」

555: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:03:34.01 ID:409ArHoo0
桐乃「ふひ、ふひひ」

やっぱこのエロゲー、マジ神ゲーすぎ! あー、なんかむしゃくしゃした気分だったけど、結構エロゲーやったらすっきりしたかも。

桐乃「かえでちゃんかぁいいなぁ……」

だってさ、ちょっと考えてみてよ?

今、あたしがやっているシーンは「主人公の姉がデパートで迷子になった妹を見つけたシーン」なんだけどね。

ここで少しだけ製作側のサービスか、ちょっとだけかえでちゃんの内面が見れるようになってるんだ。

556: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:04:56.33 ID:409ArHoo0
んでんで、その時のかえでちゃんの台詞。

「別に迷子になってないし。 お姉ちゃんが迷子になってたんでしょ?」

って言って可愛らしく笑うの。 でも、笑いながらも少し泣きそうになっているんだよね。

ここで内面! 内面が見れんの!

あたしが代弁すると……。

「……怖かったよ。 お姉ちゃん」

ヤーーーーバーーーーイーーー!! このなんとも無いような顔をしながら、心の中では怖くて怖くて堪らなかった感じがヤバすぎ!!

557: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:06:21.06 ID:409ArHoo0
これはもう、いち早くクリアして全部の心情見るしか無いっしょ!? それ以外の選択肢はありえない!!

桐乃「ちょっと、あんたさっきからなに黙ってんの?」

と言いながら、あたしは横を見る。

桐乃「……あ」

そうだった。 京介、今出かけているんだった。 あたしの代わりに。

……気にしない気にしない。 隣に居なくたって、平気だし。

桐乃「続き続きっと……」

それからエロゲーを続けること数十分、やがて、京介が帰ってくる。

558: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:07:56.20 ID:409ArHoo0
京介「……」

黙ったまま買ってきた物をテーブルの上へと置く京介。

桐乃「……ただいまくらい言ったら?」

京介「ん、ああ……ただいま」

なにこの雰囲気。 調子狂うなぁ。

それが嫌で、一旦ゲームは中断。

あたしは立ち上がると、京介の下へと向かった。

559: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:08:40.54 ID:409ArHoo0
桐乃「京介」

京介「な、なんだ?」

桐乃「あたしはベツに気にしてないから。 もう大丈夫だって」

京介「……つってもよ」

桐乃「あたしが良いって言ってるんだから良いの! 分かった!?」

京介はその言葉に首を縦に振る。 よし、これにて一件落着。

560: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:09:23.15 ID:409ArHoo0
とは行かなかった。 京介は一応は納得したような素振りを見せた物の、結局は全然元に戻って無い。

あたしが声を掛けてもどこか上の空って感じだし、ぼーっとしながら歩いて何も無いところで転びそうになっているし。

あんたはいつから天然キャラになったんだっての! ああもう。 やっぱ調子狂う。

そうと決まれば、することはひとつだ。

今日中に絶対、京介を元に戻してやるんだから。

……京介がこうなってしまったのも、あたしに原因の一端があるのは確かだしね。 本当に、米粒くらいの大きさだけどね。

覚悟しておきなさいよ、京介。

561: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:10:52.95 ID:409ArHoo0
ってわけで、作戦その壱。

さり気なく優しくする作戦。

桐乃「はい、お茶淹れたよ」

今日はちょっと寒いから、暖かいお茶。 未だにぼーっとして壁にもたれて座っている京介に差し出す。

京介「……ああ」

反応薄ッ! もっとこう「ありがとう桐乃」みたいなのは無いワケ? あたしの思惑通りだと、京介はあたしの頭の上に手を置いて、撫でてくれるはずだったんだけど。

……仕方無い。 ここはひとつ頑張ってみよう。

562: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:11:37.54 ID:409ArHoo0
ってわけで、作戦その壱。

さり気なく優しくする作戦。

桐乃「はい、お茶淹れたよ」

今日はちょっと寒いから、暖かいお茶。 未だにぼーっとして壁にもたれて座っている京介に差し出す。

京介「……ああ」

反応薄ッ! もっとこう「ありがとう桐乃」みたいなのは無いワケ? あたしの思惑通りだと、京介はあたしの頭の上に手を置いて、撫でてくれるはずだったんだけど。

……仕方無い。 ここはひとつ頑張ってみよう。

563: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:12:35.69 ID:409ArHoo0
桐乃「えへへ」

そう言って、京介の顔を見ながら笑ってみる。 いや大分ヤバイって、恥ずかしすぎるんですケド。

変に緊張しちゃって、なんだか笑い方がぎこちなくなっている気がする。 頬がぴくぴくするし。

京介「……」

ハァ!? 反応無し!? ていうか、あたしに意識あんま行って無くない? あたしが折角こんな可愛い顔を見せてあげているのに、その態度は無くない!?

落ち着け落ち着け。 まだダメと決まったワケじゃないし。

……優しくする作戦、失敗。

564: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:13:56.96 ID:409ArHoo0
まだまだ諦めない。 あたしには次の作戦がある。

作戦その弐。

名付けて、甘えてみる作戦。

桐乃「ね、ねえ」

先ほどの場所から動かない京介に隣に、ちょこんとあたしは座り込む。

で、隣を向いて話し掛ける。

京介「……ん」

桐乃「あ、あああ、あ、頭……」

565: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:14:59.60 ID:409ArHoo0
桐乃「……頭、撫でて欲しいなぁ」

よし良く言ったあたし! これでもう、一発でしょ。 あたしの経験則で言わせれば、これで落ちない兄は居ない。

エロゲーの経験でだけどね。

京介「……」

シカト!? ちょ、ちょっと待て。 さすがのあたしでもその反応はダメージ大きいって。

もう一回言う……? 聞こえてなかったかもだし……。

やっぱムリ! 作戦変えよう、それが良い!

566: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:15:27.11 ID:409ArHoo0
作戦その参。

デレデレしてみる作戦。

ふ、ふふ。

これ、もう最後の砦みたいなもんだよね。 いつもは全く、一ミリも、一切京介に対してデレっとしないあたしがデレれば、余裕でしょ。

台詞はどうしようか。 一発勝負だし、威力が高そうなのが良いよね。

……うーん。

「お兄ちゃん、大好き」

無い。 はっきり言って無い。 あたしから見ても、ぶっちゃけキモい。

567: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:17:31.44 ID:409ArHoo0
「京介、大好き」

ふっざけすぎ! それが正面から言えれば苦労しないっての!! 却下却下!! ありえない!!

「一緒にゲームしよ?」

……ふむ。

無難、かな? いつものあたしだったら「あんたもゲームやるんだから、とっとと来て」だとか「あたしが一緒にやれっつってんの。 意味分かる?」みたいな言い方をするのだろうけど。

今日のあたしはデレてやるんだ。 だから、言い方も優しく。

こうするのが多分、一番効果あるんじゃないかな? 勿論、もっとデッレデレの台詞……それはもう、あたしが大好きなエロゲーのヒロインたちみたいな台詞を言えれば良いんだけどさ。

さすがになぁ……。

それを言えないから、あたしなんだし。

ってわけで、作戦決行。

568: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:17:59.85 ID:409ArHoo0
桐乃「……京介」

京介の前でしゃがみ込み、顔を覗き込む。

京介「……どした」

なんだか、悲しそうな顔をしていた。 京介は今、何を思っているのだろうか。

桐乃「その、あのさ」

あたしはさっきまで考えていた台詞を言おうとする。

言おうとして、口を開こうとして、京介の顔を見て。

気付いた。

569: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:18:26.09 ID:409ArHoo0
あたしが京介を元気付けようとやっていたことは、ただあたしがしたかったことなんじゃないかって。

あたしがそうしたいから、そうしただけなんじゃないのかって。

今、考えるべきことは何だろうか。

分かっている。 京介がこうなってしまった原因だ。

普通に考えれば京介も悪い。 でも、それはあたしも一緒かもしれない。

逆の立場だったとして、あたしが京介にあれこれ言われたら、そりゃあ落ち込んでしまうだろうし。

そしてそれから考えることは、思わなければいけないのは、京介の気持ちだ。

570: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:24:28.51 ID:409ArHoo0
あたしは一人じゃない。 京介と一緒に、居たい。

桐乃「……ごめん」

用意していた台詞は結局、何も言えなかった。 その代わり、口から出てきたのは謝罪の言葉。

……今の今まで、言ってなかった言葉。

京介「なんで、お前が謝るんだよ。 悪いのは俺だろ」

京介は言い、あたしの頬へと手を添える。

桐乃「違う。 その……あたしも、言いすぎちゃったし」

桐乃「それで、京介落ち込んでたみたいだし……だから」

571: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:25:12.80 ID:409ArHoo0
あたしは言う。 これがあたしの言いたかったことなのだろう。 そう、思いながら。

京介「……お前、そんなこと考えて」

京介はもう一度悲しそうな顔をした後、自分の頬を両手で叩く。

京介「うし。 分かった。 お前にそんな顔されたら適わねえよ」

京介「桐乃、悪かった。 ごめん」

桐乃「あたしも、ごめんね」

572: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:25:42.93 ID:409ArHoo0
それから京介はいつも通りに戻って、少し二人で色々と話した気がする。

京介曰く、今回のことは本当に悪いと思っていて、それであたしに謝られて、何をしているんだって気持ちになったらしい。

お互いに謝って、手打ちにすることになった。 それはお互いに口には出さなかったけど、雰囲気で……空気で、分かった。

だからあたしは、京介に言う。

桐乃「よし! じゃあほら、エロゲーやるよ!」

京介「……結局それかよ」

573: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:26:24.80 ID:409ArHoo0
桐乃「あたしが一緒にやれっつってんの。 意味分かる?」

京介「へいへい。 分かりましたよ。 お供させて頂きます」

そうして並んで座って、いつも通りの日常。

それに必要だったのは、たった一つの言葉だった。

言葉に込めて 終

621: ◆IWJezsAOw6 2013/11/13(水) 23:51:02.19 ID:HY2bmXZv0
「それでは、次の方どうぞ!」

響く声。 歓声をあげる大勢の人。

俺はそんな熱気溢れる空間の丁度一番後ろ辺りに居た。

メルルのイベントとかとはまた一風違った雰囲気の会場。

例えるならば……そうだな。

今、俺が居るこの場の空気を表すと「わー!」だとか「ひゅー!」だとか、多分そんな感じになるのだろう。

それはもう、普通にライブだとか、高校でのイベントとか、そんな熱気溢れる場だ。 そう思って貰えれば問題は無い。

622: ◆IWJezsAOw6 2013/11/13(水) 23:51:28.69 ID:HY2bmXZv0
んで、メルルのイベントの場合。

もうあっちはそんなレベルじゃねえ。 あれは「うぉおおおお!!」だとか「メルルぅうううう!!」だとか、こんな感じ。

いざ言葉で表してみると後者の方が盛り上がっている様にも見えるが、この俺が今感じている熱気も実際のところ、それとは良い勝負だと思う。

そんな会場のボルテージが上がる瞬間。 司会の人の声によって一人一人が壇上を歩く瞬間である。

イベントのメインってことだし、そこで盛り上がらなかったらイベントとしては失敗だろうけどな。

まぁ、そんな失敗も無く盛り上がっているわけだが。

623: ◆IWJezsAOw6 2013/11/13(水) 23:51:58.34 ID:HY2bmXZv0
「こんにちは! 特にここの大学の生徒じゃないとダメってワケじゃないみたいだから、来ちゃいました!」

……そして俺はこの状況をどう説明すれば良いのだろうか。 頭が痛い。

今、マイクを持って歓声に答えている奴が出ているイベント。 それがこの「サマーへ向けて楽しまナイト」。

名前を付けた奴はセンスが無いのは明らかだし、何より今は夜じゃない。 というか、そんなことはどうでも良いんだった。

問題はイベントの内容だ。

イベントの名前からしたら全く予想は出来ないが、とりあえず1から説明すると……。

624: ◆IWJezsAOw6 2013/11/13(水) 23:52:26.16 ID:HY2bmXZv0
まず、今は俺が通う大学の学園祭が行われていて。

そして毎年恒例……らしいこの「サマーへ向けてなんちゃら」が行われていて。

……去年は結局、参加しなかったしなぁ。 学園祭。

友達が居ないわけじゃないぞ。 断じて。 俺にだって話す奴はいるし、遊ぶ奴だっているさ。 ただ、高校の時の友達の様にそこまで深くつるんでいるわけじゃないだけで。

その所為もあり、中々参加しにくかったというわけだ。 で、そんな俺が何故今年は参加しているのかと言うと。

625: ◆IWJezsAOw6 2013/11/13(水) 23:52:56.59 ID:HY2bmXZv0
赤城「おいおい高坂。 もっと面白い反応を期待していたのに何頭抱えてるんだよ?」

こいつに誘われたからだ。

去年は特に何も言われなかったから俺も何も言わなかったんだが、今年はやけに俺を参加させたがっていて……で、参加したらこれだ。

京介「お前の企みは理解した。 頭いてえ……」

言いながら、俺は目頭をつまみ、きつく目を閉じる。

願わくは次に目を開けたときには、目の前の光景が変わっていればと。

俺はそう思い、目を開ける。

「あはは。 ありがとうございまーす!」

しかしそんなことは無く、壇上にはやはり俺の妹が居た。

626: ◆IWJezsAOw6 2013/11/13(水) 23:53:37.71 ID:HY2bmXZv0
京介「学園祭?」

赤城「そっそ。 どうせ暇だろ? 行こうぜ」

暇なのは確かだからなんとも反論できない。 せめて桐乃が家に居れば、反論できたというのに。 赤城が言った日にちは見事に桐乃から「予定があるから家を空ける」と言われていた日だった。

予定が何なのかは言っておらず、俺も対して問い質す様な真似はしなかったけど。

京介「……ま、別に良いか。 よくよく考えれば断る理由も無いし」

赤城「よし! そうと決まればメインイベントには必ず参加したいよな!?」

627: ◆IWJezsAOw6 2013/11/13(水) 23:54:23.13 ID:HY2bmXZv0
京介「しらねえよ! まず、何でお前が俺が通っている大学の学園祭に詳しいんだよ!?」

赤城「瀬菜ちゃんから色々聞いてるんだよ。 同じ大学だろ?」

京介「まーそうだけど……。 てか、それなら瀬菜と行けばいいじゃんか。 なんで俺?」

赤城「それには深い理由があるんだよ。 俺だって出来ることなら瀬菜ちゃんと一緒に行きたかった!!」

絶対、対して深い理由とかねえな。 瀬菜は彼氏と回りたいんだろうし。 その辺りの事情をうまいこと濁されて納得させられたのだろう。 惨めな奴だ。

京介「分かった分かった……。 で、そのメインイベントって何だ?」

628: ◆IWJezsAOw6 2013/11/13(水) 23:54:50.63 ID:HY2bmXZv0
赤城「知らないのか? 結構有名なはずなんだけど」

そう言う赤城の顔は割りと真剣で、その表情から大学内だけで有名な話でも無いとのことが分かる。

赤城「ま、良いか。 簡単に言うと……コンテストみたいな物かな。 ミスコンだよ」

京介「へー」

赤城「興味無さそうだなお前……。 お前が通う大学に可愛い子ばっか集まるんだぜ? 超楽しみだろ普通!」

京介「俺は別に出会いなんて求めてないし、可愛い子も見慣れたしなぁ? あやせとか」

ここでさすがに桐乃とかって言ったらマズイかもしれないので、一般的に見て桐乃の次に可愛いあやせの名前を出す。

629: ◆IWJezsAOw6 2013/11/13(水) 23:55:28.75 ID:HY2bmXZv0
赤城「それだよそれ!! あーくそ……何であやせたんが出ないんだ……」

京介「そもそもあいつ、大学生じゃないだろ……しかもモデルとして雑誌には出てるんだし、それで良いじゃんか」

赤城「そんな子が大学に来て、生で見れるのが良いんだろうが! モデルとして見るよりもっと身近に感じるだろ!?」

そう力説されても困る。 高校の時……いやまあ、大学に入ってからもか。 普通にあいつとは話しているし。

赤城「それに高坂、甘いぜ。 そのミスコンには部外者でも参加オーケーなんだよ。 だから俺はこうも悔しがっているんだ」

へぇ。 最早それ、大学のミスコンじゃなくて、ただ可愛い子を集めたいだけじゃないのか。

630: ◆IWJezsAOw6 2013/11/13(水) 23:56:51.84 ID:HY2bmXZv0
……桐乃が出たら、あいつのことだから優勝とかしちまうんだろうなぁ。 贔屓目無しでさ。

そういった何々だろうなだとか、あいつならきっとだとか、そういうのを本当にしてしまうのが桐乃だし。

京介「ま、そのミスコンとやらはどうでも良いが……参加すれば良いんだろ? お前が瀬菜と回れずに悲しんで居るのを放っとくのもあれだしな」

赤城「うるせえ。 お前だって妹と回れていないじゃねえか!」

京介「俺の場合は桐乃が忙しいからだ! だけど、俺がどうしてもって言えばあいつは一緒に来てくれると思うぜ?」

変なところで意地を張る俺。 そしてそれは赤城の意地でもあった。

631: ◆IWJezsAOw6 2013/11/13(水) 23:57:23.32 ID:HY2bmXZv0
赤城「ほ、ほお? 言っとくけどな高坂。 俺だってどうしてもって言えば瀬菜ちゃんは一緒に来てくれるはずだ!!」

京介「どうだかね~。 そんな薄っぺらい言葉じゃ信用できないな、赤城さんよ」

ぶっちゃけると俺と赤城の立場はまるで一緒のはず。 しかし何故か、俺が優位に立っているような感じだった。

赤城「……上等だ! ちょっと待ってろ!!」

赤城は勢い良く言い、俺から数歩離れると携帯を取り出し、どこかに電話を掛ける。

……大方、瀬菜だろう。 というか行動が早すぎる。 断られても知らないぞ俺は。

632: ◆IWJezsAOw6 2013/11/13(水) 23:57:51.73 ID:HY2bmXZv0
そして数分後。

案の定というか、予想通りというか、死にそうな顔の赤城が戻ってきた。

赤城「……高坂ぁ」

マジで泣きそうだ。 大丈夫かこいつ。

いやでも……気持ちは分からなくも無い……気がする。

必死に頼んで断られたのなら、尚更だし……。

633: ◆IWJezsAOw6 2013/11/13(水) 23:58:28.80 ID:HY2bmXZv0
京介「そ、そんな落ち込むな赤城。 俺もお前が電話している間に頼んだんだが……結果はお前と一緒だ」

嘘だけど。 俺の場合は嘘だけどな。 こんな状態の赤城を放って置くのはさすがに気が引けるから。

もう一度言っておくぞ、俺は桐乃に振られたわけじゃない!

ただ、先ほど打った誘いのメールの返事が「ムリ」っていう簡素な物だっただけだ。

お、俺はそんな必死に頼んだわけじゃないし。 だから赤城よりはまだマシだし。

……やべ、泣きたい。

634: ◆IWJezsAOw6 2013/11/14(木) 00:00:27.77 ID:MeHzVInG0
京介「なんか妙だとは思ったけどな……そういうことだったのか、赤城」

この大学で開催されているミスコン、そして出場している桐乃、つまりは赤城はそれを知っていて俺を連れてきたということだ。

でも、だとしたら一体どこからそんな情報を手に入れたのだろう? まさか、桐乃に直接聞いたわけじゃああるまい。 もしそうだったら、赤城には俺の許可無く桐乃と話した罪で鉄拳制裁を……。

赤城「こ、高坂。 落ち着け、お前声に出ているからな」

赤城は一歩二歩後退り、俺と距離を取る。

赤城「俺が聞いたのは瀬菜ちゃんからなんだよ。 理由は教えてくれなかったけど……お前を何とかして学園祭に連れて行けって頼まれてさ」

……ふむ。 それならまあ、確かにあり得そうな話ではある。 桐乃と瀬菜は意外と仲良くやっているみたいだし。

635: ◆IWJezsAOw6 2013/11/14(木) 00:01:08.35 ID:MeHzVInG0
赤城「んで、ここに来てよーやく分かったってこと。 お前の妹が出てきてさ」

赤城「……良いよなぁ」

京介「何がだよ……。 俺としては、なんかこう……なんとも言えない気持ちなんだけど」

赤城「いやいや、普通にお前に対するサプライズみたいなもんだろ? 瀬菜ちゃんも実は出てたり……」

そう言いながら、辺りをきょろきょろと見回す赤城。

そうか、サプライズか。

桐乃からのちょっとしたプレゼント。 そう考えると……まぁ、嬉しいけど。

だから桐乃は俺からの誘いを断って、今日は用事があると言っていたのか。

……全く馬鹿な奴だ。

636: ◆IWJezsAOw6 2013/11/14(木) 00:02:34.98 ID:MeHzVInG0
そんなことを思いながら、軽く泣きそうになる俺。 ここで泣いたら赤城から相当な変人扱いをされかねないので、必死に堪えるが。

「えー、それではメインイベントに移りたいと思います!!」

司会がマイクを通し、会場全体に通る声で唐突にそう言うと、再びボルテージは最高潮へ。

というか、メインイベント? 桐乃でどうやら出場者は最後だったみたいだし……これで結果発表的な物をして終わりじゃないのか?

その結果発表がメインと言えばそうかもしれないが……なんだか、嫌な予感がする。

「まずは結果発表からで~す! とは言っても、決めて頂くのは皆さん!」

「この子が一番だ! と思った人の時に、目一杯拍手をお願いします! 今年はかなりレベルの高い子が多いので、面白くなりそうですね~」

等と言いながら、司会はどんどんと話を進める。

637: ◆IWJezsAOw6 2013/11/14(木) 00:03:08.46 ID:MeHzVInG0
会場も司会が話す度に歓声を上げ、確かにこれは毎年かなりの盛り上がりと言われているのも頷けるな。

どうやら隣に居る赤城はすっかりそれに呑まれて、司会が参加者を紹介する度、歓声と拍手を送っていた。

……いや、お前は一人に決めろよ。

「それでは次の方! きりりんさんどうぞ~!」

そう桐乃の名前が呼ばれた瞬間だった。

638: ◆IWJezsAOw6 2013/11/14(木) 00:03:35.62 ID:MeHzVInG0
会場の雰囲気は一気に変わり、まるで人気グループのライブ会場にも感じられるほどの熱気に包まれる。

ライブ会場というよりは、男性アイドルがサプライズで登場して一気に盛り上がる感じの方が近いかもしれない。 まるで会場が揺れているかの様な錯覚を覚えるほど。

俺も当然、桐乃の時に拍手を贈ったのだが……この分じゃ多分、あいつには届いていないだろう。

「……はは、凄いですね。 もうこれ、優勝で良いですね!」

司会がそう言い参加者達の方に顔を向けると、皆一様に首を縦に振っていた。 そりゃあまあ、雑誌にも出る様な奴だしな……。 こう言っちゃ悪いが、スポーツで例えると素人の集団に一人だけプロが混じって試合をしている様な物だろうさ。

との訳で、とんとん拍子に桐乃は優勝ということになったのだが。

639: ◆IWJezsAOw6 2013/11/14(木) 00:05:23.65 ID:MeHzVInG0
問題はこの後だ。

「皆さん静かにー! それでは優勝者も決まったところで、賞品を賭けたゲームを始めたいと思いまーす!!」

……ゲーム? なんだ、そういう遊び要素も含まれているのか。

赤城「へへ。 高坂、頑張れよ」

京介「……頑張るって、何が?」

赤城「え? お前しらねえの……ってそうか。 高坂、このイベント自体知らなかったのか」

赤城の言葉が終わるか終わらないかくらいのところで、司会から再び声が発せられる。

640: ◆IWJezsAOw6 2013/11/14(木) 00:06:01.73 ID:MeHzVInG0
「今年の賞品はコレ! なんと、今年の優勝者と一日デートが出来る権利です!!」

おお、確かにそれはすごい賞品だ。 なるほど。

そりゃ、ミスコンで優勝出来るほどに可愛い奴とデートできるなんて、男だったら是非とも獲得したいだろうしな。

……いやいやそうじゃねえ! なんだって!?

「は、はぁ!?」

桐乃もどうやら、それは知らなかったらしい。

641: ◆IWJezsAOw6 2013/11/14(木) 00:06:55.54 ID:MeHzVInG0
赤城「……お前の妹、なんも確認しないで参加したんじゃないか?」

その言葉から考えるに、しっかりと事前に説明はあるとのことだろうな。 あいつ絶対、周りが見えない状態になっていただろ……参加するとき。

いつにも増してお洒落をしている桐乃は壇上に設置されている椅子に大人しく座っていたのだが、その司会の言葉を聞いて立ち上がると、一気に司会へ詰め寄っていた。

俺の場所からは全くどんなやり取りなのかは聞こえない。 しかし数分話した後、桐乃はここから見ても分かるくらいに肩を落としながら、自らの椅子へと戻り、座った。

……落ち着いた、とはとても言えない状態だ。 明らかにそわそわしているし、手を忙しなく動かしている。

ああくそ! なんだか知らんが面倒なことになったのは違いねえ。 とりあえず今やるべきこと、だ。

642: ◆IWJezsAOw6 2013/11/14(木) 00:07:48.64 ID:MeHzVInG0
桐乃に期待するのは……少し、厳しいだろう。 いざとなったらあいつは相手をこれでもかってくらいに振るだろうが……それは同時に、桐乃に泥を被せてしまうことにもなる。

自業自得と言えばそうかもしれない。 だけど、俺はそんなんで納得できやしない。

なるべく何事も無く無事に、桐乃に変な噂が流れないように、解決しないと。

俺としては、勿論桐乃が良く分からない奴とデートなんてありえないと思っている。 だから、つまり。

京介「赤城、お前か俺か、絶対に勝つぞ」

赤城「おうとも! お前の妹可愛いしな。 デートできるならそりゃ頑張るぜ!」

京介「ちげーよ! お前が優勝したら権利を俺に譲れ。 分かったな?」

643: ◆IWJezsAOw6 2013/11/14(木) 00:08:34.09 ID:MeHzVInG0
赤城「……なんだ高坂。 お前、妹とデートしたいのか?」

京介「だったら聞くぞ。 お前は瀬菜が良く分からない奴とデートしていてもいいのか?」

赤城「……」

赤城は少しの間黙り、思考する。

その間、約2秒ほど。

赤城「高坂! お前の気持ちは良く分かった! 俺が勝ったら権利をお前に譲ってやる!! そして真壁の野郎はいつか絶対にしばく!!」

一体どんな想像をしたのかは詳しく考えたく無いが、乗ってくれたならそれで良しとしよう。

待ってろ桐乃。 必ず、どうにかしてやるからな。

644: ◆IWJezsAOw6 2013/11/14(木) 00:09:59.88 ID:MeHzVInG0
そして時間は経過し、ゲームが始まって数十分が経とうとしていた。

ゲームの内容は簡単な○×ゲームで、司会が出した問題に○か×かで分かれるという、良くあるゲームである。

問題が簡単な内は赤城と俺とで一緒の場所で、見事に正解していったのだが……。

意外にも後半になると難易度が馬鹿みたいに上がり、元々頭の出来が良くない俺と赤城は結局、途中で分担作戦を決行し、今残っているのは俺だけというわけだ。

「それでは、次の問題です!」

「いよいよ大詰め、と言った感じですね」

司会が言うように、残っているのは俺を含めても数人。 片手で数えられるほど。

645: ◆IWJezsAOw6 2013/11/14(木) 00:11:19.11 ID:MeHzVInG0
桐乃は途中で俺が参加していることに気付いたようで、祈るように手を合わせ、目を瞑っていた。

何を祈っているかなんて、考えるまでもないだろう。

それよりも最初はこの空間に大勢居た人が、今は殆ど居なくなっているのがなんだか寂しくもある。

まぁ、見ているだけの方からしたら、ミスコン優勝者とデート出来る奴の顔を見たところで、面白くもなんとも無いから出て行ったのだろう。

今残っているのは多分、余程の物好き達というわけだ。

「問題!」

「もう皆さんもお酒を飲む年でしょう。 飲んでいない方もいるとは思いますが」

「サークルでの飲み会などもありますし、それにちなんだ問題です!」

646: ◆IWJezsAOw6 2013/11/14(木) 00:12:35.70 ID:MeHzVInG0
「カクテルとして有名なゴッドファーザーですが」

やべぇ、何言っているんだこいつ。

「作り方はウィスキーとアマレットを混ぜた物である! ○か×か!」

知らねえよ! 大学生でそんなの知ってるなんて、よっぽどの酒好きかそっちの道を目指している奴だろ!!

くそ、どうする。 赤城は……。

半ば助けを請うように、遥か後ろで見物している赤城に視線を送ったのだが。

頭をぼりぼりと掻き、謝るジェスチャー。

647: ◆IWJezsAOw6 2013/11/14(木) 00:13:51.00 ID:MeHzVInG0
まぁ、分かっていたら逆に凄いとは思うけども。

頼みの綱の桐乃は、どうやら全く知らないらしい。 先ほどの祈る姿勢から変化が無い。

仕方無い。 ここはもう運頼み……。

そう思って、○の方へ行こうとした時だった。

参加者は俺を含めて四人なのだが、その殆ど全員が焦る中、一人だけそそくさと×の方へ移動する奴を見つけた。

……あいつ、もしかして知っているのだろうか?

だとしたら、あいつに付いて行くのが正解だ。 確率が五分なら、少しでも可能性が高い方に移るべき。

そんな経緯があり、参加者四人は分かれ終わる。

648: ◆IWJezsAOw6 2013/11/14(木) 00:14:32.82 ID:MeHzVInG0
×には三人。 ○には一人。

なるほど。 これが多数決勝負なら勝ちだが……ま、可能性はこっちの方がありそうではある。

しかし、生憎そう上手くは行く物では無い。

「正解は———-」

「○です!」

ミスコン 前編 終

676: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:02:18.13 ID:bVGBZrlT0
どうする。

「いやー、決まっちゃいましたね。 それでは、正解の方はこちらへ来てください!」

視界の隅で、その正解者が舞台の方へ歩いていくのを捉えながら、俺は必死に考えていた。

何をするべきか。

桐乃の方を見るのが怖く、あいつがどんな顔をしているのかを見るのが嫌で、ゆっくり目を瞑る。

落ち着け。

どうにかするんだ。

677: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:02:56.08 ID:bVGBZrlT0
……それとも、これは俺が我侭なだけなのだろうか。

普通に考えれば、事前にどんな内容だったかチェックしておかなかった桐乃が悪い。

そして、このイベントで負けてしまった俺も悪い。

だから、自業自得。

そういうことなのだろうか?

心の奥底で、頭の片隅で、思って。 目を開けた。

678: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:04:05.65 ID:bVGBZrlT0
丁度視界の真ん中に桐乃が居て。

ここからは大分距離が離れているが、見えた。

未だに諦めず、祈るように手をきつく組んで、目を閉じている桐乃の姿が……見えた。

俺は一体、何を諦めているのだろうか。 こんな状況で、何もしないでぼーっと立っていれば誰かが助けてくれるなんてことは無いんだ。

どうにかするのは、出来るのは多分、俺だけ。

……だったら!

679: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:05:29.06 ID:bVGBZrlT0
桐乃は俺の妹で、俺の家族で、俺の大切な人なんだよ。

そんな桐乃があれほど助けを求めているのに、放っておけるわけがない。

京介「ッ!」

地面を思いっきり蹴り、走る。

向かう場所は勿論、桐乃のところ。

誰よりも早く、桐乃の下へ向かう為に。

680: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:07:27.34 ID:bVGBZrlT0
遠く思えた距離はあっという間に縮み、俺は壇上へと飛び乗る。

周りが一瞬呆気に取られ、動きが固まっているのが分かった。 それもそうだ、ここに居る誰もが「一体こいつは何だ?」と思っているのだろうから。

しかしそれはどうやら違ったようで、この場に限っては二人ほど例外が居たらしい。

一人は。

桐乃「京介!」

桐乃だ。

681: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:08:09.11 ID:bVGBZrlT0
桐乃は俺が近づいてきたことにすぐ気付くと、駆け寄ってきた。 このまま一緒に走って逃げても良いのだが、生憎桐乃は舞台衣装っぽいひらひらとした服を着ている。 そんな状態では多分、走ったとしても転ぶ可能性が高いだろう。

京介「……少し我慢しろよ。 緊急事態だ」

桐乃にそう告げ、抱き上げる。

そうした瞬間こそ恥ずかしそうに桐乃はしていた物の、すぐに自分ではうまく走れないことを理解したのか、俺の首へと両腕を回す。

全く……これじゃあまるで誘拐犯だぞ。 当初よりは大分人が減ったので、目撃証言は少なくて済むが……明日からの大学生活が少しだけ心配だなぁ。

なんてことを考えているときに、一瞬の内に視界が奪われた。

なんだ? 停電……なのか?

682: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:08:42.44 ID:bVGBZrlT0
いや、違う。

恐らく誰かが照明を落としたのだろう。 それをやりそうな奴を俺は知っている。

……それをやったのはもう一人居た例外。 赤城だ。

恐らく、俺がこの行動をすると予想が出来ていたのだろう。 妹大好きなあいつのことだし。

結局俺も、そうなんだけども。

しかしこれは助かった。 この暗闇に乗じて行けば、誰にもばれずに桐乃と脱出できる。

京介「……よし!」

こうして俺は桐乃を抱えたまま、ミスコンの会場を後にするのだった。

683: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:10:18.36 ID:bVGBZrlT0
京介「はぁ……はぁ……ここまでくりゃ、大丈夫だろ」

あれから大分走り、今は大学から遠く離れた場所。 途中で通行人などから奇異の目で見られてた気がするが、気にしないでおこう。

通りかかった公園に入り、そこにあったベンチで休憩。

桐乃「……はー。 マジでびっくりした」

桐乃はそんなことを呟きながら、ベンチへと腰を掛ける。

684: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:11:05.77 ID:bVGBZrlT0
京介「俺はそれプラスめっちゃ疲れたぞ……」

桐乃「少し走っただけじゃん。 あれくらいで根をあげないでよ」

そりゃ俺だって多少は鍛えたりしているから一人で走る分には問題無さそうな距離だったけど、お前を抱えて走ってたんだよ! 疲れない方がおかしいだろうが!

との思いを桐乃に向ける。 勿論、口に出したら怒られると思うから視線で、だ。

桐乃「……なに。 もしかしてあたしが重かったからとか言いたいワケ?」

どうやらお見通しだったらしい。 怖いなこいつ。

685: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:11:55.36 ID:bVGBZrlT0
京介「そんなわけないだろ? めちゃくちゃ軽くて心配になったくらいだぜ」

うむ。 ここはとりあえず持ち上げておくべきだろうな。 一旦は。

桐乃「へえ。 よし……」

桐乃は言うと、立ち上がる。

京介「どうしたよ?」

桐乃「良いから、早く立って」

一体何をする気なのだろうか。 そう思いつつも、俺は言われた通りに立ち上がる。

686: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:12:51.38 ID:bVGBZrlT0
桐乃「……」

すると桐乃は無言で俺に両手を向ける。

京介「……ん?」

桐乃「……軽いんでしょ? なら家まで運んで」

前言撤回しよう。 確実に持ち上げるべきではなかった。

京介「……マジか?」

桐乃「マジマジ。 ひひ」

大学からここまで、家の方向とは正反対に走ってきたから……。

いやいや、結構な距離あるんすけど。

687: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:13:23.97 ID:bVGBZrlT0
京介「……途中で倒れたら後は頼んだぞ」

桐乃「だいじょーぶだって。 そしたらあたしは歩いて帰るから」

京介「お前のことじゃねえよ! 俺の体のことを言ってんの!」

桐乃「……うーん。 まあ、仕方ないから救急車くらいは呼んであげてもいいよ」

笑いながら言うんじゃねえよ。 どれだけ小さな優しさだこれ。

京介「ったく。 俺は折角お前を助けてやったってのによー」

688: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:14:59.23 ID:bVGBZrlT0
桐乃「助けてなんて言って無いし~?」

京介「お前なぁ……」

桐乃「ベツにいいでしょ? 京介満足してるし?」

……まあそうだけどな! そうだけどなんか違う!

桐乃「それとも「大好き!」とか言って欲しかったワケ?」

その「大好き!」って言葉自体が冗談だとしても、俺はなんだか恥ずかしくなってくるぞ。

京介「……へいへい。 んじゃ、帰るとするか」

689: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:15:28.12 ID:bVGBZrlT0
俺は言い、桐乃を抱き上げる。

ちなみに今は夕方。 夏が近いこともあり、日は大分伸びてきているので意外と明るい。

一般的な家庭ならば、そろそろ夕飯となりそうな時間帯だ。

「ねえねえ、なにあれー?」

散々な目に遭ってしまった所為で、そして必死にここまで走ってきた所為で、全く回りが見えていなかったのだが……。

見ればどうやら、この公園は近所の子供たちが集まって遊ぶ場になっていたらしい。 それを証明するかの如く、小さな子供とそれを迎えに来た母親たちが俺と桐乃のことを遠巻きに見ていた。

京介「……」

桐乃「……降ろして」

690: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:16:13.40 ID:bVGBZrlT0
アニメや漫画の世界でしか見なかった「なにあれ?」「しっ。 見ちゃ駄目よ」を目の前でやられた俺と桐乃の気持ちは多分、これでもかと言うくらい一緒だったと思う。

俺としては助かったが……どうやら妹様は納得が行かなかったらしい。 勿論、恥ずかしいという気持ちはあったと思うけど。

仲良く家に向けて歩き出した俺たちだったのだが、ようやく家まで半分ほど歩いたところで、桐乃が唐突に口を開いた。

桐乃「で、結局何も聞いてなかったケド……どうだった?」

京介「……ん。 えーっと……ミスコンのことか?」

桐乃「そっそ。 何か感想とか無いワケ?」

691: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:17:18.23 ID:bVGBZrlT0
京介「……ま、ぶっちゃけて言うと桐乃だからなぁ。 優勝するとは思ったけどさ」

桐乃「真顔でそれを言われるとさすがに恥ずかしいっての……って、そうじゃなくて」

桐乃は若干顔を赤らめながら、そっぽを向きながら言う。

桐乃「あたしが出て、驚かなかった?」

京介「驚いたに決まってんだろ……最初は良く似た奴が居るもんだと思い込んでいたけどよ」

というよりは、自分に言い聞かせていたと言った方が正しいだろう。 だってマジで信じられなかったしさ。

692: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:18:07.87 ID:bVGBZrlT0
桐乃「んで、その後は?」

京介「その後って……」

京介「……まあ、そりゃ嬉しかった」

桐乃「ひひ。 そっか」

それは本当に正直な気持ちだ。 桐乃が俺を驚かせる為にやってくれて、嬉しかった。

京介「だけど、少しは事前に確認しとけって……お前、相当テンパってただろ?」

桐乃「そりゃね……でも、結構落ち着いてたかも」

693: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:18:39.14 ID:bVGBZrlT0
京介「どう見てもそうは思えなかったが……」

桐乃「うっさい。 心の中では落ち着いてたんだって」

京介「ふうん? どして?」

桐乃「秘密~。 えへへ」

桐乃は機嫌が良さそうに、言う。 なんとなくは分かってきたが……これはなんとなくのまま、終わらせておこう。

694: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:19:09.49 ID:bVGBZrlT0
桐乃「てか、それより!」

京介「な、なんだ?」

桐乃は俺の方へ向き直ると、指を差しながら告げる。

桐乃「折角優勝したのに、何も貰えなかったんだよね」

まあ、逃げてきたわけだしな。

桐乃「でもさ、優勝したあたしが何も貰えないっておかしくない? 理不尽だよね?」

どちらかというと、一番理不尽な目に遭ったのはさっきのイベントの○×ゲームで勝ち残った奴だろう。 あいつにとっては、本当に時間の無駄になっただろうし。

695: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:19:51.28 ID:bVGBZrlT0
桐乃「だから、京介」

京介「……何か寄越せってことか?」

桐乃「お! さっすがぁ。 分かってんじゃん」

台詞だけ聞くと、まるで喝上げされているみたいだ。

……妹に喝上げされる兄貴。 なんとも情けない響きである。

京介「うーん……」

桐乃「何か無いの?」

696: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:20:24.52 ID:bVGBZrlT0
京介「じゃあ、そうだな」

俺から桐乃にあげられる物なんて大した物では無いが……。

俺は桐乃の肩を掴み、顔を若干近づける。

京介「大好きだ。 桐乃」

桐乃「なっ……」

桐乃は口をぱくぱくさせ、声にならない声を出しながら、顔を真っ赤に染める。

ほんと、一々反応が愉快な奴だな。

697: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:20:51.05 ID:bVGBZrlT0
桐乃「不意打ちはやめろっ!!」

思いっきりビンタされた。 前言撤回だ。 一々反応が恐ろしい奴にしておくべきだろ。

……なんだか今日は、自分の発言を撤回することが多いな。 もう少し責任を持って発言するべきなのだろうか。

京介「いってえ! お前それはひでえよ!?」

桐乃「あ、あんたがいきなりゆうからでしょ!!」

どれだけ恥ずかしがっているんだよ。 さすがにもう慣れて欲しいのだが。

698: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:21:38.27 ID:bVGBZrlT0
京介「……わ、悪かったな」

とは口では言った物の、ぶっちゃけかなり納得がいかないぜ。

だって、この前こいつに「桐乃、今からお前に好きって言うぞ」と言ってから先ほどの台詞のようなことを言ったのだが、こいつの反応はこうだ。

「……なんか予め言われると感動薄いかも」

びびる。 それで今日この反応だからな。 いやでも感動してくれているってのは分かったから良いのか……?

絶対よくねえ! 危うく叩かれたことを良しとしてしまいそうになった!

699: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:22:12.54 ID:bVGBZrlT0
桐乃「……」

桐乃はそう言った俺の顔をじっと見つめる。

京介「な、なんすか? 謝っちゃ駄目だった……とか?」

桐乃「……そうじゃないケド」

桐乃「京介って、絶対あたしのこと責めないよね?」

京介「……そうか?」

京介「つっても、かもしれないな」

桐乃「シスコンシスコン」

700: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:22:54.94 ID:bVGBZrlT0
……否定できねえ。 最早否定するつもりも無いけど。

にしても、俺が桐乃のことを責める……ねえ。 一昔前ならあり得たかもしれないが、今の状態だとよっぽどのことが無ければそうはしないだろうな。

それは言ってしまえば逆でも成立しているんだが。 桐乃も俺を責めるようなこと、しないし。

黒猫に言わせてみれば「それはさすがに勘違いだと思うわよ……」なんてことを言われそうではある。 しかし、桐乃も本気で俺を責めるようなことはしていないんだよな。

京介「ブラコンが何言ってるんだか」

俺が言うと、桐乃は一瞬だけむっとした表情をする。 だがそれも一瞬だけで、すぐにニヤニヤと笑い始めた。

桐乃「へえ? ふうん?」

701: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:23:28.33 ID:bVGBZrlT0
あー、嫌なパターンだな……。 こいつの表情と言い方からして、絶対に何かしら企みがあるぞ、これは。

京介「……謝ったら間に合う?」

桐乃「ふひひ。 間に合わない」

時既に遅し。

桐乃「……ねえ、京介」

京介「な、なんでしょう?」

桐乃「あたしさぁ、ブラコンだからぁ? お兄ちゃんが大好きなのぉ」

702: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:24:06.11 ID:bVGBZrlT0
語尾をわざとらしく伸ばし、桐乃は続ける。

桐乃「んでぇ、話変わるケド……一応、ミスコン優勝したじゃん?」

京介「……んむ」

桐乃「ふひひ。 ご褒美ちょーだい」

そう言うと、桐乃は俺の方に真っ直ぐと顔を向けたまま、目を瞑った。

ふと、ここでそのまま放っておいて帰ったらこいつはどんな反応をするのだろうか、なんて意地悪な思いが浮かんでくる。

……うーむ。

703: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:24:54.30 ID:bVGBZrlT0
間違いなく後で酷い目に遭わされるだろう。 それは避けておくに越したことはない。

それに、ぶっちゃけ俺に対するご褒美じゃん! そう考えると急にドキドキしてきたな。

京介「……」

しかしあれだ。 最近では桐乃に良い様に手玉に取られている感があるからなぁ。

なんとか仕返しをしたい。

……よし。

俺はそのまま桐乃に顔を近づけ、キスをする。

口では無く、頬に。

704: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:25:27.95 ID:bVGBZrlT0
すると桐乃はすぐさま目を開け、こう言った。

桐乃「……違くない!?」

京介「あ~。 そうだったのかぁ~。 悪いな~」

わざとらしく言うと、俺は先に歩き始める。

それにしても、むすっとした表情も普通に可愛いから驚くぜ。 そんな表情をされてしまっては、なんだか胸が痛いじゃねえか。

桐乃「……ふん」

と言いながら、桐乃は少し駆け足で俺のすぐ後ろを歩く。

705: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:26:28.71 ID:bVGBZrlT0
京介「あ」

桐乃「ちょ、急に止まらないでよ」

桐乃は俺の背中にぶつかり、そう文句を言ったのだが。

俺は振り向き、桐乃にキスをしてやった。 勿論、口に。

桐乃は驚いて目を開き、それでも少しすると、ゆっくり目を瞑る。

……それから少しの間、俺と桐乃はキスをしていた。

706: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:26:54.34 ID:bVGBZrlT0
桐乃「……」

京介「……」

先ほどからずっとこの調子。 桐乃はそっぽを向いて、俺の方を向きやしない。

さっきまであれだけ素直にしていたってのに……分からない奴だ。

一応それでも、俺の腕を掴んではいるんだけどな。

京介「……怒ってんのか?」

桐乃「……なワケ無いでしょ」

707: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:27:35.44 ID:bVGBZrlT0
京介「だろうな」

桐乃「分かってるなら一々言わないで」

あー。 マジやべえ、こいつ可愛い。

京介「へいへい。 悪かったよ」

言い、桐乃の頭を撫でる。

ほんの一瞬、猫のようにふにゃっとした表情になった後、むすっとした顔をする。

しかしそれでも、何故か俺との距離を少し詰めてきたな……こいつ。

708: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:28:12.39 ID:bVGBZrlT0
ま、こんな感じで一件落着と言ったところだろう。

俺は俺のやり方でなんとかうまく纏められた気はするし、誰の力も借りないで……とは、とてもじゃないが言えないけれど。

それに関しては、赤城にしっかりとお礼をするとしよう。

……別に変な意味では無いぞ? 瀬菜じゃあるまいしな。

にしても、もうすぐ夏か。

桐乃と一緒になってから二回目……か? お互いが本音を伝えてから、数えたとしたら。

709: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:28:38.71 ID:bVGBZrlT0
そんなことをふと空を見上げ、思う。

そして未だに薄っすら明るい空から、夏の香りが漂っているのを感じた。

後幾らかしない内に、やがて季節は変わるのだろう。

確実に時間は経過するし、誰もそれを止めることは出来ない。 だから俺は、精一杯こいつと一緒に楽しんでいきたい。

勿論、それで学業を疎かにはしないけど。

……それを気をつけないといけないのは俺の方だろうな。 桐乃は絶対に大丈夫だろうし。

桐乃「ねえ、京介」

710: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:29:20.64 ID:bVGBZrlT0
そんな桐乃が唐突に口を開く。 俺は一度足を止めると、桐乃もすぐに足を止めた。

何故そうしたのかと言われれば、そうだな。 なんとなく、桐乃が大切なことを言おうとしている雰囲気が、俺に伝わったのだろう。

しっかり正面から聞かないといけないことだと、思ったから。

京介「どうした?」

俺が聞くと、桐乃は俺を掴んでいた腕を離し、自身の胸に手を当てる。

桐乃「……ありがと。 今日は、ほんとにありがとね」

この言葉はきっと、桐乃が今日ずっと俺に伝えたかった言葉なのだろう。

ミスコン 後編 終

753: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:35:10.39 ID:GVwU+c2+0
12月24日、クリスマスイブ。

その日は俺にとって特別な日であり、それはきっとあいつも同じことだろう。

今から丁度一年前、今までは特になんとも思わなかった日が、特別な日へと変わった。

そして今日はその日であり、俺は起きて早々に意識せずにはいられなくなっている。

京介「……ううむ」

ベッドの上に座り込み、考える。

754: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:35:50.29 ID:GVwU+c2+0
京介「普通に挨拶するべきか……? それとも、何か気が効いたことを言った方が良いのか……?」

朝の7時、窓から見える爽やかな青空とは違い、俺はどうしようも無く悩んでいた。

悩んでいることは一つ。 この『特別な日』である今日……その相手にどうやって挨拶をすればいいか、だ。

つい昨日までは普通に会話をしていたし、お互いに敢えて言い出さなかったのかもしれないが、この日に関してのことは何も話など無かったのだ。

あいつ……桐乃は今、俺と同じ様に悩んでいるのか?

……俺にどう挨拶すれば良いのか悩んでいる桐乃か。 妹ながら、ちょっと可愛く思えてくる。

まあ、俺があいつのことを可愛いと思っているのは今に始まったことでも無いけれど。

755: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:36:17.04 ID:GVwU+c2+0
京介「……あーくそ! 悩んでいても埒が明かねぇ!」

……よっし。 めちゃくちゃ爽やかに挨拶してやろう。 俺はやれば出来る男のはずだからな。 へへ。

京介「……ふー」

一度深呼吸をし、立ち上がる。

目指す場所は我が家の一階。 桐乃は恐らく、ソファーで雑誌でも読んでいるだろう。 さっき下に向かっていく足音が聞こえたしな。

こうして俺、高坂京介の一日が始まった。

756: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:36:43.21 ID:GVwU+c2+0
京介「……」

とりあえずは様子見も兼ねて、無言でリビングへと繋がる扉を開ける。

確か昨日の夜、お袋は近所の人らとどこかへ出掛けると言っていたっけか。 親父はいつものことだが、仕事で出ているだろう。

ってことは、この家に居るのは俺と桐乃だけで、ぶっちゃけて言うとそれはある意味好都合だったのかもしれない。

やがて視界が開かれ、リビングにいつも通り居る桐乃の姿が……。

757: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:37:10.67 ID:GVwU+c2+0
京介「ねえ!?」

ちょ、ちょっと待て。 これはさすがに予想外だ。 なんでいねえんだよあいつ!?

京介「……落ち着け落ち着け。 どうせすぐに戻ってくるだろ」

多分、風呂にでも入っているのかもしれない。 ここでエロゲの主人公だったら風呂場まで確認しに行く常識の無さを発揮するのだろうが、生憎俺は常識を弁えているからな。

決してびびっているわけではない!

758: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:37:36.32 ID:GVwU+c2+0
それから待つこと数分。

京介「……来ないな」

もしかして、この日の出だしから俺は間違えたのか?

桐乃が居ない理由……か。 あり得るとしたら、あいつがやっているモデルの仕事ってところだろう。

……だけど、なんか釈然としない。

あいつが今日この日に限って、仕事を入れると思えない。 はっきりとした理由は分からないけど、なんとなくそう思うだけ。

759: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:38:03.64 ID:GVwU+c2+0
京介「……ん。 ちょっと待てよ」

俺はこのリビングに来てから、ずっとソファーに座って桐乃のことを待っていたのだが……わざわざ家中を探すより、手っ取り早く桐乃が外出しているか否か分かる方法があったじゃねえか。

出掛ける時は当然靴を履くだろうから、玄関に桐乃の靴が無ければアウトで、あればセーフってこと。

京介「うっし」

そうと決まれば善は急げ、確認。

760: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:38:31.29 ID:GVwU+c2+0
京介「……はぁ」

結果から言うと、靴は無かった。

つまり、あいつはどこかへ出掛けているということだ。

京介「くそ……」

気分的には、出鼻を挫かれた感じ。 俺のプランだともう既に、二人で今日のことを話しているはずだったのだが……。

それが未だに、挨拶すらできていない。 下手したらそれすらままならないまま、今日が終わってしまう可能性さえある。

……それは駄目だ! ていうか、それはあいつも分かっていると思うんだけどな。

761: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:38:58.00 ID:GVwU+c2+0
一応、その、なんだ。 俺と桐乃の間には色々あったわけだし。

そんな感じで玄関前で、一人色々と想像してニヤついたり顔を赤くしているときだった。

桐乃「ただいま……って何してんの?」

俺が今一番会いたい奴が目の前に現れた。

京介「お、おう!?」

762: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:39:23.87 ID:GVwU+c2+0
ええっと、つまりこれはどういうことだ。

桐乃はどこかへ出掛けていて、帰ってきたってことか? そうとしか考えられない状況だし。

それに、右手に持っている袋からなんとなくそれは分かるわけだし。

……よし、よし。 まずは落ち着け。 当初の目的を思い出そう。

つうか、俺はなんでこんな緊張しているんだ! 相手は妹だぞ!? そりゃまあ、俺にとっては色々思うところもあるのは事実だけども!

えーっと……。 そうだ。

まずはあれをするべきだろう。 最初に会ったときしようと思っていた挨拶。

763: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:39:50.63 ID:GVwU+c2+0
京介「……桐乃」

一度咳払いをしてから、桐乃の名前を呼び、顔を正面に見据える。

何度見ても整った顔立ちで、外の寒さの所為なのだろうか。 頬の辺りが少しだけ赤くなっている。

当の桐乃は、俺が何を改まっているのか分かっていない様子で、きょとんとした目を俺に向けていた。

京介「桐乃、メリークリスマス」

こうして俺はその日にするべき挨拶を桐乃に向けてする。 これを言えば、こいつは今日の日のことを嫌でも考えなければいけないし、俺も後には引けなくなるから。

そんな意味も込めて、俺は言ったのだ。

764: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:40:22.51 ID:GVwU+c2+0
んで。

それに対する桐乃だが、こいつが何て言ったか分かるか? よし、教えてやろう。

桐乃「その、京介」

桐乃「……クリスマス、明日だけど」

本当に、正しくその通りである。

765: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:41:16.36 ID:GVwU+c2+0
京介「……で、それは?」

あれから少し経ち、俺と桐乃はリビングにあるテーブルを挟んで、向き合って座っている。

桐乃「これ? 朝ご飯」

京介「朝ご飯? ああ……それでお前、居なかったのか」

桐乃「お母さん出掛けるって言うからさ、なんか無いとあれだし」

ふうん。 冷蔵庫になんか無かったのかね? 朝飯くらい適当に作れば良い物を。

766: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:41:42.70 ID:GVwU+c2+0
桐乃「冷蔵庫になんも無かったしね。 買ってきたってこと」

俺の考えを読んだかの様に、桐乃は言う。

なるほどね。 その辺りを事前にチェックするしっかり具合はさすがの桐乃ってところか。

てか……そういえばこいつ、料理の方はアレだったんだっけか?

桐乃「……なんか失礼なこと考えてない?」

京介「全然」

桐乃「……チッ」

767: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:42:09.52 ID:GVwU+c2+0
そう睨むなよ。 もっと仲良くやろうぜ桐乃さんよぉ。

京介「つか、それなら俺もなんか買って来るかな……」

こんな寒い中、コンビニまで歩くのさえ苦痛だけども。 何も無いんじゃどうしようもないし。

俺は言いながら立ち上がり、扉へと手を掛ける。

桐乃「……ちょっと待って」

京介「ん?」

今から極寒の地へ繰り出すというのに、引き止めてくれるなよな。

768: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:42:52.04 ID:GVwU+c2+0
桐乃「その、あるから」

京介「……ある? って、何が?」

桐乃「……あんたの分も、買っといた」

あれ?

もしかして、今日って4月1日だったりすんのか? 俺が勝手に12月24日だと思い込んでたのか?

いやでも寒いしな。 それに桐乃はさっき「クリスマスは明日」って言っていたし。

ってことは、だな。

769: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:43:18.87 ID:GVwU+c2+0
京介「……お前が俺に!?」

桐乃「……そ、そんな変?」

俺の驚きっぷりが予想外だったのか、桐乃は少しおどおどと言う。 多分、俺が思うに恥ずかしさってのも混じっているんだろう。

京介「い、いや……変じゃねえけど」

桐乃「ふん。 あっそ」

つんと顔を逸らす桐乃。 そんな仕草も、今となっては大分可愛く見えてくる。

京介「むしろ嬉しいくらいだっての」

俺は桐乃の隣まで行くと、そう言いながら頭を撫でる。

対する桐乃は「手を退けろ」だの「気安く触らないで」だの言わずに、黙って顔を逸らし続けるのだった。

770: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:43:45.24 ID:GVwU+c2+0
なんとなくの流れで二人一緒に朝飯を食い始め、食べている間に会話こそ無かった物の、悪くは無い雰囲気でもあった。

むしろ、どちらかと言うと心地良いくらいの。

ちなみに、俺の分と言い手渡された物は殆ど俺の好物だったのもあり、かなり上機嫌である。

京介「……ほんとありがとな、桐乃」

桐乃「ちょ、何泣きそうになってんの?」

京介「お前って、すっげえ優しい奴だったんだなって思ってさ」

771: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:44:10.67 ID:GVwU+c2+0
桐乃「ば、馬鹿じゃん? ったく」

桐乃「……それくらいで一々喜ばないでよ」

京介「へへ。 次は桐乃の手料理が食いたいなあ」

桐乃「……ふ、ふうん」

さて、余談。

772: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:44:36.70 ID:GVwU+c2+0
この日から数日後、具体的に言うと年が明けた頃の話だが……。

今日の様に両親が居ない時、桐乃が本当に飯を作ってくれたのだ。

俺はすっげえ嬉しくて、味なんか気にせずに食べきったんだよな。

ちなみにそれから数日間、俺はベッドの上から動けなくなってしまったが、それは桐乃の料理とは関係無いと言っておこう。 兄として。

773: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:45:07.68 ID:GVwU+c2+0
桐乃「おっし」

桐乃は飯を食い終わると、後片付けをし、急に立ち上がる。

京介「どした?」

桐乃「あたし部屋戻るから、なんかあったら声掛けて。 って言っても緊急時以外は呼ばないでよ?」

京介「構わんが……部屋で何すんの?」

桐乃「ふっふっふ。 良くぞ聞いてくれた! ふひひ」

ああ、大体予想付いたわ。

774: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:45:39.10 ID:GVwU+c2+0
桐乃「じゃーん! クリスマス新作エロゲー! 『聖夜の願い、妹よ永遠に』!」

桐乃「これはね、ヒロインの夜ちゃんがもうすっごく可愛いの!! PVの時点でかなりやばかったの!」

桐乃「お兄ちゃんに対して素っ気無い態度を取ってるんだけどね、その裏ではずっっっっと! お兄ちゃんの為にって頑張ってるんだよ!? チョー健気じゃない!?」

興奮して力説しているところ悪いが、そのヒロインは多分死ぬと思う。 タイトル的に。

桐乃「そんで、クリスマスの日に夜ちゃんの願いが届くかどうかってのが主題なワケ! あー、ヤバ。 鼻血出そう」

こんな桐乃は絶対に人前には出せんな……。

775: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:46:11.10 ID:GVwU+c2+0
京介「へいへい。 分かったよ。 じゃあ、本当の緊急時以外は呼ばないでおく」

桐乃「一応言っとくケド、邪魔したらマジで許さないから。 プレイした後貸して欲しかったら、静かにしててね」

今から俺の部屋でライブでも開けば、そのゲームを貸して貰わないで済むかもしれんな。

京介「りょーかい。 大人しくしてればいいんだろ?」

桐乃「……ま、京介がどうしても一緒にやりたいっていうなら、トクベツに横で見てても良いけど?」

京介「……あー」

776: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:46:37.38 ID:GVwU+c2+0
一緒にやって欲しいんだろうなぁ! 絶対そうだろうなぁ!

もうちょっと素直に言えば俺も喜んで二つ返事をするってのに、こう、変に回りくどくされると……。

京介「うーむ。 一緒にやりたいんだけど、大学のレポートあるしなぁ」

桐乃「そ、そか」

うわ、すげえ悲しそうな顔してやがる。 分かりやす!

京介「……ま、でも後回しでもいっか」

京介「よっしゃ桐乃、一緒にやろうぜ。 エロゲー」

777: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:47:03.31 ID:GVwU+c2+0
桐乃「マジ!? ひひ、もぉ~しょーがないなぁ~! そんなにやりたいならあたしも断れないしぃ? 一緒にやるのを許したげよっかなぁ!

桐乃「それじゃ京介! 紅茶淹れて、クッキーが棚に入ってるからそれも一緒に持ってきてね。 あたし部屋で待ってるから」

京介「おう。 すぐに行く」

俺がそう返すと、桐乃はニコニコと機嫌良さそうに笑って、二階に続く階段を上がっていった。

ま、悪くはない過ごし方だろう。

778: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:47:29.52 ID:GVwU+c2+0
二階に上がる桐乃を見送って、俺は台所へと向かう。

京介「……あいつめ」

そこにあったのは二つのカップ、二つのおしぼり。

あーんなことを言っておきながら、最初から俺と一緒にやる気だったんじゃねえか。 全く憎めない奴だ。

こうして俺は、桐乃が用意していたカップに紅茶を淹れて、トレイに乗せて二階へと向かっていったのだった。

日常的クリスマス 前編 終

792: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 15:54:43.82 ID:NUdeml070
今俺は、桐乃の部屋の前でうずくまっている。

理由、か。 話せば長くなるな。 まあ、聞いてくれ。

遡ること約一年前……なんてことはない。 精々、遡って5分ほど前のことだ。

桐乃が可愛らしく「一緒にエロゲーやろ?」なんて言うものだから、俺はそれに乗って、これから一緒にエロゲーをプレイすることになっていたはずだ。

ちなみに今日、クリスマスイブである。 そんな日に兄貴と一緒にエロゲーをやる妹なんて、例え話で聞いたとしても絶対に信じられないようなことだが……。 実際、俺の妹はそうであったのだ。

そりゃ、俺と桐乃の場合は色々と特殊かもしれんが。

ていうか、それはもうこの際どうでもいい。 とりあえず遡って話すとしよう。

一年前では無く、5分前に。

793: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 15:55:26.94 ID:NUdeml070
京介「……しっかし、俺も上手いこと使われている気がするな」

何気無く兄貴をパシリにするとはな。 まあ、トレイに乗せて予め用意していた辺り、優しいと言えば優しいのか? でも、それなら自身で運んでくれても良いような。

俺も俺で、嫌ってわけでは無いからいいけどよ。

京介「今に始まったことでもないさ」

多分、それがいつからかなんてのは考えるだけ無駄だろう。

いつまで経っても俺は兄貴だし、あいつは俺の妹なのだから。 兄貴は黙って妹の言うことを聞いてりゃいいのさ。 聞いて、話して、分かり合えれば尚良い。

これがいつも通りで、変わらない物なのだろう。

そしてそれが俺にとっちゃ、一番だ。

794: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 15:56:10.06 ID:NUdeml070
そんなことを考えながら階段を上がり、俺の部屋の前を通りすぎ、桐乃の部屋の前へ。

京介「……あ」

ノックは一応しようかと思ったんだけど、見事に両手が塞がっていて出来ない。

トレイを一旦下に置けば良かったし、何よりドアの外から桐乃に声を掛けるだけでも良かっただろう。

しかし、俺はどうやらものぐさなようである。 トレイを下に置くこともせず、声を掛けることもせずに「どうせ今更、いきなり開けてもいいだろ」なんて考え、肘を使って器用にドアを開くことにしたのだ。

795: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 15:56:49.41 ID:NUdeml070
京介「おーい、桐乃。 持ってきた……」

部屋の中を見ると、まず目に入ったのはデスクトップが表示されているパソコン。 そのすぐ横には先ほど桐乃が持っていたエロゲー。

そして、丁寧にベッドの上に畳んで置かれている桐乃が先ほどまで着ていた服。

……先ほどまで着ていた服。

桐乃「……っ!」

最後に、下着姿の妹が目に入った。

796: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 15:57:38.76 ID:NUdeml070
京介「待て!! 今俺を殴ったり蹴ったりしたらこれが溢れる!!」

桐乃「く……!」

桐乃はその言葉に寸でで襲いかかろうとしていた動きを止めた。 そして睨み合い。

そう睨まれてしまっては俺も動けず、桐乃も桐乃で何もできずに俺のことを睨む。

……つうか怖すぎだろ。 こういう時は、何か気の聞いたことを言うべきなのだろうか。

京介「き、桐乃」

桐乃「……」

京介「……その下着、結構可愛いな」

797: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 15:58:23.68 ID:NUdeml070
その後のことは想像に任せよう。

敢えて説明するならば、それを言われた桐乃は顔を赤くして「……そう?」と言って、最後に「ありがとね」と言った。

なんてことは当然無い。 そんな簡単に物事は進まないんだぜ。 辛いよな。

実際にあったことと言えば、桐乃は一瞬目を見開き、一度深呼吸をして、俺の腹に思いっきり蹴りを入れたってことだ。

トレイは桐乃が綺麗にキャッチして、一旦床へと置き、そして再度俺に襲いかかった。

まあ、あったことと言えばこれだけだ。 些細なもんだぜ。

798: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 15:59:17.63 ID:NUdeml070
そんな感じで俺は現在、桐乃の部屋の前でうずくまっている。 ドアは閉められ、廊下には冷たい空気がただただ流れているだけだ。

……全く、せっかくのクリスマスイブに俺は何をやっているんだか。

俺は俺で、しっかりと声を掛けるなりしていればこうはならなかっただろうし、桐乃は桐乃でやりすぎた面もあるとは思う。

しかし、俺は兄貴で桐乃は妹。 そう考えれば、悪いのは俺ってことなのだろうか。

まあ、どっちが悪いかなんてのは正直どうでもいい。 問題は桐乃と仲直りできるかどうかだ。

こんな風に真っ先に考える辺り、俺もあの頃と比べたら大分変わったのだろう。

799: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 15:59:43.26 ID:NUdeml070
そしてそれは、俺だけでは無かったようである。

唐突に目の前の扉が開き、少しだけしゅんとした桐乃の顔が視界へと入ってきた。

桐乃「……その、ごめん。 もう良いから、エロゲーやろ」

ちくしょう。 どうやら先手を打たれてしまったらしい。

800: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:00:11.24 ID:NUdeml070
桐乃「うっ……ひっぐ……」

あれから桐乃と二人でエロゲーを始め、今現在、こいつは号泣している。

ゲーム自体は終盤で、案の定ヒロインの夜ちゃんとやらが不治の病で倒れ、今にも息を引き取ろうとしている場面である。

こんなことを考えるのは無粋かもしれんが……この夜ちゃんとやらは、つい昨日まで元気に飛んだり跳ねたり兄貴のことをぶっ飛ばしたりしていたんだけどな……。 まるで即効性な毒薬並みの病気だぜ。

夜『……お兄ちゃん』

夜『さいご……最後に、ひとつ、お願いがあるんだ……』

桐乃「や、やだよぉ……最後なんて言わないで……」

801: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:01:07.92 ID:NUdeml070
京介「……」

エロゲーと会話してるな、こいつ。

というか、のめり込みすぎだろう。 桐乃はよく俺に「現実とエロゲーを一緒にするな」と言っていたけれど……こいつの方こそ大丈夫だろうか。

そんな心配とも困惑とも取れる視線を俺は桐乃に向けていた。

桐乃「……ちょっと。 なに「何でこいつは泣いているんだ」みたいな目向けてんの?」

それがどうやら桐乃にはそう見えていたらしい。

802: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:02:17.71 ID:NUdeml070
京介「んなこと思ってねーよ」

桐乃「ウソ。 絶対ウソ」

京介「マジマジ。 俺がお前にそんなこと思うわけ無いだろ?」

桐乃「ふうん。 じゃ、証拠見せて」

京介「……証拠?」

桐乃「そ。 あんたが本当にそんなこと思ってないなら、あんたもしっかり泣きなさいよ」

マジか!? どんな証拠だよそれ!?

803: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:03:06.49 ID:NUdeml070
京介「いやいや無理だって! お前だって、感動できない物に無理に感動しろって言われてもできないだろ!?」

桐乃「は? あんた、これが感動できないの?」

京介「……まあ、はい」

桐乃「チッ……ま、いいや。 分かる人にだけ分かれば良いし」

京介「そりゃすいませんでした」

桐乃「ふん……あ」

と、桐乃は何かを思いついたように声を漏らす。

804: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:03:33.37 ID:NUdeml070
京介「ん? どした」

桐乃「あんたさ、その」

桐乃「……」

京介「……なんだよ?」

やけに歯切れが悪いな。 こいつは以外と思ったことをズバズバ言う奴だとは思うんだが。

こういう感じで言い淀みされてしまうと、なんだか変に緊張するぜ。

805: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:04:08.19 ID:NUdeml070
桐乃「……その」

京介「だから、なんだってんだ?」

桐乃「あ、あたしのこと……好き、なんでしょ?」

……はぁ!? 唐突に何を言い出しているんだこいつは!? なんだ、知らない内に俺はエロゲーの世界にでも迷い込んだのか!?

ありえない……よな? エロゲーの世界へ迷い込んだことでは無くて、桐乃がそんなことを言い出すなんてことが、だ。

いやいや、でもこいつは現に今そう言ったはずだし……待て、俺の聞き間違いか? はは、なんだ、その可能性がまだあったじゃねえか。

ったく、驚かせやがって。

806: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:05:13.24 ID:NUdeml070
京介「もう一回良いか?」

俺はこうしてもう一度、桐乃が言った言葉を確認する為に聞き返したのだが……。

桐乃は俺のことをキッと睨むと、つんと顔を逸らしてしまう。

……ふむ。 この可愛い反応はともかくとして……ってことはあれか、こいつがさっき言った言葉は聞き間違いでは無い……ってことになるのか?

……どうすりゃ良いんだ、これ。

桐乃「……」

桐乃はどうやらその先を言うつもりは無いらしい。 未だに逸らしている顔は若干だが恥ずかしそうで、部屋の中は暖かいはずなのに、頬は赤く染まっていた。

808: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:05:46.51 ID:NUdeml070
京介「……桐乃」

言わなければならないだろう。 こうなってしまっては、しっかりと。

京介「好きだよ、俺はお前のことが大好きだ」

桐乃はそれを聞き、俺の方に顔は向けずに口だけを動かす。

桐乃「……あっそ」

全く面倒な妹である。 ま、そこが良いんだけどな。

809: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:06:33.55 ID:NUdeml070
京介「で、話を戻すけど」

それから少し経ち、お互いにある程度落ち着きを取り戻した頃合を見計らって、俺は切り出した。

京介「それで俺がお前のことを好きってのを確認して、どうするんだよ?」

桐乃「……あんま好き好きゆうな」

桐乃は一度息を短く吐くと、続ける。

810: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:07:23.66 ID:NUdeml070
桐乃「ええっとね」

桐乃「だから、このヒロインをあたしに置き換えてみれば感動できるんじゃない?」

とんでもない発想だな。 ましてやエロゲーのヒロインだぞ。 お前に置き換えて良いのかよ。

いや、エロゲーのヒロインってのはある意味こいつの夢である可能性も否定できないから怖い。

京介「このヒロインがお前だったとしたらか」

811: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:08:05.72 ID:NUdeml070
そして、俺もなんだかんだは思いつつも考える。 この夜ちゃんとやらが桐乃だったとしたら。

こうやって今は元気にエロゲーをやっている桐乃が、クリスマス当日……つまり明日、いきなり倒れたとして。

病院に運ばれて、窓の外を見ながら言うんだ。

「大好きだったよ。 本当は、昔からずっと」

桐乃「ちょ、何泣いてんの!?」

京介「へ? あ、ああ……」

812: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:08:31.67 ID:NUdeml070
桐乃「あたしに置き換えた瞬間に泣くとかさすがにキモイって……」

うるせえ。 そりゃ泣くに決まってるだろうが。 ニヤニヤ笑いやがって。

桐乃「……ま、感動できたなら良いや。 続きやろ」

桐乃はそう言い、マウスを握り、クリック。

夜『……あのね』

そして言う。 その最後のお願いとやらを。

813: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:08:57.50 ID:NUdeml070

『……私と一緒に、死んでくれる?』

814: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:09:24.41 ID:NUdeml070
桐乃「サイアク! ほんっとサイアク!!」

京介「お前が分岐間違えたんじゃねえのか!? それで俺に八つ当たりするのはやめてくれ!!」

桐乃「だってめちゃくちゃ良い雰囲気だったじゃん! ふっつーに正規ルートだと思うじゃん!!」

京介「分かったから落ち着けって! 俺を叩くのをやめろ!」

しかし、あの台詞と共に大きなSE音と画面いっぱいに夜ちゃんとやらの顔が表示される仕組みはヤバイだろ。 桐乃の驚きっぷりと来たら面白かったけどさ。

815: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:10:05.50 ID:NUdeml070
桐乃「はぁあああ……死ぬかと思った」

京介「お前、椅子から落ちそうになってたもんな」

桐乃「仕方無いでしょ。 あれは誰でも驚くって……。 まさかこんなルートがあるなんてさぁ……」

桐乃「こんなことになるんだったら、ちゃんと説明見とけば良かった。 あたしとしたことが……」

だいぶ落ち込んでやがるな。 大方、事前に情報を全て知ったら楽しめないだとか、そんな理由で見てないのだろう。

816: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:10:39.87 ID:NUdeml070
桐乃「もう今日は終わり! お風呂入ってこよっと」

京介「一緒にか?」

俺が言うと、桐乃は体をびくっと反応させ、口を開く。

桐乃「なワケあるかッ! でてけっ!!」

酷い奴だ。 軽いジョークだってのに。

817: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:11:28.44 ID:NUdeml070
京介「しっかし、なんだかなぁ」

部屋から追い出された俺は自分の部屋へと戻ると、ベッドの上に寝転び、一人呟く。

京介「なんつうか……」

何だろうか。 何か違う気がする。 折角のイブだってのに、やっていることと言ったらいつも通りのことだけだ。

去年は色々と事前に準備はしていた物の、今年は特にそういったことをしていないから仕方無いことかもしれんが。

818: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:11:54.66 ID:NUdeml070
桐乃がどこかへ出かけようと言えば出かける準備はしてあったし、本当に何も考えていないわけじゃない。

俺から誘う選択肢も勿論あったが、あれは中々度胸が必要な物である。 去年は聖夜たんフィギアという口実もあったのですんなりとは出来たけど、今年はなぁ。

そしてそんな感じで今みたいに悩んでいる間に、今日がやってきてしまったということだ。

京介「……」

今更考えてもどうしようもないことを考えている内に、いつの間にか俺は眠りに就いていた。

819: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:12:27.95 ID:NUdeml070
桐乃「いつまで寝てんの?」

鼻をつままれて、目が覚める。

京介「……っと、桐乃」

桐乃「どうすんの?」

京介「……どうするって、何が?」

桐乃「ご飯。 もう夜だし」

言われて、窓の外に顔を向ける。

……うむ。 確かに外は真っ暗だ。

820: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:13:08.73 ID:NUdeml070
京介「あー」

京介「なんか買ってくるか。 朝はお前だったし……俺が買ってくるわ」

さすがの桐乃と言えば良いのか。 朝の時点で昼の分も買って置いたようで、昼飯は全く困らなかったしな。

京介「つか、お袋はいつ帰ってくるんだよ?」

桐乃「ひひ。 それがさ、お父さんと一緒にご飯食べるから、あんた達二人で何か適当にやっておいて。 だって」

……なんだそれ、すげえ面白そうな場面だな。 見に行きたい。

821: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:13:37.42 ID:NUdeml070
桐乃「仲良いしね。 お母さんもお父さんも」

京介「はは……」

だからと言って俺と桐乃を放置するんじゃねえっての。

桐乃「……あんた、お母さんたちが居ないからってヘンなことしないでよ?」

京介「しねーよアホ!」

ていうかだな。 もし本当にそう思っているなら俺の部屋に『今お風呂から出てきました』みたいな格好で入って来るんじゃねえ。 そして俺の上に馬乗りになったまま話をするんじゃねえ。

822: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:14:24.58 ID:NUdeml070
桐乃「ふうん? しないんだ?」

京介「お、お前なぁ……」

桐乃「ぷ。 なにマジな顔してんの? キモッ!」

と、大変いつも通りな我が妹だ。 もうこの「キモッ」って言葉は褒め言葉にも思えてくるぜ。

桐乃「ほら、いつまでも横になってないで行くよ」

京介「行くって……飯か?」

桐乃「そ。 あんた一人に任せても不安だし、あたしも一緒に行ったげる」

823: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:14:59.62 ID:NUdeml070
京介「……へえ、珍しいな」

桐乃「……問題ある?」

京介「無い無い。 一緒に来てくれるなら何よりだっての」

桐乃「ふひひ。 でしょ?」

……あれ、まさかとは思うが。

京介「……てっきり、さっきのエロゲーが怖くて、一人で家に残るのが嫌なのかと思った」

俺が言うと、桐乃は部屋から出ようとしていた動きをぴたりと止める。

桐乃「ち、違うし。 怖くないし」

……そういうことにしておこう。

824: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:22:21.49 ID:NUdeml070
それから二人で準備をして、夜飯を買いに行く為に家を出て、街灯が照らす中を歩いている。

京介「……さっむ」

桐乃「家に引きこもってばっかいるからじゃん? あたしみたいに外に出れば良いのに」

京介「人を引きこもりみたいに言うんじゃねえよ……」

桐乃「事実っしょ?」

京介「全然事実ではない! つうか、引きこもってるって言うならお前だって休みの日は殆ど部屋でエロゲーやってるじゃねえか!」

桐乃「あれは良いの。 あたしの生きる上での義務みたいな物だから」

とんでも無い義務を課せられているんだな、この妹様は。

825: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:22:51.26 ID:NUdeml070
京介「なら寒さを感じるのは人としての義務だ。 日本の四季に対してな」

桐乃「……ふうん?」

京介「……なんだよ?」

桐乃「ふひひ。 なんか偉そうなことゆうわりには、耳まで真っ赤だなって思っただけ」

京介「ほっとけ」

俺が素っ気なく言うと、桐乃は俺の前に向き合うように立つ。

桐乃「あ~あ。 もう、仕方ないなぁ……」

826: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:23:20.06 ID:NUdeml070
京介「……」

桐乃「ま、京介がどーしても寒いってゆうなら……仕方ないなぁ」

なんだこのわざとらしい演技は。 見ていて若干面白いぞ。

桐乃「……」

桐乃はそのまま手に持っていたカバンに手を入れ、中にあった物を外へと出す。

桐乃「……はい。 いちお、クリスマスプレゼント」

827: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:23:45.33 ID:NUdeml070
京介「……へ。 お、俺に?」

桐乃「あんた以外いないでしょ。 良いから早く受け取ってよ」

京介「お、おう……」

そうやって桐乃から渡されたのは、マフラーだった。 暖かそうな、マフラー。

828: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:24:16.55 ID:NUdeml070
桐乃「……黙って見てないで、付けたら?」

京介「あ、そ、そうだな」

驚きすぎて何がなんだか分からないぜ。 ええっと、マフラーってどうやって付けるんだっけか。

さすがにそこまで馬鹿にはなっていないらしく、体がしっかりと覚えていたようで、問題なくマフラーは巻けた。

桐乃「……お。 やっぱり良い感じ」

京介「やっぱり?」

桐乃「うん。 この前雑誌で見ててさ、京介に似合いそうだなーって思って買ったの。 さすがあたし!」

829: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:24:52.17 ID:NUdeml070
京介「……そっか。 ありがとな、桐乃」

桐乃「ひひ。 京介みたいに冴えないのには、そのくらいが丁度良いよね~」

褒めるのか貶しているのか分からなくなってきた……。 俺も感覚が大分麻痺してきているかもしれん。

京介「……あ、そうだ」

桐乃「んー?」

京介「桐乃、ちょっとこっち来てくれ」

いきなり呼ばれ、桐乃は少し困惑した様子だったが、意外にもすんなりと俺の傍まで寄ってくる。

830: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:25:21.47 ID:NUdeml070
京介「ほら」

俺は言い、桐乃の手を掴む。

桐乃「……」

桐乃は黙って、その手をしっかりと握り返した。

京介「夜飯だけどさ、どっか食べに行くか」

桐乃「良いケド……お金あるの?」

京介「おうよ。 任せとけって」

桐乃「ひひ。 じゃあお言葉に甘えて」

831: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:25:52.15 ID:NUdeml070
京介「おっし。 んじゃあ行くか」

こうして、俺と桐乃が過ごしたイブは終わる。

そうだ。 これで良いんだ。

俺と桐乃の場合は、これで良い。 俺はただ、こいつと一緒に居たいだけなのだから。

無計画が良いとは言わない。 考え無しが良いとは言わない。

時にはそれも必要になっていくだろう。

832: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:26:27.19 ID:NUdeml070
だけど、今はこれで良い。

明日は桐乃を誘って秋葉原にでも行くとしよう。 折角のクリスマスだしな。 何かしらあるだろうし。

並んで歩いて、同じ道を歩いて行こう。

決して楽な道では無いだろうが、それでもこいつと一緒なら大丈夫だと俺は思う。

なんつったって、俺の妹だしな。

833: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:26:58.45 ID:NUdeml070
桐乃「なーに笑ってんの?」

京介「はは、何でもねえよ」

桐乃「ふーん」

京介「あー、つうかさ」

桐乃「んー?」

京介「俺、美味しい店とか知らないんだけど、お前知ってる?」

桐乃「……普通、それあたしに聞く? 雰囲気考えてよ、雰囲気」

知らない物は知らないんだよ! 悪かったな!

834: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:27:26.91 ID:NUdeml070
桐乃「ま、良いや。 京介」

桐乃「あたしに任せて」

と、笑って桐乃は言うのだった。

日常的クリスマス 後編 終

844: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:06:08.78 ID:oM6fyUBm0
桐乃「あ、そーいえばさ」

あたしはひとつ思い出し、昼間からパソコンに向かい合ってエロゲーを嗜んでいる兄に向けて口を開く。

京介「ん? なんだ?」

京介「……いやてか、お前はどうして俺のことを可哀想な奴を見る目で見ているんだよ?」

何を言っているのだろう?

折角の休みの日、大学生である兄が一人エロゲーをやっている。 それも昼間から。 誰がどう見たって……。

845: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:06:41.83 ID:oM6fyUBm0
桐乃「だって、昼間からエロゲーとか可哀想な奴じゃん実際」

京介「お前がやってみろって言うからじゃねえか! つうか、お前が今言った台詞はそのまま全部返すぞ!!」

桐乃「あたしは良いの。 何でか分かる?」

ゲームを中断して、京介はあたしの方に体を向ける。

京介「……そうだなぁ」

少し考える素振りを見せ、京介は。

京介「美少女だから?」

と、言った。

846: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:07:11.60 ID:oM6fyUBm0
……わざわざ真顔で言わなくても。

桐乃「あたしはエロゲーを愛してるから良いの!! あんたは大して愛して無いからダメなの!! 分かった!?」

あたしが慌ててそう返すと、京介は少々呆れた様に口を開く。

あ、分かった。 どうせ「だったら愛してない俺にやらせるんじゃねえ」とか言うのだろう。

京介「だったら愛してない俺にやらせるんじゃねえ」

ね? 京介が言いそうなことくらい、最近ではもう分かってしまう。

847: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:07:51.28 ID:oM6fyUBm0
そのおかげもあって、あたしが何て返すかなんてのは頭の中で出来ていた。

桐乃「だからやらせてあげてるんだって。 京介もあたしと同じくらいエロゲーを愛せるようになるまで。 ふひひ」

京介「……よし、良いぜ桐乃」

……良いって、何がだろ? さっきは京介の言いそうなことは分かると言った物の、全部が全部分かるわけでは無いしね。 それに、京介は時々とんでもないことを言うし。

京介「要するに、お前は俺がエロゲーを愛せるように、エロゲーをやらせているってことだよな?」

桐乃「まあ……そうだケド」

848: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:08:20.58 ID:oM6fyUBm0
京介「その最終地点は桐乃がエロゲーを愛しているのと同じくらい、で良いんだよな?」

桐乃「……うん」

さっきそう言ったし。 何の為に纏めているんだか。

てかね、京介じゃあたしの境地までは絶対辿り着けないかなぁ。 素質がないしね。

京介「つまり、お前のエロゲー愛と同じくらいの愛を俺が持てば良いってことだろ?」

うんうん。 あれ……そうなのかな? なんか違う気がするような?

849: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:08:47.90 ID:oM6fyUBm0
桐乃「……」

あたしが若干困惑しているのを知ってか知らずか、京介は更に捲くし立てる。

京介「だが残念だったな。 俺はお前の持っているエロゲー愛なんかより、よっぽど強いのを持ってるぜ」

桐乃「はぁ? 京介があたしよりエロゲーを既に愛してるって? ぷ。 無い無い」

もしも本当にそうだとしたら、昼間からエロゲーなんて基本だし、夜更かししてエロゲーも基本だっての。 あたしが知る限り、京介はそんなことしていないしね。

ふん、甘い甘い。

850: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:09:22.57 ID:oM6fyUBm0
京介「ベクトルが違うんだって。 俺が愛してるのは———」

そこまで言ったところで、何を言うのか予想が出来た。

桐乃「ひひ。 あたし?」

分かっていても、嬉しい。 なんだかとても満たされる気分になってくる。

って言っても、まだまだ満ちてはいないけど。 あたしの器は大きいからね。 足りない足りない。

京介「いや違う。 俺が愛しているのはこの『あやせお手製、桐乃人形』だ!」

851: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:09:48.14 ID:oM6fyUBm0
……。

京介は言い、この前あやせから貰ったあたしをモデルにして作ったという人形を突き出す。

桐乃「……えっと」

な、なんだろうこの気分は。 嬉しいような……嬉しくないような。 京介が持っているあの人形のモデルは確かにあたしだけど、でもなんか違う気が。

桐乃「あ、ありがとう?」

と、疑問形で言ってしまう。 うーん……。

京介「へへ。 どういたしまして」

852: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:10:20.38 ID:oM6fyUBm0
桐乃「……」

なんだか靄が残る。 そんな気分で、京介を見ていた。

京介「いやぁ、それにしても本当に出来が良いよな。 この人形」

京介「この桐乃はすっげー可愛いしなぁ」

……この桐乃は!?

桐乃「京介」

853: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:10:48.09 ID:oM6fyUBm0
京介「ん? なんだよ……って、お前なんか顔が怖いぞ」

はぁ? 怖い? 顔が? 誰の?

桐乃「今言った台詞、もっかい言って」

京介「……あ、あー。 なんて言ったっけ、俺」

桐乃「は、や、く」

京介を睨みながら、あたしは言う。

854: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:12:30.24 ID:oM6fyUBm0
京介「……こ、この桐乃もすっげー可愛いしなぁ。 って言ったかな、はは」

微妙に変えてるし。 てか変えたってことは、自分が言ったこと分かってるじゃん!

桐乃「ふうん。 そうなんだ?」

京介「お、おう」

桐乃「絶対に? 嘘じゃない?」

京介「……も、もしかしたら少し違うかも?」

桐乃「あ~。 そうなんだぁ~。 じゃあ違ったら何してもらおっかなぁ~?」

855: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:13:05.98 ID:oM6fyUBm0
京介「お前のその『何か』ってのは恐ろしすぎるんだが……」

桐乃「ふひひ。 で、どうなの? 違うの?」

京介「……すいませんでした」

よし、勝った。

桐乃「ふうん?」

頭を下げる京介の顔を覗き込みながら、あたしは言う。

856: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:13:36.41 ID:oM6fyUBm0
京介「……桐乃」

桐乃「ん? なに?」

京介は顔を上げると、あたしの目をじっと見つめる。 そして、顔を近づけてくる。

ゆっくり、ゆっくりと。

……って近くない!? ちょ、ちょっと!?

あたしが何か言おうと口を開こうとしたところで、京介はあたしにキスをしてきた。

857: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:14:02.66 ID:oM6fyUBm0
桐乃「い、いきなり何すんの!」

京介「へへ、お前隙だらけだからな」

桐乃「……だからって!!」

京介「ほら、また」

京介はそう言い、もう一度あたしにキスをするのだった。

858: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:14:34.49 ID:oM6fyUBm0
京介「……大丈夫か?」

桐乃「ふ、ふひひ」

あたしは平気。 うんうん。 大丈夫。

京介「……」

京介は黙ってあたしの頬をつまむ。 つまんで、引っ張ったり。

京介「お前の肌って、ほんと柔らかいよなぁ」

桐乃「……人の顔で遊ばないで」

859: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:15:03.11 ID:oM6fyUBm0
京介「お、もう大丈夫か」

桐乃「あたしは最初から大丈夫だっての。 ふん」

京介「へいへい。 そーでした」

全く。 2回もキスしておいて、そんな余裕っぽい態度がムカつく! 後であたしからもキスしてみよっかな……。

無理だ。 恥ずかしい。

京介「それで、何だよ?」

桐乃「……何だよって、何が?」

860: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:15:44.13 ID:oM6fyUBm0
京介「いや、俺がエロゲーやってたら桐乃が「そーいえば」って言ったんだろ?」

……そんなこともあった様な、無かった様な。

てか、かなり話が脱線していた気がする。 今日に限った話では無いけど。

えっと……あ、そうだ。

桐乃「あ、明日なんだケド」

桐乃「あたし、仕事入っちゃってて帰り遅くなるからさ、ご飯とお風呂やっといてもらってもいい?」

861: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:16:34.20 ID:oM6fyUBm0
京介「あー、そうなのか。 別に構わないけど……」

桐乃「八時くらいには帰るから……ってなに? どしたの? なんか言いたそうじゃん」

京介「いや、なんつうか」

京介「そうやって言われてみると、家族だなーって思う」

家族? それってつまり……。

あたしと京介が夫婦みたいってこと!? はぁ!?

862: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:17:08.33 ID:oM6fyUBm0
桐乃「い、いきなりやめてよ! 毎回だけど恥ずかしくないワケ!?」

京介「……何焦ってるんだ、お前」

桐乃「だってあんたがいきなりヘンなことをゆうからでしょ!! た、確かに一緒に暮らしてるケド……」

顔が熱くなるのを感じながら捲し立てると、京介は首を捻りながらしばし考える素振りを見せる。

京介「……ああ、そういうことか」

863: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:17:34.67 ID:oM6fyUBm0
京介「おいおい桐乃さんよ。 お前、俺と家族だってのが恥ずかしいのか?」

桐乃「……そりゃ、いきなり言われたら。 あたしだって色々準備が出来ていないというか……だし」

京介「俺が言ったのは兄妹って意味だぜ? なんの準備をするんだよ?」

ニヤニヤと笑う京介の顔を見て、あたしはようやく言葉の意味を理解する。

……さて。 頭のどの部分を叩けば記憶は飛んで行くのだろうか。 まず始めに無くなるまで試してみることにしよう。

そう思って、あたしは京介に飛び掛る。

864: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:20:13.17 ID:oM6fyUBm0
京介「はぁ……はぁ。 お、お前……あそこまでマジで切れなくても」

桐乃「……全然怒って無いし?」

京介「明らか怒ってたじゃねえか! それに元はと言えばお前の勘ちが……」

桐乃「何か言った? おかしいな、忘れたんじゃなかったっけ」

京介「あ、忘れた。 はは、なんだっけか」

桐乃「ひひ。 良かった。 またくすぐらないといけないところだった」

京介「そ、そーですね。 ……はは」

865: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:20:40.60 ID:oM6fyUBm0
こうやって、二人ともに何も無いときはただただ、家でこうしていたりする。 そして意外にもこれが結構楽しかったり。

明日はあたしが仕事だからこうはできない。 だから多分、いつも以上に京介と居るのかもしれない。

桐乃「ねね、京介」

京介「ん?」

桐乃「ふひひ。 なんでもなーい」

京介「へへ、そうかよ」

そして、次の日。

866: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:23:19.26 ID:oM6fyUBm0
仕事が終わり、帰り道。

今日は途中から天気が崩れた所為もあり、撮影が長引いてしまった。 案の定、時間は結構遅い。

真っ暗な道を一人で歩くのは心細くもあり、不安だ。

なんだか少しだけ……昔を思い出す。

ずっと、あたしはこんな道を歩いていた気がする。 先が見えなくて、真っ暗な道を。

だけど気持ちだけはしっかり持っていて、持ち続けていた。 どれだけ光を探しても見つからないけれど、必ずどこかにあると思って。

こんな風に思うのは、大袈裟だろうか。

867: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:24:44.10 ID:oM6fyUBm0
ヤバ……もしかしてあの黒いのの性格が移ったりしてるのかな……。

桐乃「……夜ご飯なんだろ」

一人呟いて、一歩ずつ進む。

京介のことだから、下手したらスーパーのお惣菜という線も……捨てきれない。

ていうか、家に着いたら燃えて無くなってましたなんてことは無いよね? さすがの京介でもそこまでじゃないよね?

多分これは、あたしが昔「一人で料理をする」と言ったときに京介が思っていたことでもあるのだろう。

今じゃもう、余裕だけどね。

868: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:25:53.66 ID:oM6fyUBm0
さて、そろそろ家が見えてくる頃だ。

そもそも、本来だったら京介を呼び出して車でも出して貰うのが良かったかもしれないけれど、ご飯もお風呂もやってもらっておいて、それは気が引けてしまう。

桐乃「ちゃんとやってるかな? あいつ」

本当にこの場限りの話。 正直言って、こう毎日ずっと一緒に居ると、あたしが今日みたいに仕事だったり、あいつが大学とかで帰りが遅かったりすると、何だか心細くなってしまう。

……一日だけでも離れるとか今じゃ考えられないし。

あ、やめよ。 こんなことを考えていると、会ったときにどんな顔をすれば良いのか分からなくなってしまう。

869: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:26:22.17 ID:oM6fyUBm0
桐乃「……ふう」

気づいたらもう部屋の扉は目の前で、あたしは一度息を吐くと、解錠してその扉を開ける。

桐乃「たーだいま」

桐乃「……あれ?」

部屋は真っ暗。 人の気配がしない。

桐乃「京介?」

とりあえず、電気を付けよう。

870: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:26:48.32 ID:oM6fyUBm0
桐乃「……どこか出かけてるのかな?」

うーん。 こんな時間に出かけるのだろうか? それに、何かあったら電話とかメールをするだろうし。

桐乃「あ、そだ。 電話」

それで京介に連絡してみよう。

そう思い、カバンから携帯を取り出す。 取り出したところで、後ろから声が掛かった。

京介「桐乃!」

桐乃「へ? ちょ、な、なに?」

871: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:27:16.97 ID:oM6fyUBm0
今帰ってきたのか、玄関の扉が開くと同時に、京介の声がした。

京介はそのままあたしの傍まで駆け寄り、あたしを抱きしめる。

京介「……心配させんな! 馬鹿野郎!」

桐乃「え? え?」

京介「……ったく。 お前は本当に……」

872: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:27:44.44 ID:oM6fyUBm0
聞けばどうやら、京介はあたしを探しに町中を走り回っていたらしい。

帰りが予定より遅れて、それでも連絡が無かったので、気が気じゃなくなったと言っていた。

それを聞いたあたしの心にはなんとも言えない感情が渦巻いている。

そこまで心配してくれて嬉しい、とも思った。

そこまで大袈裟にしなくても、とも思った。

そこまで考えが回らなかったあたしが情けない、とも思った。

そして、そこまでしてくれた京介に申し訳ない、とも……思った。

873: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:28:50.14 ID:oM6fyUBm0
桐乃「……ごめん」

京介「ダメだ。 許さない」

珍しく京介が怒っている。 それだけ、あたしが心配を掛けたということだろう。

桐乃「ま、マッサージでもしようか?」

京介「……」

ヤバ、余計怒らせたかな?

874: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:32:09.58 ID:oM6fyUBm0
京介「……なんかエロい言い方だなそれ」

桐乃「ぶっ! そ、そんなつもりじゃないって!!」

京介「いやいや、声色とか仕草とかめっちゃエロかったって……」

桐乃「気のせい!! へ、ヘンな目で見ないでよ!」

ていうか、そういう話じゃないでしょ! 今は!

それは京介も分かっていたのか、ゆっくりと口を開いた。

875: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:32:40.08 ID:oM6fyUBm0
京介「……桐乃」

京介は一度あたしの名前を呼び、一息置いてから話始める。

京介「もっと俺を頼ってくれないか?」

桐乃「……今日のこと?」

京介「ああ」

京介「確かに大袈裟かもしれないけどさ、お前のことが俺は心配で心配で堪らないんだよ。 分かるか?」

京介「俺はお前のことが好きだしよ。 妹としても、彼女としてもな」

京介「……お前が居なきゃ、なーんもできねえんだよ」

876: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:33:10.63 ID:oM6fyUBm0
桐乃「でも、色々やってもらって……悪いし」

京介「馬鹿。 今更何言ってるんだ? お前は俺に無理だけ言ってれば良いんだよ。 つうか、変な気を使うなっての」

桐乃「……うん」

何も言い返せない。 そう言われてしまっては。

京介「それともう一つ」

京介「もっと、自分を大切にしてくれ。 これは、頼み……かな」

京介「桐乃みたいなのが夜遅くに外歩いてちゃ、何があるか分からないしよ」

京介「……それが少し、怖い」

877: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:33:46.74 ID:oM6fyUBm0
そう言う京介の顔は本当に心配そうで、怯えているようで。

そんな顔をさせているのがあたしだと思うと、心に棘が刺さるような気分になった。

桐乃「うん……うん。 ごめんなさい」

京介「……分かればいいんだけどさ」

そうだ。

878: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:34:25.50 ID:oM6fyUBm0
それが、あたしだ。

兄貴に無理を頼んだり、無茶を頼んだりして、困ったときは助けてもらったりして。

それを当たり前のことだとは言わない。 そこまで傲慢にはなれやしない。

だから、せめて一つ一つのことに感謝しよう。

桐乃「京介!」

すぐ目の前に座っていた京介に抱きついて、首に腕を回して、あたしは言う。

かつてはとても言えなかった言葉。 感謝の気持ちと、本心。

879: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:34:55.85 ID:oM6fyUBm0
京介「お、おい? 桐乃?」

桐乃「ごめんね。 ごめんなさい」

桐乃「それと……ありがと」

あたしは言って、京介にキスをする。

京介はと言うと、顔を逸らして、呟くようにこう言った。

京介「……とっくに許してるっての。 つうか、お前のそれは反則すぎるんだよな……毎回」

880: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:35:47.74 ID:oM6fyUBm0
桐乃「ひひ。 でも、あやせが同じことしてきたらどうする?」

京介「あ、あやせが?」

京介は目だけを上に向け、何やら想像し始めている様子。

……なんかむかつく。

桐乃「あんた今ヘンなこと考えてたでしょ」

京介「か、考えてねえよ!?」

桐乃「ふうん? ふーん?」

881: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:36:13.46 ID:oM6fyUBm0
京介「……それより桐乃さん」

桐乃「なに?」

京介「いつまで俺に抱きついているつもりだ?」

桐乃「っ! こ、この変態ッ!!」

不覚。 慌てて離れて、距離を取る。

京介が変態だってことをすっかり忘れていた!

882: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:36:40.57 ID:oM6fyUBm0
京介「ほほう。 変態だと言うのか」

桐乃「……な、なによ。 文句あるワケ?」

何か嫌な予感がするような、しないような。

京介「いや別に? ただ、俺は変態だからなぁ」

京介「妹にいきなり抱きついても仕方ないってことだ!」

そう京介は叫ぶと、少し離れた位置で座り込んでいたあたしに思いっきり飛びかかる。

883: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:37:18.05 ID:oM6fyUBm0
桐乃「ちょ、やめ……」

京介「や~だね。 俺の気が済むまでこうしてやる」

桐乃「……ばか。 勝手にすれば」

そう言って、あたしも京介を抱きしめる。

あたしと京介が「そろそろご飯を食べよう」と思ったのは、それから1時間程後のことである。

休みの一日 終

894: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:05:26.16 ID:uaCV+eog0
7月。

少々暑くなってきた今日この頃。 朝っぱらから俺と桐乃は話し合いの場を持っていた。

今はミニテーブルを挟んで向かい合っている。

こんな感じで話し合うってのは中々に珍しかったりもするわけで、いつもならだらだらと壁に背中を預けながらとか、エロゲーをやりながらとか、布団に入りながらとかが多い。 そういったこともあり、俺は妙な緊張感に襲われていた。

自分から話を振る分には特にそんなことは無いだろうけど、今回は何を隠そう……桐乃から声を掛けられ、こんな場となっているからな。

一体どんな話なのだろうか? 俺は今、完全に寝起きだったのもあり寝間着なのだが、桐乃ときたらしっかりと着替え終えていて、気合の入った格好をしている。

895: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:06:16.75 ID:uaCV+eog0
……人生相談か?

真っ先に浮かんだのがそれである。

まあ、そうだったとしたら俺はそれをしっかり聞いて、答えてやるだけ。

何かをして欲しいってことなら、一日中走り回っても良いしな。

桐乃「……京介」

京介「お、おう? どした?」

神妙にも思える面持ちの桐乃から出された今日の議題。

桐乃「車でどっかデートいこ」

と、桐乃は言った。

896: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:06:43.51 ID:uaCV+eog0
京介「……それだけ?」

桐乃「はぁ!? それだけってなに!?」

京介「怒るな怒るな! 俺はてっきりもっと重大なことだと思ったんだよ! こんな緊張感ある場を作るから!」

桐乃「重大なことって、例えば?」

例えば、と言われてもな。 例えようの無い緊張感だったのは確かだが……。

京介「た、例えば……妊娠したとか?」

897: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:07:34.71 ID:uaCV+eog0
桐乃「す、するワケ無いでしょ!! ばか!!」

そんな声と共に飛んでくるのは脇に置いてあった台拭き。

ミカンよりはマシだ。 そう思おう。

京介「……の割にはやけに焦ってるように見える」

桐乃「そうじゃないっての! ばかじゃん!?」

桐乃はテーブルをばんばんと叩き、今にも飛びかかってきそうな勢い。

あまり叩くなよ、壊れたらどうするんだ。 安物なんだからさ。

898: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:08:00.70 ID:uaCV+eog0
つうか、やっぱこいつをからかうのは結構楽しいぜ。

京介「どうだかなあ?」

桐乃「だ、だって……まだ、そうゆうの無いし」

言いながら、桐乃は恥ずかしそうに顔を逸らした。

……よし、今日の分のエネルギーは確保できたぞ!

899: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:08:27.10 ID:uaCV+eog0
京介「冗談冗談。 話を戻そうぜ」

桐乃「……自分から逸らしといて、勝手なんだから」

京介「で、車でデートってのは?」

桐乃「ふん」

どうやら、桐乃様はお怒りの様子で。

こういう時は、どうすれば良いのか大体俺も分かってきた。 というか多分、桐乃はそれを狙っている気もしなくはないが。

900: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:08:57.10 ID:uaCV+eog0
京介「悪かったって。 ほら」

言って、俺は桐乃の頭を撫でる。

すると桐乃は不機嫌そうな顔から段々と機嫌が良さそうな顔に戻っていく。 勿論、本人は表情を変えていないつもりなのだろうけど。

桐乃「……うん」

ヤバイな。 一週間分は動けそうだぞこれで。

901: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:09:35.71 ID:uaCV+eog0
京介「で、本題だけど……」

桐乃「……んん」

桐乃は一度息を整え、口を開く。

桐乃「やっぱりさ、たまには車でどっか行きたいとか思わない?」

京介「行ってるじゃん」

桐乃「あんたが言ってるのは殆ど秋葉原とかでしょ! もっとこう……分かる?」

京介「……なんとなく言いたいことは分かるけど」

902: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:11:39.05 ID:uaCV+eog0
要するに、桐乃としてはいつもと違ったデートがしたいってことだろう。

桐乃「でしょ!? でしょ!?」

京介「でも行くって言ってもどこに?」

桐乃「……むう」

結局はそこだよな。 俺と桐乃が行きたい場所って言ってもバラバラだろうし。

桐乃の場合はそれこそ流行の物が売っているところだとか、服屋に行きたがるのだろう。

903: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:12:04.25 ID:uaCV+eog0
京介「桐乃はどっか行きたい場所とかないのか?」

しかし、俺がそう聞いてみても。

桐乃「……今は特に無いんだよねぇ」

とこいつは返す。

桐乃「逆に京介は行きたい場所とかないの?」

俺の行きたい場所か。

904: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:12:35.82 ID:uaCV+eog0
……そういえば、あやせが今度グラビア撮影をやるとかなんとか言っていた気がする。

いやいや待て俺! 行きたい場所の後にあやせのグラビア撮影を思い出したのは事実だが、決してそこに行きたいなんて思って無いからな! マジで!

だって考えてみろよ。 妹の目の前で、彼女の目の前でそんなこと考える奴が居ると思うか? 居ない居ない。 俺は桐乃一筋なんだよ。 うむ。

桐乃「おーい」

桐乃は言い、俺の顔の前で手を振る。

京介「お、おう……わりい」

桐乃「ひひ。 で、どっか行きたいとこある?」

905: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:13:01.67 ID:uaCV+eog0
……一々笑顔が殺人的だな。 いつの日か笑ったってだけの理由で警察に捕まるんじゃないだろうか。

京介「そうだなぁ……」

京介「あ、そうだ」

桐乃「んー?」

京介「今度、高校で体育祭あるとか言ってたじゃんか。 それに行きたいな」

桐乃「……歩いて行けるじゃん。 それにそれだと、あたしとデートじゃないし」

なるほど。 確かにその通り。

906: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:13:35.59 ID:uaCV+eog0
桐乃「もうちょっとしっかり考えてよ。 やる気あんの?」

なんのやる気だよ!? つうか、そういうこいつはやる気とか常に持っているのだろうか?

……持っていそうだよなぁ。 そういう奴だし。

京介「めっちゃあるぜ。 なんて言ったって、お前とのデートなわけだし」

桐乃「あ、あっそ……」

桐乃「……あ、あたしも。 京介とのデートだからやる気チョーあるよ?」

……やばいな。 今日は過充電かもしれん。 この、手をもじもじとしながら俺のことを上目遣いで見てくる桐乃の可愛さときたら。

こんな桐乃を俺が独占していると思うと、世界で一番幸せなのは間違いないと思えて来るぜ。

907: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:14:04.01 ID:uaCV+eog0
京介「そ、そりゃどうも」

桐乃「……」

京介「……」

なんだこの妙な間は!? すっげー緊張するんだけど!?

もう今日何回目だろうな? つうか、起きてからずっと緊張しっぱなしな気がしなくもないが。

桐乃はどうやら緊張というよりは恥ずかしいという思いから、コップに口を付けたまま動かない。

……そういや、こいつが緊張してるところってあまり見ないよな。 俺が気づいていないだけか?

908: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:14:31.17 ID:uaCV+eog0
京介「なあ、桐乃ってさ……緊張することとかあるのか?」

自分でも唐突だったとは思うが、どうしてもそれが気になってしまった。

こいつは一体、どんな場面で緊張するのだろうか。 それを少しだけ、知りたくなった。

桐乃「へ? あたし?」

京介「そ。 お前」

桐乃「……緊張はフツーにするケド。 てか、人を機械みたいに言わないでよ」

京介「おお……悪い悪い。 んで、どんな場面で緊張すんの?」

909: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:15:02.08 ID:uaCV+eog0
桐乃「うーん。 そう言われても中々難しいかな。 例えばだけど」

桐乃「京介といるとき」

マジか! やったね!

桐乃「はあまりしないかも。 だってもう何年も一緒だしね。 そりゃ、場面によってはするかもだけど……基本、あんたと居るときはしない」

マジか……辛いぜ……。

910: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:15:29.84 ID:uaCV+eog0
桐乃「京介といるときはさ、緊張ってゆうより……安心できる感じだから」

……なんだよ。 嬉しいことを言ってくれるじゃねえか。

京介「そりゃサンキュー。 俺もお前と一緒だよ」

桐乃「さっきはチョー緊張してたって言ってたのに?」

そんなことを言ったような言っていないような気もする。 まあ、緊張していたってのは事実だから何も言えんが。

京介「それはお前が変に真剣な顔するからだろ! 服だってしっかりしたの着てるしよ……」

911: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:15:57.37 ID:uaCV+eog0
桐乃「あ、これ? ひひ。 今からあやせと加奈子と遊びに行くからね」

京介「……あまり遅くなるなよ?」

桐乃「分かってるって。 京介寂しくて泣いちゃうもんね?」

京介「な、泣くか! 泣くわけねえだろ!」

強がる俺。 そしてお決まりの如く、桐乃はこう反応する。

912: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:16:24.13 ID:uaCV+eog0
桐乃「……そっか。 京介はあたしが居なくても大丈夫なんだね。 ごめんね」

桐乃「あたしは京介が居ないとダメなのに……京介はあたしが居なくても平気なんだね。 あーあ……勘違いだったのかな……えへへ」

京介「……お前、それってどのエロゲーのヒロインだ?」

桐乃「ふひひ。 『雨がヤンだら妹の待つ家に帰ろう』の『雨音ちゃん』!」

京介「とりあえず、ヤンデレってことだけは分かった」

桐乃「でしょ? で、どうだった?」

913: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:16:50.63 ID:uaCV+eog0
桐乃が聞いてきているのは恐らく、今桐乃が演じた『雨音ちゃん』のことだろう。

京介「……面倒くさそうな妹だなって感じ」

言い終わった後で、怒られるパターンかと思ったのだが、桐乃の反応は意外にも「あー、やっぱりかぁ」という物だった。

京介「やっぱりって……妹マニアのお前にしては珍しいな」

桐乃「妹『マニア』じゃなくて、妹『オタク』ね。 そこ大事だから間違えないで」

京介「俺には一体どんな違いなのか分からないぞ……」

914: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:17:20.62 ID:uaCV+eog0
俺が言うと、桐乃は溜息を吐き、心底呆れた顔で話し始める。

桐乃「いい? 京介。 まず、妹『マニア』ってのはね、あくまでも妹を客観的に見ているの。 妹が好きなのは変わらないケド……。 やっぱり『マニア』の人ってのはどこか枠の外から妹たちを見ているからさ」

……こいつは一体何を言っているのだ。

桐乃「返事」

京介「は、はい。 どうぞ続けてください」

桐乃「ふん。 なんか京介、聞いてなさそうで話す気失せてきたんだケドぉ」

いやいや、俺は聞いているぜしっかりと。 ただ、内容が理解できていないだけだ。

915: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:17:53.77 ID:uaCV+eog0
桐乃「んでね、次に妹『オタク』の方だけど」

結局続けるのか!? 今、めっちゃ嫌そうな顔で「話す気が失せた」って言ってたじゃんか!!

桐乃「こっちはもう全然違う。 客観的じゃなくて、主観的に見てるからね。 線引きするなら、本当の妹がエロゲーの妹を愛する。 これが真髄かな」

桐乃「自分たちが妹で、そんな自分とエロゲーの妹を被せて見るんだよ。 感情移入もできるし、そうすることで本当にエロゲーの妹たちを愛することができるから」

京介「ってことは、お前もエロゲーの妹に自分を重ねてるってこと?」

桐乃「そうそう! りんこりんとか特に……」

916: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:18:21.03 ID:uaCV+eog0
桐乃「じゃ、じゃない!! あたしはそんなことはしていない!!」

思いっきり口が滑っていたけどな。 それにしてもなるほど……。

桐乃「……よし」

桐乃はひと言そう呟き、立ち上がる。

京介「どした?」

桐乃「いや、ちょっとまたくすぐって京介の記憶を消そうかなって」

917: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:18:51.73 ID:uaCV+eog0
京介「やめてね!? お前の攻撃って本当に容赦無いから!」

桐乃「ふひひ。 そう言われるとやり甲斐があるかなぁ」

一体いつからこいつはあやせみたいになったんだ。 人の嫌がることをするなんて!

よし……そうだな。 そうと決まれば俺にも作戦があるぜ。 つっても、今考えたばっかだけど。

京介「……分かった。 大人しくされるから、場所移そうぜ? ここだとテーブルとかあるからさ」

桐乃「珍しく抵抗無し? 京介も分かってきたのかなぁ?」

桐乃「んじゃ、あっちね」

918: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:19:18.90 ID:uaCV+eog0
そう言って桐乃が指すのは居間。 俺と桐乃がいつも寝室に使っている場所である。

……ふはは。 馬鹿め。

京介「……お手柔らかにな?」

桐乃「ふひひ」

楽しそうに笑いながら、桐乃は居間へと向かう。

俺は桐乃の後を付いて行き、距離を少しだけ詰める。

一歩、二歩、進んで行き……やがて、居間へと桐乃の体が入る。

919: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:19:45.34 ID:uaCV+eog0
京介「……かかったな!!」

俺は言って、桐乃に背後から飛び掛る。

桐乃「へ? ちょ、な、何すんの!!」

そのまま桐乃を押し倒し、手を脇腹へ。

桐乃「ひっ……や、やめ……」

京介「先手必勝だぜ? やられる前にやれって言葉もあるだろ?」

桐乃「ギブギブ!! あたしが悪かった!!」

920: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:20:13.71 ID:uaCV+eog0
ギブアップ早すぎだろ。 まだ手を脇腹に当てただけだぞ。

京介「知ってるか。 ギブアップしたら五分間やられ放題ってルールがこの前追加されたんだ」

桐乃「はぁ!? き、聞いてないっての!!」

京介「おう。 言ってないもん」

……多分、俺は今物すっごく悪い顔をしているんだろうなぁ。

921: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:20:39.90 ID:uaCV+eog0
まあ、いいや! やっちゃえ!

そう結論を出し、脇腹に当てていた手で桐乃をくすぐる。

桐乃「や、やめ……あ、あはははははははははは!!」

しかし、目尻に涙を溜めて必死に堪える姿もこいつは可愛いなあ……。

なんてことを思いながら、色々な場所をくすぐっていた結果、十分くらい経っていた。

922: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:21:31.46 ID:uaCV+eog0
桐乃「ま、まじ死ぬって……はぁ……はぁ……」

京介「悪い。 桐乃が可愛くてつい」

桐乃「……こんな時に、言われても……嬉しくないっての……」

動けなくなっている桐乃を横目に、俺はお茶でも淹れようと台所へと向かう。

桐乃のも淹れといてやろう。 せめてもの罪滅ぼしだ。

923: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:21:58.62 ID:uaCV+eog0
京介「桐乃ー。 紅茶でいいか?」

桐乃「……うー」

まともな返事が返ってこない……やり過ぎた所為で桐乃が幼児退行したのか。 どんなエロゲーだよ。

いやまあ、肯定と受け取っておくとしよう。 文句があれば、俺のと変えれば良いしな。

そう思いながら台所でお茶を淹れている途中で、テーブルの上で鳴っている桐乃の携帯に気づく。

924: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:22:24.37 ID:uaCV+eog0
京介「携帯鳴ってんぞー」

桐乃「……持ってきてー」

俺をパシリにしやがって。 持って行くけどもさ。

お茶のついでだと思えば、別にどうってことは無いだろう。

俺はそのままトレイにカップを二つ置き、運んで行く途中で桐乃の携帯を回収する。

着信時間からしてメールだろうか? あやせか、加奈子か、他の友達か。

……或いは、エロゲーヒロインからか。

華の女子高生としては、前者であって欲しいと願う物である。

925: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:23:11.68 ID:uaCV+eog0
京介「ほらよ。 紅茶と携帯」

桐乃「ん。 さんきゅ」

どうやら紅茶で良かったらしい。 さすが俺だぜ。

桐乃「……これ緑茶なんですケド」

おおっと、渡す方を間違えた。 これは失礼。

京介「こっちだな。 ほら」

桐乃「……なーんか、いやらしい思惑が感じられる」

926: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:23:38.68 ID:uaCV+eog0
何を言っているんだよこの妹は。 まさか、俺がお前と関節キスをしたいから違うコップを渡したとでも思っているのか?

そうだとしたら、それは勘違いってもんだ。

京介「良いからほら、携帯」

桐乃「……」

じっとりした目で俺のことを見ながら、携帯を受け取る桐乃。

927: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:24:06.11 ID:uaCV+eog0
しかし、そんな桐乃の目は携帯を開いて確認した瞬間、変わった。

カタカタと何やら文字を高速で打つと、桐乃は俺の方へと向き直る。

桐乃「京介!!」

京介「な、なんだよ? いきなり大声出すなって」

桐乃「ちょっとこっち来て! 早く!」

なんだ、やけに慌てているな……。 何かあったのか?

京介「わ、分かった分かった。 今立つから手を引っ張るなって!」

928: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:24:37.62 ID:uaCV+eog0
桐乃「はーやーく!」

俺も慌てて立ち上がり、桐乃に引っ張られるまま、玄関へと向かう。

桐乃「……よいしょっと」

京介「……なぜ、そんなとこに座り込む?」

桐乃が座った場所は、玄関の扉からすぐの床。 壁に背中を預けながら、足を伸ばして桐乃は座っている。

桐乃「京介も座って。 あたしの正面で」

京介「言っている意味が……」

929: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:25:03.19 ID:uaCV+eog0
桐乃「いいから早く!」

なんだなんだ。 やけに急かすな。 まあ、桐乃の頼みとあっちゃ断れんが。

京介「……ほらよ。 これで良いか?」

桐乃「まだダメ。 次は片手をあたしの頭の横に付けて。 もう片方の手であたしの両手首を掴んでね」

言われるがまま、俺は桐乃の後ろにある壁へと手を付ける。 そしてもう片方の手は、桐乃の頭上で手首を抑える。

京介「こ、こうか?」

930: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:25:29.76 ID:uaCV+eog0
桐乃「うんうん。 良い感じ。 んじゃ次はそのまま肘も壁に付けて」

注文がやたら多いな……。 何がしたいんだ? こいつ。

京介「……」

んで、俺はそれを実行したわけだが……やたらと桐乃の顔が近い。 そりゃ、桐乃に覆いかぶさるようになっているわけだから当然だろうけど。

桐乃「もうちょっとこっち来て。 あたしの膝の上に乗る感じで」

京介「い、良いのかよ?」

桐乃「良いって言ってるの。 早くして」

931: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:26:00.11 ID:uaCV+eog0
……なんだかエロい格好になってきたぞ。 こいつは本当に何をやろうとしているんだよ。

桐乃「うん。 良い感じ」

桐乃「じゃあ最後に、そのままゆっくり顔をあたしに近づけて」

京介「いやいや! 恥ずかしいんだけど!?」

桐乃「……あ、あたしだって恥ずかしいし」

じゃあやるなよ!? なんだこれ!?

いやでもこれはある意味チャンス……。

932: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:26:25.36 ID:uaCV+eog0
京介「い、良いんだな?」

欲望に負けた俺がそう聞くと、桐乃はこくりと小さく頷く。

京介「……桐乃」

桐乃「……京介」

そんなとき。

ガチャりと、扉が開いた。

933: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:26:52.00 ID:uaCV+eog0
この場面で開く可能性があるとすれば、玄関の扉。

しかしそこからすぐの場所で俺と桐乃はこうしているわけで……。

つまり訪問者から、俺と桐乃は丸見えというわけである。

あやせ「お邪魔します……って、何やってるんですか!!」

934: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:27:18.46 ID:uaCV+eog0
桐乃「あ、あやせ!! 助けて!!」

はは、なるほど。 そういうことか桐乃さん。

京介「おま……ハメやがったな!?」

桐乃「京介が無理やり……あやせぇ!」

さっきのくすぐりの仕返しと言ったところだろう。 もうこれ、仕返しってレベルを超えている気がするんですけど。

とまあ、こんな感じである日の一日は終わっていく。

935: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:27:45.87 ID:uaCV+eog0
あやせ恐怖症なる病気が存在するならば、俺は間違いなくかかっているだろう。

……俺が何をされたかって?

ひとつだけ言えることは……そうだな。

とても口には出来ない恐ろしいこと、とだけ言っておこう。

妹は神様です 終

京介「行ってきます」
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1378727397/)

456: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:16:31.04 ID:p6pxM8T80

桐乃「あの子さ、最近成績がちょっとねー」

……ううむ。 そっち系の話と来たか。

正直、俺も人に自慢できる程の頭は持ち合わせていないし、そういう方向の問題なら桐乃に任せているのだが。

まあ、桐乃が相談してきているんだ。 その相談に乗ってやらないわけにはいかないよな。

京介「分かった。 着替えてからでも良いか?」

桐乃「うん。 あたし、リビングで待ってるから」

457: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:17:12.16 ID:p6pxM8T80
京介「おう。 すぐ行くよ」

俺は桐乃に言い、一旦部屋へと入った。

着ていたスーツを壁に掛け、ふと物思いに耽る。

そういや、昔似たような顔をされた気がするな。

あの時はもっと、事態は大きな物だったが。

458: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:17:43.61 ID:p6pxM8T80
「……」

俺と桐乃はいつものアパートに居た。

時刻は夜中。 明日からはしばらくの間、俺と桐乃は休み。

俺は仕事が始まるのでぼけっとだけはしていられないが、今日くらいは別に構わないだろう。

桐乃は布団を口元まで被り、俺はそこから少し離れた場所で窓の外を見ていた。

お互いに無言で、普段なら別に気まずくは思わないが……今日は違う。

ぶっちゃけ、すげえ気まずい。

459: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:18:13.83 ID:p6pxM8T80
そんな気まずさを紛らわす為に、俺はきらきらと光っている星を見ながら今日のことを振り返る。

まず、そうだ。

大学の卒業式があったんだ。

いやいや、今思い出したみたいになっているが……しっかり覚えていたぜ?

だけど、そんな今日のことがもう遥か昔みたいな感覚になりつつあるんだよな。

460: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:18:39.59 ID:p6pxM8T80
それくらい、今日は色々とあったから。

家に帰ってきて、すると桐乃から『人生相談』があると言われて。

連れて来られた場所は、いつかの式場だった。

桐乃「……」

ふと桐乃の方を見ると、起きているのが見て取れる。

俺はそれを確認した後、ようやく口を開いた。

461: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:19:11.26 ID:p6pxM8T80
京介「なあ、桐乃」

桐乃「……」

桐乃はそれに答えない。

その沈黙は恐らく、黙って聞くということだろう。 それくらい、もう分かる。

俺は小さく笑うと、続けた。

京介「……子供の名前どうする?」

462: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:19:37.59 ID:p6pxM8T80
桐乃「は!? ちょっと待った! いきなりそれ!?」

桐乃はがばっと飛び上がり、俺の方にどんどんと詰め寄る。 さっきまでのしおらしさはどこへ行ったんだ。

京介「じゃあ他に何て言えってんだよ?」

桐乃「もっとあるでしょ!! これからのことを語りだすとか、あたしを安心させるようなことを語るとか!」

分かった分かった。 分かったから胸倉を掴むのはやめてください。 首が絞まって息が出来ません。

463: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:20:04.15 ID:p6pxM8T80
京介「お、落ち着け……落ち着けって。 そりゃ、お前が元気無さそうにしてたからさ」

桐乃「あったりまえじゃん。 だって」

桐乃「……そんなの、おかしいし」

言うと、桐乃は俯く。

……はぁ。 仕方ねえな。

てか、お前は望んでいたんじゃないのかよ。

いいや分かっているさ。 こいつだって、本心はそうなのだろうから。

464: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:20:37.33 ID:p6pxM8T80
京介「そうだ。 おかしい」

京介「でも、今更じゃねえか」

桐乃「だけど!」

京介「……そりゃ、大変だとは思うぜ」

京介「だって俺とお前は兄妹なんだから。 それはもう変えられないからな」

桐乃「うん。 分かってる」

465: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:21:08.34 ID:p6pxM8T80
桐乃は目尻に涙を少し溜めて、漏らすように言った。

桐乃「……こんなんだったら、本当に義理なら良かった」

京介「ばーか。 弱音吐いてるんじゃねえよ。 似合わねえ」

俺は桐乃にでこぴん。

桐乃「……はいはい。 今のは忘れて」

俺にでこぴんされた場所を摩りながら、桐乃。

京介「俺だって、怖いんだよ」

466: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:21:35.85 ID:p6pxM8T80
俺の言葉に驚いたような顔を桐乃はしていた。 意外に思っているのか、それとも。

これはあくまでも俺の予想で、事実は違う可能性なんて存分にある。

桐乃はこの時、こう思っていたのでは無いだろうか。

嬉しい、と。 俺が真剣に考えていて、嬉しいと。

467: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:22:41.96 ID:p6pxM8T80
京介「怖くて、怖くて堪らねえよ。 だけど、それでも俺はそうしたいんだ」

京介「そんな怖いだとか、不安だとか、全部吹っ飛んじまうくらいにお前のことが好きだから」

京介「お前となら、大丈夫だと信じられるからな」

そうして俺は桐乃に笑い掛ける。

桐乃の顔を見て、俺はこう思った。

ああ、くそ。 やっちまった。 って。

468: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:23:07.75 ID:p6pxM8T80
どうやら俺は、親父との約束を破ってしまったらしい。

面目無い。 悪いな、親父。

だけど、どうしてだろうな。

どうして俺は、こんなにも幸せな気持ちになっているのだろう。

それは今、目の前にある物を見ればなんとなく分かる。

桐乃の頬を伝っていた涙を見れば、なんとなく。

469: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:24:31.28 ID:p6pxM8T80
桐乃「ちょっと、着替えるのにどんだけ時間掛かってんの?」

京介「おお、悪い悪い。 今行くから待ってろ」

桐乃「ふん。 早くしてよね。 あの子も待ってるから」

桐乃は言うと、部屋の扉を少しだけ勢い良く閉める。

……変わらないなぁ。 昔っから。

470: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:25:32.50 ID:p6pxM8T80
あの日、俺と桐乃はひとつの約束をしたのだ。

正真正銘、俺と桐乃だけの秘密。

これが破られる日は恐らく来ないだろうし、来たとしても手をあげて喜べやしないだろう。

もし、万が一に破られるとしたら。

つまり、あの時とは逆ってことだから。

今はとにかく、桐乃からの呼び出しに早く答えてしまわないとな。

俺と桐乃の大切な子の為にも。

471: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:25:59.72 ID:p6pxM8T80
「桐乃、ひとつ約束してくれるか」

「なに? 約束って」

「もし、子供が出来てさ……生まれたら」

「……俺とお前が兄妹ってことは、絶対に秘密だ」

「……子供を騙せってこと?」

「そうだ。 ばれたら皆が傷付くから、俺とお前が背負わないといけないんだよ、それは」

472: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:26:47.18 ID:p6pxM8T80
「ずっと、一生?」

「多分、な」

「……」

「……桐乃、これは大切なことだから。 それくらい分かるだろ? だからしっかり返事、聞かせてくれ」

「……うん。 分かった。 絶対に言わない」

「……ごめんな」

473: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:27:15.57 ID:p6pxM8T80
「京介が悪いわけじゃないから。 悪いのはあたしも一緒」

「そうだな。 へへ」

「大丈夫だ。 俺とお前の子供だぜ? 超立派になるに決まってんだろ」

「……八割あたしのおかげだけどね?」

「へいへい……」

474: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:29:02.53 ID:p6pxM8T80
「桐乃……幸せか?」

「ふん。 分かってるくせに」

「……心配か?」

「……やっぱり、ね」

「……怖いか?」

「……うん」

「……なあ、桐乃」

「安心、出来たか?」

「……うん。 ありがと」

475: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:29:29.83 ID:p6pxM8T80
京介「悪い、待ったか?」

桐乃「ぜーんぜん? ねー?」

桐乃は言うと、正面にちょこんと座る中学三年生になる娘に語りかける。

……ほんと、成績が芳しくないのは桐乃が溺愛している所為なのでは。

だってこいつらときたら、すぐに俺をからかってくるからな。 いっつも手を組みやがって。

まあ、良いさ。 俺には俺で手を組む奴が居るからよ。

高校三年生になる、立派な息子が。

476: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:29:56.75 ID:p6pxM8T80
……で、ちょっと待て。

なんでその息子の方も、一緒になって居るんだ?

京介「……桐乃?」

桐乃「……あたしも分からないって」

桐乃に耳打ちをして尋ねたのだが、どうやらこいつも理由はしらないらしい。

477: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:30:25.80 ID:p6pxM8T80
ふうむ。 確かに前まで喧嘩ばっかだったのが多少はマシになったとは思うけど、妹の説教にわざわざ同伴までするのだろうか。

何か、こいつの方からも話があるのか? そしたら。

京介「……そっちの話から聞くか。 それで良いよな?」

俺が息子に話し掛けると、一度頷き、口を開いた。

478: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:30:57.89 ID:p6pxM8T80
その言葉は結局、回りまわって来たというわけで。

こいつら兄妹は結局、俺と桐乃の子供というわけで。

どこまでそっくりなんだろうな。

なあ、桐乃。

お前もそう思うだろ? こいつらはやっぱ、俺たちの子供だよ。

この兄妹の場合は一体、どんな物語になるのだろうか。

479: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:31:23.20 ID:p6pxM8T80
俺はそれに真剣に耳を傾けなければなるまい。 無論、桐乃も。

親として、家族として。

そして俺と桐乃……兄妹としても、な。

全く。 やれやれ。

桐乃からの『人生相談』は、終わったとしても。

その性格やら、考え方やら、やり方も。

しっかりと受け継がれてしまっている様だ。

480: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:31:50.58 ID:p6pxM8T80
「ね、京介」

「……ん?」

あの日。 約束を交わした日。

桐乃は俺に、こう言った。

「もし……さ。 あたしと京介の子供が、馬鹿やったらさ」

「馬鹿ってのは、俺とお前が馬鹿やってるみたいにか?」

481: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:32:17.13 ID:p6pxM8T80
「うん。 そう」

「それで、今度はあたしたちが親の立場だったとしたら」

「……しっかり話そう。 全部」

「……おう。 分かった」

「それで助けてあげよう。 傷付くとは思うけど、そうしないとダメだと思うから」

「助ける……ってのは? どっちの意味でだ?」

「……まだ分からないかな。 その時になってみないと、分からない」

「そっか。 でも、良いぜ。 約束だ」

「……うん!」

482: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:32:44.52 ID:p6pxM8T80
あの時のどっちかは、もう桐乃は分かったのだろうか。

俺はしっかりと分かった。

だってよ、こんな真剣な顔をされちまったら適わねえよ。

隣に座って先ほどから黙っている桐乃の顔を俺は見た。

そして、すぐにそれも分かった。

桐乃も俺が何を言おうとしたのかは分かったようで、俺と桐乃は同時に口を開く。

「俺に任せろ」「あたしに任せて」

483: ◆IWJezsAOw6 2013/10/14(月) 15:33:13.23 ID:p6pxM8T80
俺はしっかりと幸せを見つけた。

小さくて、見落としていたかもしれない幸せを。

でも見つけることが出来たんだ。 俺には、桐乃が居たから。

だから大丈夫だよ。 お前らにもきっと見つけることが出来るだろうさ。

なんつったって、俺と桐乃の子供なんだから。

幸せの形 終

533: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:44:27.35 ID:409ArHoo0
あやせ「それじゃ桐乃、また明日」

桐乃「うん。 ばいばい」

いつもの分かれ道であやせに手を振り、あたしとあやせは別れる。

学校から帰るときはいつもここで手を振って、遊ぶ予定とかがない時は「また明日」仕事とか、遊ぶ予定がある時は「また後で」そんな感じで、いつも分かれている場所だ。

そして今日はその前者。 遊ぶ予定が無い日。

あやせは暇だったらしく、今日この日は遊びに誘われていたんだけど……。

それでもどうしても、あたしには今日を譲ることはできなかった。

534: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:45:06.19 ID:409ArHoo0
桐乃「……」

あやせが角を曲がり、あたしの視界から消える。

桐乃「よし、よし! 早く帰らないと!!」

それを確認して、走り出す。 もうマジで、今この瞬間にリアと勝負すれば勝てるんじゃないかってくらいの走り。

それもそう。 今日は新作エロゲーの発売日!!

待ちに待って、ようやく訪れた今日!

京介は休みで家に居るので、午前中には届くように通販を使っておいた。 帰ったらすぐやりたいし。

今度のエロゲーは普通じゃない。 前作の2倍のボリューム、シナリオ分岐、システム面の改善。 他にも色々あるんだけど。

535: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:45:34.08 ID:409ArHoo0
しかーし! それさえも「その他」に分類しちゃうくらい新しいシステム!

簡単に説明すると、なんと本編をヒロイン視点でプレイすることが出来ちゃうの!

一周すれば解放されて、主人公の内面だけでなく、ヒロインたちの内面も全部見れちゃうってワケ! ヤバくない? あのかっわいいヒロインたちがどんなことを思っているのかとか、考えただけでテンションあがるんですケド!!

そんな新作エロゲーをいち早くプレイしたく、あたしは走って家に帰っているのだ。

桐乃「ふひひ~。 ヤバイってヤバイって……ひひ」

536: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:46:01.95 ID:409ArHoo0
桐乃「たっだいまぁ!」

京介「おう。 おかえり」

桐乃「エロゲー届いた!?」

京介「帰ってきて早々それかよ……。 分かってたけどな」

京介「ほら。 しっかり受け取っといたぜ」

京介は言うと、あたしにそのゲームを手渡す。 タイトルは『妹姉妹』。

読み方は『マイシスター』。 いい名前っしょ?

537: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:46:30.81 ID:409ArHoo0
桐乃「うひょお! きたぁああ!!」

京介「エロゲーも良いけどよ。 今日、お前の番だからな?」

……知ってる知ってる。 分かってるって。

桐乃「……ねね。 お願いがあるんだけど」

京介「お前今の俺の言葉から言うお願いって、あれしかねえじゃん」

桐乃「明日と明後日あたしが材料買ってくるから、今日は頼んで良い? ね?」

538: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:47:11.22 ID:409ArHoo0
京介「……明日と明後日とその次の日も」

桐乃「……うぐぐ」

京介「睨んでも譲らねーぞ。 へへ、別に嫌なら良いんだぜ?」

桐乃「チッ……。 分かった。 明日から三日連続ね」

京介「オッケーオッケー。 なら聞いてやろう」

偉そうに言ってるけど、結局あたしが一緒に来てって言えば一緒に来るじゃん。 素直じゃないなぁ。

539: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:47:40.00 ID:409ArHoo0
桐乃「ふひひ。 かえでちゃん、今から一緒に遊ぼうねぇ……じゅる」

京介「……程ほどにな」

京介の言葉を軽く受け流し、手洗いなどを済ませ、パソコンの前へスタンバイ。

京介はどうやら、時間までは勉強をしている様子。 地味に偉いんだよね、そういうとこ。

って、今はそっちに気を取られてる場合じゃない。 あたしはかえでちゃんを愛でなければならないのだ。

桐乃「いんすこいんすこ~。 うわ、なが」

さすがに大容量だけあってかなり時間が掛かりそう。 にしても、なーんかパソコンが重い。

うーん、文句言っても仕方無いよね。 それまでどうしよっかな。

540: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:48:05.85 ID:409ArHoo0
桐乃「よし! お風呂だ!」

京介「うるせえよ! 独り言でももう少し静かにやってくれ!」

桐乃「……う、はいはい」

いけないいけない。 ついつい興奮してしまった。

京介も本気で怒っているわけでは無い……けど。 それでも、邪魔になっていそうなのは事実だしね。

は~。 素直に自分の非を認めるあたしは偉いなぁ!

541: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:49:00.81 ID:409ArHoo0
京介「機嫌良さそうで何よりだ。 だけど……別にお前は偉くねえぞ?」

桐乃「へ? ちょ、あたし今口に出てた?」

京介「出ては無いけど、顔を見れば分かる」

……そんなジロジロ見ないで欲しいんですケド。 シスコンシスコン。

桐乃「そんなあたしの顔を見たいなら、もっと近くに寄ればぁ? ふひひ」

京介「……」

茶化すようにあたしが言うと、京介は黙って立ち上がる。

542: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:49:26.65 ID:409ArHoo0
で、あたしのすぐ傍まで来て、あたしの顔を両手で挟む。

いやいや待って! 何この展開!?

あたしもしかして、無理矢理キスとかされちゃうワケ!? ありえなくない!?

桐乃「な、なにしようっての」

京介「何も? お前が顔を見たいなら近くに寄れって言うから、こうしてるだけだけど」

桐乃「……見るなッ!」

京介の手を無理矢理解き、あたしはそそくさとお風呂場へと向かっていった。

543: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:49:53.32 ID:409ArHoo0
桐乃「……はぁあああ」

なんだっての。 普通、いきなりあんな近くに来る? 京介ってばそれでなんとも無い様な顔をするからムカつくムカつく。

あたしが逆に顔を近づけたら顔を赤くして逸らす癖に。 一体何を考えているのやら。

そんなことより! 今はとにかくエロゲーエロゲー。 ちゃっちゃとお風呂を済ませて、エロゲーに興じるとしよう。

桐乃「ふひひ……待っててね。 かえでちゃん……ふひ」

「おーい、声聞こえてんぞ」

と、扉の奥から京介の声がする。

544: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:50:23.26 ID:409ArHoo0
桐乃「盗み聞きとかキモ~い。 そんなにあたしの声が聞きたかったワケぇ?」

「へいへい……すいませんでしたね」

正直な話、また同じ様なノリだと思ったんだけど……違うのか。 それともなに、京介もやっと振りじゃないってことを理解してくれたみたいな?

ばかじゃんばかじゃん。 どう考えても振りでしょうが!

……あたし少しのぼせたかな。 馬鹿なことを考えている気がするし。

そうと分かればちゃっちゃと出よう。 そんで、エロゲーをプレイしよう。

ていうか、当初の目的ってそれだしね。 京介と話すことじゃないし。 ふん。

545: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:50:56.47 ID:409ArHoo0
桐乃「飲み物オッケー! お菓子オッケー! よし、やるぞぉおお!」

京介「……なんか、お前見てると楽しくなってくるな」

桐乃「なにそれ。 馬鹿にしてる?」

京介「してないしてない。 全然、これっぽっちも」

桐乃「……ふうん。 ま、良いや」

横でちょくちょくと口を挟んでくる京介の方に顔を向け、あたしはありがたいお言葉を放ってあげる。

546: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:51:59.89 ID:409ArHoo0
桐乃「ねね、特別に一緒にやってもいいよ?」

京介「……お前がどうしても一緒にやって欲しいって言うなら、別に良いけど?」

桐乃「しっしっ……あっち行け」

京介「へいへい……」

別にそこまでして一緒にやって欲しくは無いし~。 あたしはどうでも良いし~。

……素直に一緒にやりたいって言えばいいのに。

ま、まぁ良い。 気持ちを切り替えて~っと。

547: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:53:08.26 ID:409ArHoo0
桐乃「……てか、なんか長くない? まだ終わって無いとか」

てっきりインストールは終わっていると思ったんだけど、どうやらまだ終わっていない様子。

ふうむ。

仕方無い、とりあえずネットサーフィンでもして時間を潰そう。

で、マウスを握って操作……しようとしたとき、気付く。

桐乃「ウソ。 フリーズしてる」

うーん……最近、特に変わった様子は無かったんだけど。

548: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:54:06.99 ID:409ArHoo0
桐乃「……はぁ」

仕方無い仕方無い……ウィルスチェックは後でやるとして、とりあえず応急処置で違うパソコンを使おう。

メインがこれだから、使いやすいんだけどね。

京介「おう、どうしたんだよ。 見るからにしょぼくれてるけどよ」

桐乃「パソコンが固まったの。 なーんか重いし、変……」

言いながら、横に居る京介の方に顔を向ける。

なんだ、結局一緒にプレイしたかったんじゃん。

549: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:55:27.59 ID:409ArHoo0
……じゃない! いやいや、もしかして。

桐乃「ねえ、昨日パソコン貸したよね?」

京介「その言い方だと俺が貸してくれって頼んだみたいじゃねえか……」

別にそんなのはどうでも良い。 ただ、京介には未だにエロゲーに対する信念とか信条とかが足りないとあたしが思って、ゲームを貸してあげたんじゃん。

無論、プレイするのはあたしが家に居るとき限定でね。 で、問題はそれ。

桐乃「京介さ、ゲーム以外やってない?」

550: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:56:37.78 ID:409ArHoo0
京介「そんなのお前が見てる前でしかやってないんだから……」

桐乃「じゃなくて、あたしがお風呂入ってたりしてる間」

京介「ん? ああ、その時は暇だったから適当にネット見てたけど」

……それだ! 絶対それだ!

桐乃「そ、その時……なんか怪しいサイトとか見てない?」

京介「見てねえよ! 見たら絶対お前怒るじゃねえか!」

551: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:58:01.35 ID:409ArHoo0
桐乃「……ふうううむ」

京介の顔を見る。 見る。 見る。 見続ける。

京介「……」

恥ずかしそうに顔を逸らす京介。 うん、嘘は吐いて無さそう。

京介「……あ、でもさ。 お前が喜ぶだろうと思って」

桐乃「あたしが?」

京介「おう。 なんか、変な表示が出たからよ」

桐乃「……うん」

ヤバイ。 嫌な予感がしてきた。

552: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 21:59:03.09 ID:409ArHoo0
京介「なんだっけな……お使いのパソコンがクラッシュ寸前です、みたいな」

桐乃「……そ、それで?」

京介「やべえって思って、サイトを辿って行って……改善するソフト落としといたぜ」

それだああああああああああああ!!!! 絶対それじゃん!!!!! 何してくれてんのこのクソ兄貴!!!!!!

桐乃「……ふ、ふふ」

京介「……桐乃?」

桐乃「こんのクッソ兄貴!!!!!!!!!!」

553: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:00:53.65 ID:409ArHoo0
それからは説教。 延々と。

どのくらいだろう。 約二時間ほどは続けた気がする。 勿論、その間に別のパソコンでエロゲーのインストールは済ませているけどね。

桐乃「そんなんだからあんたは何も分かってないの! 妹たちに申し訳ないとは思わないワケ? しっかり心の奥から悪いと思ってんの?」

桐乃「大体、京介にはエロゲー愛がまず足りてない。 保管の仕方も適当だし、扱いも適当すぎ。 定期的にパッケージも出して拭かないと埃が付いちゃうでしょ。 聞いてる?」

京介「……はい」

桐乃「チッ……。 もう良い。 さっさとご飯の材料買ってきて」

554: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:02:02.99 ID:409ArHoo0
全く全く。 分かってくれればいいんだけど、その理解するのに時間掛けすぎ! 京介にも悪気があったってわけじゃないのは分かるけどさ。

京介「桐乃、ごめんな……」

申し訳なさそうに謝る京介に、本来なら「別に良い」くらい言うべき場面だったのだろう。 でも、あたしにはそれが出来なかった。

家を出て行く京介の背中を横目で見ることしか、出来なかった。

桐乃「……ふん。 ばか」

555: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:03:34.01 ID:409ArHoo0
桐乃「ふひ、ふひひ」

やっぱこのエロゲー、マジ神ゲーすぎ! あー、なんかむしゃくしゃした気分だったけど、結構エロゲーやったらすっきりしたかも。

桐乃「かえでちゃんかぁいいなぁ……」

だってさ、ちょっと考えてみてよ?

今、あたしがやっているシーンは「主人公の姉がデパートで迷子になった妹を見つけたシーン」なんだけどね。

ここで少しだけ製作側のサービスか、ちょっとだけかえでちゃんの内面が見れるようになってるんだ。

556: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:04:56.33 ID:409ArHoo0
んでんで、その時のかえでちゃんの台詞。

「別に迷子になってないし。 お姉ちゃんが迷子になってたんでしょ?」

って言って可愛らしく笑うの。 でも、笑いながらも少し泣きそうになっているんだよね。

ここで内面! 内面が見れんの!

あたしが代弁すると……。

「……怖かったよ。 お姉ちゃん」

ヤーーーーバーーーーイーーー!! このなんとも無いような顔をしながら、心の中では怖くて怖くて堪らなかった感じがヤバすぎ!!

557: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:06:21.06 ID:409ArHoo0
これはもう、いち早くクリアして全部の心情見るしか無いっしょ!? それ以外の選択肢はありえない!!

桐乃「ちょっと、あんたさっきからなに黙ってんの?」

と言いながら、あたしは横を見る。

桐乃「……あ」

そうだった。 京介、今出かけているんだった。 あたしの代わりに。

……気にしない気にしない。 隣に居なくたって、平気だし。

桐乃「続き続きっと……」

それからエロゲーを続けること数十分、やがて、京介が帰ってくる。

558: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:07:56.20 ID:409ArHoo0
京介「……」

黙ったまま買ってきた物をテーブルの上へと置く京介。

桐乃「……ただいまくらい言ったら?」

京介「ん、ああ……ただいま」

なにこの雰囲気。 調子狂うなぁ。

それが嫌で、一旦ゲームは中断。

あたしは立ち上がると、京介の下へと向かった。

559: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:08:40.54 ID:409ArHoo0
桐乃「京介」

京介「な、なんだ?」

桐乃「あたしはベツに気にしてないから。 もう大丈夫だって」

京介「……つってもよ」

桐乃「あたしが良いって言ってるんだから良いの! 分かった!?」

京介はその言葉に首を縦に振る。 よし、これにて一件落着。

560: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:09:23.15 ID:409ArHoo0
とは行かなかった。 京介は一応は納得したような素振りを見せた物の、結局は全然元に戻って無い。

あたしが声を掛けてもどこか上の空って感じだし、ぼーっとしながら歩いて何も無いところで転びそうになっているし。

あんたはいつから天然キャラになったんだっての! ああもう。 やっぱ調子狂う。

そうと決まれば、することはひとつだ。

今日中に絶対、京介を元に戻してやるんだから。

……京介がこうなってしまったのも、あたしに原因の一端があるのは確かだしね。 本当に、米粒くらいの大きさだけどね。

覚悟しておきなさいよ、京介。

561: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:10:52.95 ID:409ArHoo0
ってわけで、作戦その壱。

さり気なく優しくする作戦。

桐乃「はい、お茶淹れたよ」

今日はちょっと寒いから、暖かいお茶。 未だにぼーっとして壁にもたれて座っている京介に差し出す。

京介「……ああ」

反応薄ッ! もっとこう「ありがとう桐乃」みたいなのは無いワケ? あたしの思惑通りだと、京介はあたしの頭の上に手を置いて、撫でてくれるはずだったんだけど。

……仕方無い。 ここはひとつ頑張ってみよう。

562: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:11:37.54 ID:409ArHoo0
ってわけで、作戦その壱。

さり気なく優しくする作戦。

桐乃「はい、お茶淹れたよ」

今日はちょっと寒いから、暖かいお茶。 未だにぼーっとして壁にもたれて座っている京介に差し出す。

京介「……ああ」

反応薄ッ! もっとこう「ありがとう桐乃」みたいなのは無いワケ? あたしの思惑通りだと、京介はあたしの頭の上に手を置いて、撫でてくれるはずだったんだけど。

……仕方無い。 ここはひとつ頑張ってみよう。

563: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:12:35.69 ID:409ArHoo0
桐乃「えへへ」

そう言って、京介の顔を見ながら笑ってみる。 いや大分ヤバイって、恥ずかしすぎるんですケド。

変に緊張しちゃって、なんだか笑い方がぎこちなくなっている気がする。 頬がぴくぴくするし。

京介「……」

ハァ!? 反応無し!? ていうか、あたしに意識あんま行って無くない? あたしが折角こんな可愛い顔を見せてあげているのに、その態度は無くない!?

落ち着け落ち着け。 まだダメと決まったワケじゃないし。

……優しくする作戦、失敗。

564: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:13:56.96 ID:409ArHoo0
まだまだ諦めない。 あたしには次の作戦がある。

作戦その弐。

名付けて、甘えてみる作戦。

桐乃「ね、ねえ」

先ほどの場所から動かない京介に隣に、ちょこんとあたしは座り込む。

で、隣を向いて話し掛ける。

京介「……ん」

桐乃「あ、あああ、あ、頭……」

565: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:14:59.60 ID:409ArHoo0
桐乃「……頭、撫でて欲しいなぁ」

よし良く言ったあたし! これでもう、一発でしょ。 あたしの経験則で言わせれば、これで落ちない兄は居ない。

エロゲーの経験でだけどね。

京介「……」

シカト!? ちょ、ちょっと待て。 さすがのあたしでもその反応はダメージ大きいって。

もう一回言う……? 聞こえてなかったかもだし……。

やっぱムリ! 作戦変えよう、それが良い!

566: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:15:27.11 ID:409ArHoo0
作戦その参。

デレデレしてみる作戦。

ふ、ふふ。

これ、もう最後の砦みたいなもんだよね。 いつもは全く、一ミリも、一切京介に対してデレっとしないあたしがデレれば、余裕でしょ。

台詞はどうしようか。 一発勝負だし、威力が高そうなのが良いよね。

……うーん。

「お兄ちゃん、大好き」

無い。 はっきり言って無い。 あたしから見ても、ぶっちゃけキモい。

567: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:17:31.44 ID:409ArHoo0
「京介、大好き」

ふっざけすぎ! それが正面から言えれば苦労しないっての!! 却下却下!! ありえない!!

「一緒にゲームしよ?」

……ふむ。

無難、かな? いつものあたしだったら「あんたもゲームやるんだから、とっとと来て」だとか「あたしが一緒にやれっつってんの。 意味分かる?」みたいな言い方をするのだろうけど。

今日のあたしはデレてやるんだ。 だから、言い方も優しく。

こうするのが多分、一番効果あるんじゃないかな? 勿論、もっとデッレデレの台詞……それはもう、あたしが大好きなエロゲーのヒロインたちみたいな台詞を言えれば良いんだけどさ。

さすがになぁ……。

それを言えないから、あたしなんだし。

ってわけで、作戦決行。

568: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:17:59.85 ID:409ArHoo0
桐乃「……京介」

京介の前でしゃがみ込み、顔を覗き込む。

京介「……どした」

なんだか、悲しそうな顔をしていた。 京介は今、何を思っているのだろうか。

桐乃「その、あのさ」

あたしはさっきまで考えていた台詞を言おうとする。

言おうとして、口を開こうとして、京介の顔を見て。

気付いた。

569: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:18:26.09 ID:409ArHoo0
あたしが京介を元気付けようとやっていたことは、ただあたしがしたかったことなんじゃないかって。

あたしがそうしたいから、そうしただけなんじゃないのかって。

今、考えるべきことは何だろうか。

分かっている。 京介がこうなってしまった原因だ。

普通に考えれば京介も悪い。 でも、それはあたしも一緒かもしれない。

逆の立場だったとして、あたしが京介にあれこれ言われたら、そりゃあ落ち込んでしまうだろうし。

そしてそれから考えることは、思わなければいけないのは、京介の気持ちだ。

570: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:24:28.51 ID:409ArHoo0
あたしは一人じゃない。 京介と一緒に、居たい。

桐乃「……ごめん」

用意していた台詞は結局、何も言えなかった。 その代わり、口から出てきたのは謝罪の言葉。

……今の今まで、言ってなかった言葉。

京介「なんで、お前が謝るんだよ。 悪いのは俺だろ」

京介は言い、あたしの頬へと手を添える。

桐乃「違う。 その……あたしも、言いすぎちゃったし」

桐乃「それで、京介落ち込んでたみたいだし……だから」

571: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:25:12.80 ID:409ArHoo0
あたしは言う。 これがあたしの言いたかったことなのだろう。 そう、思いながら。

京介「……お前、そんなこと考えて」

京介はもう一度悲しそうな顔をした後、自分の頬を両手で叩く。

京介「うし。 分かった。 お前にそんな顔されたら適わねえよ」

京介「桐乃、悪かった。 ごめん」

桐乃「あたしも、ごめんね」

572: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:25:42.93 ID:409ArHoo0
それから京介はいつも通りに戻って、少し二人で色々と話した気がする。

京介曰く、今回のことは本当に悪いと思っていて、それであたしに謝られて、何をしているんだって気持ちになったらしい。

お互いに謝って、手打ちにすることになった。 それはお互いに口には出さなかったけど、雰囲気で……空気で、分かった。

だからあたしは、京介に言う。

桐乃「よし! じゃあほら、エロゲーやるよ!」

京介「……結局それかよ」

573: ◆IWJezsAOw6 2013/10/22(火) 22:26:24.80 ID:409ArHoo0
桐乃「あたしが一緒にやれっつってんの。 意味分かる?」

京介「へいへい。 分かりましたよ。 お供させて頂きます」

そうして並んで座って、いつも通りの日常。

それに必要だったのは、たった一つの言葉だった。

言葉に込めて 終

621: ◆IWJezsAOw6 2013/11/13(水) 23:51:02.19 ID:HY2bmXZv0
「それでは、次の方どうぞ!」

響く声。 歓声をあげる大勢の人。

俺はそんな熱気溢れる空間の丁度一番後ろ辺りに居た。

メルルのイベントとかとはまた一風違った雰囲気の会場。

例えるならば……そうだな。

今、俺が居るこの場の空気を表すと「わー!」だとか「ひゅー!」だとか、多分そんな感じになるのだろう。

それはもう、普通にライブだとか、高校でのイベントとか、そんな熱気溢れる場だ。 そう思って貰えれば問題は無い。

622: ◆IWJezsAOw6 2013/11/13(水) 23:51:28.69 ID:HY2bmXZv0
んで、メルルのイベントの場合。

もうあっちはそんなレベルじゃねえ。 あれは「うぉおおおお!!」だとか「メルルぅうううう!!」だとか、こんな感じ。

いざ言葉で表してみると後者の方が盛り上がっている様にも見えるが、この俺が今感じている熱気も実際のところ、それとは良い勝負だと思う。

そんな会場のボルテージが上がる瞬間。 司会の人の声によって一人一人が壇上を歩く瞬間である。

イベントのメインってことだし、そこで盛り上がらなかったらイベントとしては失敗だろうけどな。

まぁ、そんな失敗も無く盛り上がっているわけだが。

623: ◆IWJezsAOw6 2013/11/13(水) 23:51:58.34 ID:HY2bmXZv0
「こんにちは! 特にここの大学の生徒じゃないとダメってワケじゃないみたいだから、来ちゃいました!」

……そして俺はこの状況をどう説明すれば良いのだろうか。 頭が痛い。

今、マイクを持って歓声に答えている奴が出ているイベント。 それがこの「サマーへ向けて楽しまナイト」。

名前を付けた奴はセンスが無いのは明らかだし、何より今は夜じゃない。 というか、そんなことはどうでも良いんだった。

問題はイベントの内容だ。

イベントの名前からしたら全く予想は出来ないが、とりあえず1から説明すると……。

624: ◆IWJezsAOw6 2013/11/13(水) 23:52:26.16 ID:HY2bmXZv0
まず、今は俺が通う大学の学園祭が行われていて。

そして毎年恒例……らしいこの「サマーへ向けてなんちゃら」が行われていて。

……去年は結局、参加しなかったしなぁ。 学園祭。

友達が居ないわけじゃないぞ。 断じて。 俺にだって話す奴はいるし、遊ぶ奴だっているさ。 ただ、高校の時の友達の様にそこまで深くつるんでいるわけじゃないだけで。

その所為もあり、中々参加しにくかったというわけだ。 で、そんな俺が何故今年は参加しているのかと言うと。

625: ◆IWJezsAOw6 2013/11/13(水) 23:52:56.59 ID:HY2bmXZv0
赤城「おいおい高坂。 もっと面白い反応を期待していたのに何頭抱えてるんだよ?」

こいつに誘われたからだ。

去年は特に何も言われなかったから俺も何も言わなかったんだが、今年はやけに俺を参加させたがっていて……で、参加したらこれだ。

京介「お前の企みは理解した。 頭いてえ……」

言いながら、俺は目頭をつまみ、きつく目を閉じる。

願わくは次に目を開けたときには、目の前の光景が変わっていればと。

俺はそう思い、目を開ける。

「あはは。 ありがとうございまーす!」

しかしそんなことは無く、壇上にはやはり俺の妹が居た。

626: ◆IWJezsAOw6 2013/11/13(水) 23:53:37.71 ID:HY2bmXZv0
京介「学園祭?」

赤城「そっそ。 どうせ暇だろ? 行こうぜ」

暇なのは確かだからなんとも反論できない。 せめて桐乃が家に居れば、反論できたというのに。 赤城が言った日にちは見事に桐乃から「予定があるから家を空ける」と言われていた日だった。

予定が何なのかは言っておらず、俺も対して問い質す様な真似はしなかったけど。

京介「……ま、別に良いか。 よくよく考えれば断る理由も無いし」

赤城「よし! そうと決まればメインイベントには必ず参加したいよな!?」

627: ◆IWJezsAOw6 2013/11/13(水) 23:54:23.13 ID:HY2bmXZv0
京介「しらねえよ! まず、何でお前が俺が通っている大学の学園祭に詳しいんだよ!?」

赤城「瀬菜ちゃんから色々聞いてるんだよ。 同じ大学だろ?」

京介「まーそうだけど……。 てか、それなら瀬菜と行けばいいじゃんか。 なんで俺?」

赤城「それには深い理由があるんだよ。 俺だって出来ることなら瀬菜ちゃんと一緒に行きたかった!!」

絶対、対して深い理由とかねえな。 瀬菜は彼氏と回りたいんだろうし。 その辺りの事情をうまいこと濁されて納得させられたのだろう。 惨めな奴だ。

京介「分かった分かった……。 で、そのメインイベントって何だ?」

628: ◆IWJezsAOw6 2013/11/13(水) 23:54:50.63 ID:HY2bmXZv0
赤城「知らないのか? 結構有名なはずなんだけど」

そう言う赤城の顔は割りと真剣で、その表情から大学内だけで有名な話でも無いとのことが分かる。

赤城「ま、良いか。 簡単に言うと……コンテストみたいな物かな。 ミスコンだよ」

京介「へー」

赤城「興味無さそうだなお前……。 お前が通う大学に可愛い子ばっか集まるんだぜ? 超楽しみだろ普通!」

京介「俺は別に出会いなんて求めてないし、可愛い子も見慣れたしなぁ? あやせとか」

ここでさすがに桐乃とかって言ったらマズイかもしれないので、一般的に見て桐乃の次に可愛いあやせの名前を出す。

629: ◆IWJezsAOw6 2013/11/13(水) 23:55:28.75 ID:HY2bmXZv0
赤城「それだよそれ!! あーくそ……何であやせたんが出ないんだ……」

京介「そもそもあいつ、大学生じゃないだろ……しかもモデルとして雑誌には出てるんだし、それで良いじゃんか」

赤城「そんな子が大学に来て、生で見れるのが良いんだろうが! モデルとして見るよりもっと身近に感じるだろ!?」

そう力説されても困る。 高校の時……いやまあ、大学に入ってからもか。 普通にあいつとは話しているし。

赤城「それに高坂、甘いぜ。 そのミスコンには部外者でも参加オーケーなんだよ。 だから俺はこうも悔しがっているんだ」

へぇ。 最早それ、大学のミスコンじゃなくて、ただ可愛い子を集めたいだけじゃないのか。

630: ◆IWJezsAOw6 2013/11/13(水) 23:56:51.84 ID:HY2bmXZv0
……桐乃が出たら、あいつのことだから優勝とかしちまうんだろうなぁ。 贔屓目無しでさ。

そういった何々だろうなだとか、あいつならきっとだとか、そういうのを本当にしてしまうのが桐乃だし。

京介「ま、そのミスコンとやらはどうでも良いが……参加すれば良いんだろ? お前が瀬菜と回れずに悲しんで居るのを放っとくのもあれだしな」

赤城「うるせえ。 お前だって妹と回れていないじゃねえか!」

京介「俺の場合は桐乃が忙しいからだ! だけど、俺がどうしてもって言えばあいつは一緒に来てくれると思うぜ?」

変なところで意地を張る俺。 そしてそれは赤城の意地でもあった。

631: ◆IWJezsAOw6 2013/11/13(水) 23:57:23.32 ID:HY2bmXZv0
赤城「ほ、ほお? 言っとくけどな高坂。 俺だってどうしてもって言えば瀬菜ちゃんは一緒に来てくれるはずだ!!」

京介「どうだかね~。 そんな薄っぺらい言葉じゃ信用できないな、赤城さんよ」

ぶっちゃけると俺と赤城の立場はまるで一緒のはず。 しかし何故か、俺が優位に立っているような感じだった。

赤城「……上等だ! ちょっと待ってろ!!」

赤城は勢い良く言い、俺から数歩離れると携帯を取り出し、どこかに電話を掛ける。

……大方、瀬菜だろう。 というか行動が早すぎる。 断られても知らないぞ俺は。

632: ◆IWJezsAOw6 2013/11/13(水) 23:57:51.73 ID:HY2bmXZv0
そして数分後。

案の定というか、予想通りというか、死にそうな顔の赤城が戻ってきた。

赤城「……高坂ぁ」

マジで泣きそうだ。 大丈夫かこいつ。

いやでも……気持ちは分からなくも無い……気がする。

必死に頼んで断られたのなら、尚更だし……。

633: ◆IWJezsAOw6 2013/11/13(水) 23:58:28.80 ID:HY2bmXZv0
京介「そ、そんな落ち込むな赤城。 俺もお前が電話している間に頼んだんだが……結果はお前と一緒だ」

嘘だけど。 俺の場合は嘘だけどな。 こんな状態の赤城を放って置くのはさすがに気が引けるから。

もう一度言っておくぞ、俺は桐乃に振られたわけじゃない!

ただ、先ほど打った誘いのメールの返事が「ムリ」っていう簡素な物だっただけだ。

お、俺はそんな必死に頼んだわけじゃないし。 だから赤城よりはまだマシだし。

……やべ、泣きたい。

634: ◆IWJezsAOw6 2013/11/14(木) 00:00:27.77 ID:MeHzVInG0
京介「なんか妙だとは思ったけどな……そういうことだったのか、赤城」

この大学で開催されているミスコン、そして出場している桐乃、つまりは赤城はそれを知っていて俺を連れてきたということだ。

でも、だとしたら一体どこからそんな情報を手に入れたのだろう? まさか、桐乃に直接聞いたわけじゃああるまい。 もしそうだったら、赤城には俺の許可無く桐乃と話した罪で鉄拳制裁を……。

赤城「こ、高坂。 落ち着け、お前声に出ているからな」

赤城は一歩二歩後退り、俺と距離を取る。

赤城「俺が聞いたのは瀬菜ちゃんからなんだよ。 理由は教えてくれなかったけど……お前を何とかして学園祭に連れて行けって頼まれてさ」

……ふむ。 それならまあ、確かにあり得そうな話ではある。 桐乃と瀬菜は意外と仲良くやっているみたいだし。

635: ◆IWJezsAOw6 2013/11/14(木) 00:01:08.35 ID:MeHzVInG0
赤城「んで、ここに来てよーやく分かったってこと。 お前の妹が出てきてさ」

赤城「……良いよなぁ」

京介「何がだよ……。 俺としては、なんかこう……なんとも言えない気持ちなんだけど」

赤城「いやいや、普通にお前に対するサプライズみたいなもんだろ? 瀬菜ちゃんも実は出てたり……」

そう言いながら、辺りをきょろきょろと見回す赤城。

そうか、サプライズか。

桐乃からのちょっとしたプレゼント。 そう考えると……まぁ、嬉しいけど。

だから桐乃は俺からの誘いを断って、今日は用事があると言っていたのか。

……全く馬鹿な奴だ。

636: ◆IWJezsAOw6 2013/11/14(木) 00:02:34.98 ID:MeHzVInG0
そんなことを思いながら、軽く泣きそうになる俺。 ここで泣いたら赤城から相当な変人扱いをされかねないので、必死に堪えるが。

「えー、それではメインイベントに移りたいと思います!!」

司会がマイクを通し、会場全体に通る声で唐突にそう言うと、再びボルテージは最高潮へ。

というか、メインイベント? 桐乃でどうやら出場者は最後だったみたいだし……これで結果発表的な物をして終わりじゃないのか?

その結果発表がメインと言えばそうかもしれないが……なんだか、嫌な予感がする。

「まずは結果発表からで~す! とは言っても、決めて頂くのは皆さん!」

「この子が一番だ! と思った人の時に、目一杯拍手をお願いします! 今年はかなりレベルの高い子が多いので、面白くなりそうですね~」

等と言いながら、司会はどんどんと話を進める。

637: ◆IWJezsAOw6 2013/11/14(木) 00:03:08.46 ID:MeHzVInG0
会場も司会が話す度に歓声を上げ、確かにこれは毎年かなりの盛り上がりと言われているのも頷けるな。

どうやら隣に居る赤城はすっかりそれに呑まれて、司会が参加者を紹介する度、歓声と拍手を送っていた。

……いや、お前は一人に決めろよ。

「それでは次の方! きりりんさんどうぞ~!」

そう桐乃の名前が呼ばれた瞬間だった。

638: ◆IWJezsAOw6 2013/11/14(木) 00:03:35.62 ID:MeHzVInG0
会場の雰囲気は一気に変わり、まるで人気グループのライブ会場にも感じられるほどの熱気に包まれる。

ライブ会場というよりは、男性アイドルがサプライズで登場して一気に盛り上がる感じの方が近いかもしれない。 まるで会場が揺れているかの様な錯覚を覚えるほど。

俺も当然、桐乃の時に拍手を贈ったのだが……この分じゃ多分、あいつには届いていないだろう。

「……はは、凄いですね。 もうこれ、優勝で良いですね!」

司会がそう言い参加者達の方に顔を向けると、皆一様に首を縦に振っていた。 そりゃあまあ、雑誌にも出る様な奴だしな……。 こう言っちゃ悪いが、スポーツで例えると素人の集団に一人だけプロが混じって試合をしている様な物だろうさ。

との訳で、とんとん拍子に桐乃は優勝ということになったのだが。

639: ◆IWJezsAOw6 2013/11/14(木) 00:05:23.65 ID:MeHzVInG0
問題はこの後だ。

「皆さん静かにー! それでは優勝者も決まったところで、賞品を賭けたゲームを始めたいと思いまーす!!」

……ゲーム? なんだ、そういう遊び要素も含まれているのか。

赤城「へへ。 高坂、頑張れよ」

京介「……頑張るって、何が?」

赤城「え? お前しらねえの……ってそうか。 高坂、このイベント自体知らなかったのか」

赤城の言葉が終わるか終わらないかくらいのところで、司会から再び声が発せられる。

640: ◆IWJezsAOw6 2013/11/14(木) 00:06:01.73 ID:MeHzVInG0
「今年の賞品はコレ! なんと、今年の優勝者と一日デートが出来る権利です!!」

おお、確かにそれはすごい賞品だ。 なるほど。

そりゃ、ミスコンで優勝出来るほどに可愛い奴とデートできるなんて、男だったら是非とも獲得したいだろうしな。

……いやいやそうじゃねえ! なんだって!?

「は、はぁ!?」

桐乃もどうやら、それは知らなかったらしい。

641: ◆IWJezsAOw6 2013/11/14(木) 00:06:55.54 ID:MeHzVInG0
赤城「……お前の妹、なんも確認しないで参加したんじゃないか?」

その言葉から考えるに、しっかりと事前に説明はあるとのことだろうな。 あいつ絶対、周りが見えない状態になっていただろ……参加するとき。

いつにも増してお洒落をしている桐乃は壇上に設置されている椅子に大人しく座っていたのだが、その司会の言葉を聞いて立ち上がると、一気に司会へ詰め寄っていた。

俺の場所からは全くどんなやり取りなのかは聞こえない。 しかし数分話した後、桐乃はここから見ても分かるくらいに肩を落としながら、自らの椅子へと戻り、座った。

……落ち着いた、とはとても言えない状態だ。 明らかにそわそわしているし、手を忙しなく動かしている。

ああくそ! なんだか知らんが面倒なことになったのは違いねえ。 とりあえず今やるべきこと、だ。

642: ◆IWJezsAOw6 2013/11/14(木) 00:07:48.64 ID:MeHzVInG0
桐乃に期待するのは……少し、厳しいだろう。 いざとなったらあいつは相手をこれでもかってくらいに振るだろうが……それは同時に、桐乃に泥を被せてしまうことにもなる。

自業自得と言えばそうかもしれない。 だけど、俺はそんなんで納得できやしない。

なるべく何事も無く無事に、桐乃に変な噂が流れないように、解決しないと。

俺としては、勿論桐乃が良く分からない奴とデートなんてありえないと思っている。 だから、つまり。

京介「赤城、お前か俺か、絶対に勝つぞ」

赤城「おうとも! お前の妹可愛いしな。 デートできるならそりゃ頑張るぜ!」

京介「ちげーよ! お前が優勝したら権利を俺に譲れ。 分かったな?」

643: ◆IWJezsAOw6 2013/11/14(木) 00:08:34.09 ID:MeHzVInG0
赤城「……なんだ高坂。 お前、妹とデートしたいのか?」

京介「だったら聞くぞ。 お前は瀬菜が良く分からない奴とデートしていてもいいのか?」

赤城「……」

赤城は少しの間黙り、思考する。

その間、約2秒ほど。

赤城「高坂! お前の気持ちは良く分かった! 俺が勝ったら権利をお前に譲ってやる!! そして真壁の野郎はいつか絶対にしばく!!」

一体どんな想像をしたのかは詳しく考えたく無いが、乗ってくれたならそれで良しとしよう。

待ってろ桐乃。 必ず、どうにかしてやるからな。

644: ◆IWJezsAOw6 2013/11/14(木) 00:09:59.88 ID:MeHzVInG0
そして時間は経過し、ゲームが始まって数十分が経とうとしていた。

ゲームの内容は簡単な○×ゲームで、司会が出した問題に○か×かで分かれるという、良くあるゲームである。

問題が簡単な内は赤城と俺とで一緒の場所で、見事に正解していったのだが……。

意外にも後半になると難易度が馬鹿みたいに上がり、元々頭の出来が良くない俺と赤城は結局、途中で分担作戦を決行し、今残っているのは俺だけというわけだ。

「それでは、次の問題です!」

「いよいよ大詰め、と言った感じですね」

司会が言うように、残っているのは俺を含めても数人。 片手で数えられるほど。

645: ◆IWJezsAOw6 2013/11/14(木) 00:11:19.11 ID:MeHzVInG0
桐乃は途中で俺が参加していることに気付いたようで、祈るように手を合わせ、目を瞑っていた。

何を祈っているかなんて、考えるまでもないだろう。

それよりも最初はこの空間に大勢居た人が、今は殆ど居なくなっているのがなんだか寂しくもある。

まぁ、見ているだけの方からしたら、ミスコン優勝者とデート出来る奴の顔を見たところで、面白くもなんとも無いから出て行ったのだろう。

今残っているのは多分、余程の物好き達というわけだ。

「問題!」

「もう皆さんもお酒を飲む年でしょう。 飲んでいない方もいるとは思いますが」

「サークルでの飲み会などもありますし、それにちなんだ問題です!」

646: ◆IWJezsAOw6 2013/11/14(木) 00:12:35.70 ID:MeHzVInG0
「カクテルとして有名なゴッドファーザーですが」

やべぇ、何言っているんだこいつ。

「作り方はウィスキーとアマレットを混ぜた物である! ○か×か!」

知らねえよ! 大学生でそんなの知ってるなんて、よっぽどの酒好きかそっちの道を目指している奴だろ!!

くそ、どうする。 赤城は……。

半ば助けを請うように、遥か後ろで見物している赤城に視線を送ったのだが。

頭をぼりぼりと掻き、謝るジェスチャー。

647: ◆IWJezsAOw6 2013/11/14(木) 00:13:51.00 ID:MeHzVInG0
まぁ、分かっていたら逆に凄いとは思うけども。

頼みの綱の桐乃は、どうやら全く知らないらしい。 先ほどの祈る姿勢から変化が無い。

仕方無い。 ここはもう運頼み……。

そう思って、○の方へ行こうとした時だった。

参加者は俺を含めて四人なのだが、その殆ど全員が焦る中、一人だけそそくさと×の方へ移動する奴を見つけた。

……あいつ、もしかして知っているのだろうか?

だとしたら、あいつに付いて行くのが正解だ。 確率が五分なら、少しでも可能性が高い方に移るべき。

そんな経緯があり、参加者四人は分かれ終わる。

648: ◆IWJezsAOw6 2013/11/14(木) 00:14:32.82 ID:MeHzVInG0
×には三人。 ○には一人。

なるほど。 これが多数決勝負なら勝ちだが……ま、可能性はこっちの方がありそうではある。

しかし、生憎そう上手くは行く物では無い。

「正解は———-」

「○です!」

ミスコン 前編 終

676: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:02:18.13 ID:bVGBZrlT0
どうする。

「いやー、決まっちゃいましたね。 それでは、正解の方はこちらへ来てください!」

視界の隅で、その正解者が舞台の方へ歩いていくのを捉えながら、俺は必死に考えていた。

何をするべきか。

桐乃の方を見るのが怖く、あいつがどんな顔をしているのかを見るのが嫌で、ゆっくり目を瞑る。

落ち着け。

どうにかするんだ。

677: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:02:56.08 ID:bVGBZrlT0
……それとも、これは俺が我侭なだけなのだろうか。

普通に考えれば、事前にどんな内容だったかチェックしておかなかった桐乃が悪い。

そして、このイベントで負けてしまった俺も悪い。

だから、自業自得。

そういうことなのだろうか?

心の奥底で、頭の片隅で、思って。 目を開けた。

678: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:04:05.65 ID:bVGBZrlT0
丁度視界の真ん中に桐乃が居て。

ここからは大分距離が離れているが、見えた。

未だに諦めず、祈るように手をきつく組んで、目を閉じている桐乃の姿が……見えた。

俺は一体、何を諦めているのだろうか。 こんな状況で、何もしないでぼーっと立っていれば誰かが助けてくれるなんてことは無いんだ。

どうにかするのは、出来るのは多分、俺だけ。

……だったら!

679: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:05:29.06 ID:bVGBZrlT0
桐乃は俺の妹で、俺の家族で、俺の大切な人なんだよ。

そんな桐乃があれほど助けを求めているのに、放っておけるわけがない。

京介「ッ!」

地面を思いっきり蹴り、走る。

向かう場所は勿論、桐乃のところ。

誰よりも早く、桐乃の下へ向かう為に。

680: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:07:27.34 ID:bVGBZrlT0
遠く思えた距離はあっという間に縮み、俺は壇上へと飛び乗る。

周りが一瞬呆気に取られ、動きが固まっているのが分かった。 それもそうだ、ここに居る誰もが「一体こいつは何だ?」と思っているのだろうから。

しかしそれはどうやら違ったようで、この場に限っては二人ほど例外が居たらしい。

一人は。

桐乃「京介!」

桐乃だ。

681: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:08:09.11 ID:bVGBZrlT0
桐乃は俺が近づいてきたことにすぐ気付くと、駆け寄ってきた。 このまま一緒に走って逃げても良いのだが、生憎桐乃は舞台衣装っぽいひらひらとした服を着ている。 そんな状態では多分、走ったとしても転ぶ可能性が高いだろう。

京介「……少し我慢しろよ。 緊急事態だ」

桐乃にそう告げ、抱き上げる。

そうした瞬間こそ恥ずかしそうに桐乃はしていた物の、すぐに自分ではうまく走れないことを理解したのか、俺の首へと両腕を回す。

全く……これじゃあまるで誘拐犯だぞ。 当初よりは大分人が減ったので、目撃証言は少なくて済むが……明日からの大学生活が少しだけ心配だなぁ。

なんてことを考えているときに、一瞬の内に視界が奪われた。

なんだ? 停電……なのか?

682: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:08:42.44 ID:bVGBZrlT0
いや、違う。

恐らく誰かが照明を落としたのだろう。 それをやりそうな奴を俺は知っている。

……それをやったのはもう一人居た例外。 赤城だ。

恐らく、俺がこの行動をすると予想が出来ていたのだろう。 妹大好きなあいつのことだし。

結局俺も、そうなんだけども。

しかしこれは助かった。 この暗闇に乗じて行けば、誰にもばれずに桐乃と脱出できる。

京介「……よし!」

こうして俺は桐乃を抱えたまま、ミスコンの会場を後にするのだった。

683: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:10:18.36 ID:bVGBZrlT0
京介「はぁ……はぁ……ここまでくりゃ、大丈夫だろ」

あれから大分走り、今は大学から遠く離れた場所。 途中で通行人などから奇異の目で見られてた気がするが、気にしないでおこう。

通りかかった公園に入り、そこにあったベンチで休憩。

桐乃「……はー。 マジでびっくりした」

桐乃はそんなことを呟きながら、ベンチへと腰を掛ける。

684: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:11:05.77 ID:bVGBZrlT0
京介「俺はそれプラスめっちゃ疲れたぞ……」

桐乃「少し走っただけじゃん。 あれくらいで根をあげないでよ」

そりゃ俺だって多少は鍛えたりしているから一人で走る分には問題無さそうな距離だったけど、お前を抱えて走ってたんだよ! 疲れない方がおかしいだろうが!

との思いを桐乃に向ける。 勿論、口に出したら怒られると思うから視線で、だ。

桐乃「……なに。 もしかしてあたしが重かったからとか言いたいワケ?」

どうやらお見通しだったらしい。 怖いなこいつ。

685: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:11:55.36 ID:bVGBZrlT0
京介「そんなわけないだろ? めちゃくちゃ軽くて心配になったくらいだぜ」

うむ。 ここはとりあえず持ち上げておくべきだろうな。 一旦は。

桐乃「へえ。 よし……」

桐乃は言うと、立ち上がる。

京介「どうしたよ?」

桐乃「良いから、早く立って」

一体何をする気なのだろうか。 そう思いつつも、俺は言われた通りに立ち上がる。

686: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:12:51.38 ID:bVGBZrlT0
桐乃「……」

すると桐乃は無言で俺に両手を向ける。

京介「……ん?」

桐乃「……軽いんでしょ? なら家まで運んで」

前言撤回しよう。 確実に持ち上げるべきではなかった。

京介「……マジか?」

桐乃「マジマジ。 ひひ」

大学からここまで、家の方向とは正反対に走ってきたから……。

いやいや、結構な距離あるんすけど。

687: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:13:23.97 ID:bVGBZrlT0
京介「……途中で倒れたら後は頼んだぞ」

桐乃「だいじょーぶだって。 そしたらあたしは歩いて帰るから」

京介「お前のことじゃねえよ! 俺の体のことを言ってんの!」

桐乃「……うーん。 まあ、仕方ないから救急車くらいは呼んであげてもいいよ」

笑いながら言うんじゃねえよ。 どれだけ小さな優しさだこれ。

京介「ったく。 俺は折角お前を助けてやったってのによー」

688: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:14:59.23 ID:bVGBZrlT0
桐乃「助けてなんて言って無いし~?」

京介「お前なぁ……」

桐乃「ベツにいいでしょ? 京介満足してるし?」

……まあそうだけどな! そうだけどなんか違う!

桐乃「それとも「大好き!」とか言って欲しかったワケ?」

その「大好き!」って言葉自体が冗談だとしても、俺はなんだか恥ずかしくなってくるぞ。

京介「……へいへい。 んじゃ、帰るとするか」

689: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:15:28.12 ID:bVGBZrlT0
俺は言い、桐乃を抱き上げる。

ちなみに今は夕方。 夏が近いこともあり、日は大分伸びてきているので意外と明るい。

一般的な家庭ならば、そろそろ夕飯となりそうな時間帯だ。

「ねえねえ、なにあれー?」

散々な目に遭ってしまった所為で、そして必死にここまで走ってきた所為で、全く回りが見えていなかったのだが……。

見ればどうやら、この公園は近所の子供たちが集まって遊ぶ場になっていたらしい。 それを証明するかの如く、小さな子供とそれを迎えに来た母親たちが俺と桐乃のことを遠巻きに見ていた。

京介「……」

桐乃「……降ろして」

690: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:16:13.40 ID:bVGBZrlT0
アニメや漫画の世界でしか見なかった「なにあれ?」「しっ。 見ちゃ駄目よ」を目の前でやられた俺と桐乃の気持ちは多分、これでもかと言うくらい一緒だったと思う。

俺としては助かったが……どうやら妹様は納得が行かなかったらしい。 勿論、恥ずかしいという気持ちはあったと思うけど。

仲良く家に向けて歩き出した俺たちだったのだが、ようやく家まで半分ほど歩いたところで、桐乃が唐突に口を開いた。

桐乃「で、結局何も聞いてなかったケド……どうだった?」

京介「……ん。 えーっと……ミスコンのことか?」

桐乃「そっそ。 何か感想とか無いワケ?」

691: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:17:18.23 ID:bVGBZrlT0
京介「……ま、ぶっちゃけて言うと桐乃だからなぁ。 優勝するとは思ったけどさ」

桐乃「真顔でそれを言われるとさすがに恥ずかしいっての……って、そうじゃなくて」

桐乃は若干顔を赤らめながら、そっぽを向きながら言う。

桐乃「あたしが出て、驚かなかった?」

京介「驚いたに決まってんだろ……最初は良く似た奴が居るもんだと思い込んでいたけどよ」

というよりは、自分に言い聞かせていたと言った方が正しいだろう。 だってマジで信じられなかったしさ。

692: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:18:07.87 ID:bVGBZrlT0
桐乃「んで、その後は?」

京介「その後って……」

京介「……まあ、そりゃ嬉しかった」

桐乃「ひひ。 そっか」

それは本当に正直な気持ちだ。 桐乃が俺を驚かせる為にやってくれて、嬉しかった。

京介「だけど、少しは事前に確認しとけって……お前、相当テンパってただろ?」

桐乃「そりゃね……でも、結構落ち着いてたかも」

693: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:18:39.14 ID:bVGBZrlT0
京介「どう見てもそうは思えなかったが……」

桐乃「うっさい。 心の中では落ち着いてたんだって」

京介「ふうん? どして?」

桐乃「秘密~。 えへへ」

桐乃は機嫌が良さそうに、言う。 なんとなくは分かってきたが……これはなんとなくのまま、終わらせておこう。

694: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:19:09.49 ID:bVGBZrlT0
桐乃「てか、それより!」

京介「な、なんだ?」

桐乃は俺の方へ向き直ると、指を差しながら告げる。

桐乃「折角優勝したのに、何も貰えなかったんだよね」

まあ、逃げてきたわけだしな。

桐乃「でもさ、優勝したあたしが何も貰えないっておかしくない? 理不尽だよね?」

どちらかというと、一番理不尽な目に遭ったのはさっきのイベントの○×ゲームで勝ち残った奴だろう。 あいつにとっては、本当に時間の無駄になっただろうし。

695: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:19:51.28 ID:bVGBZrlT0
桐乃「だから、京介」

京介「……何か寄越せってことか?」

桐乃「お! さっすがぁ。 分かってんじゃん」

台詞だけ聞くと、まるで喝上げされているみたいだ。

……妹に喝上げされる兄貴。 なんとも情けない響きである。

京介「うーん……」

桐乃「何か無いの?」

696: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:20:24.52 ID:bVGBZrlT0
京介「じゃあ、そうだな」

俺から桐乃にあげられる物なんて大した物では無いが……。

俺は桐乃の肩を掴み、顔を若干近づける。

京介「大好きだ。 桐乃」

桐乃「なっ……」

桐乃は口をぱくぱくさせ、声にならない声を出しながら、顔を真っ赤に染める。

ほんと、一々反応が愉快な奴だな。

697: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:20:51.05 ID:bVGBZrlT0
桐乃「不意打ちはやめろっ!!」

思いっきりビンタされた。 前言撤回だ。 一々反応が恐ろしい奴にしておくべきだろ。

……なんだか今日は、自分の発言を撤回することが多いな。 もう少し責任を持って発言するべきなのだろうか。

京介「いってえ! お前それはひでえよ!?」

桐乃「あ、あんたがいきなりゆうからでしょ!!」

どれだけ恥ずかしがっているんだよ。 さすがにもう慣れて欲しいのだが。

698: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:21:38.27 ID:bVGBZrlT0
京介「……わ、悪かったな」

とは口では言った物の、ぶっちゃけかなり納得がいかないぜ。

だって、この前こいつに「桐乃、今からお前に好きって言うぞ」と言ってから先ほどの台詞のようなことを言ったのだが、こいつの反応はこうだ。

「……なんか予め言われると感動薄いかも」

びびる。 それで今日この反応だからな。 いやでも感動してくれているってのは分かったから良いのか……?

絶対よくねえ! 危うく叩かれたことを良しとしてしまいそうになった!

699: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:22:12.54 ID:bVGBZrlT0
桐乃「……」

桐乃はそう言った俺の顔をじっと見つめる。

京介「な、なんすか? 謝っちゃ駄目だった……とか?」

桐乃「……そうじゃないケド」

桐乃「京介って、絶対あたしのこと責めないよね?」

京介「……そうか?」

京介「つっても、かもしれないな」

桐乃「シスコンシスコン」

700: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:22:54.94 ID:bVGBZrlT0
……否定できねえ。 最早否定するつもりも無いけど。

にしても、俺が桐乃のことを責める……ねえ。 一昔前ならあり得たかもしれないが、今の状態だとよっぽどのことが無ければそうはしないだろうな。

それは言ってしまえば逆でも成立しているんだが。 桐乃も俺を責めるようなこと、しないし。

黒猫に言わせてみれば「それはさすがに勘違いだと思うわよ……」なんてことを言われそうではある。 しかし、桐乃も本気で俺を責めるようなことはしていないんだよな。

京介「ブラコンが何言ってるんだか」

俺が言うと、桐乃は一瞬だけむっとした表情をする。 だがそれも一瞬だけで、すぐにニヤニヤと笑い始めた。

桐乃「へえ? ふうん?」

701: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:23:28.33 ID:bVGBZrlT0
あー、嫌なパターンだな……。 こいつの表情と言い方からして、絶対に何かしら企みがあるぞ、これは。

京介「……謝ったら間に合う?」

桐乃「ふひひ。 間に合わない」

時既に遅し。

桐乃「……ねえ、京介」

京介「な、なんでしょう?」

桐乃「あたしさぁ、ブラコンだからぁ? お兄ちゃんが大好きなのぉ」

702: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:24:06.11 ID:bVGBZrlT0
語尾をわざとらしく伸ばし、桐乃は続ける。

桐乃「んでぇ、話変わるケド……一応、ミスコン優勝したじゃん?」

京介「……んむ」

桐乃「ふひひ。 ご褒美ちょーだい」

そう言うと、桐乃は俺の方に真っ直ぐと顔を向けたまま、目を瞑った。

ふと、ここでそのまま放っておいて帰ったらこいつはどんな反応をするのだろうか、なんて意地悪な思いが浮かんでくる。

……うーむ。

703: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:24:54.30 ID:bVGBZrlT0
間違いなく後で酷い目に遭わされるだろう。 それは避けておくに越したことはない。

それに、ぶっちゃけ俺に対するご褒美じゃん! そう考えると急にドキドキしてきたな。

京介「……」

しかしあれだ。 最近では桐乃に良い様に手玉に取られている感があるからなぁ。

なんとか仕返しをしたい。

……よし。

俺はそのまま桐乃に顔を近づけ、キスをする。

口では無く、頬に。

704: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:25:27.95 ID:bVGBZrlT0
すると桐乃はすぐさま目を開け、こう言った。

桐乃「……違くない!?」

京介「あ~。 そうだったのかぁ~。 悪いな~」

わざとらしく言うと、俺は先に歩き始める。

それにしても、むすっとした表情も普通に可愛いから驚くぜ。 そんな表情をされてしまっては、なんだか胸が痛いじゃねえか。

桐乃「……ふん」

と言いながら、桐乃は少し駆け足で俺のすぐ後ろを歩く。

705: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:26:28.71 ID:bVGBZrlT0
京介「あ」

桐乃「ちょ、急に止まらないでよ」

桐乃は俺の背中にぶつかり、そう文句を言ったのだが。

俺は振り向き、桐乃にキスをしてやった。 勿論、口に。

桐乃は驚いて目を開き、それでも少しすると、ゆっくり目を瞑る。

……それから少しの間、俺と桐乃はキスをしていた。

706: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:26:54.34 ID:bVGBZrlT0
桐乃「……」

京介「……」

先ほどからずっとこの調子。 桐乃はそっぽを向いて、俺の方を向きやしない。

さっきまであれだけ素直にしていたってのに……分からない奴だ。

一応それでも、俺の腕を掴んではいるんだけどな。

京介「……怒ってんのか?」

桐乃「……なワケ無いでしょ」

707: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:27:35.44 ID:bVGBZrlT0
京介「だろうな」

桐乃「分かってるなら一々言わないで」

あー。 マジやべえ、こいつ可愛い。

京介「へいへい。 悪かったよ」

言い、桐乃の頭を撫でる。

ほんの一瞬、猫のようにふにゃっとした表情になった後、むすっとした顔をする。

しかしそれでも、何故か俺との距離を少し詰めてきたな……こいつ。

708: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:28:12.39 ID:bVGBZrlT0
ま、こんな感じで一件落着と言ったところだろう。

俺は俺のやり方でなんとかうまく纏められた気はするし、誰の力も借りないで……とは、とてもじゃないが言えないけれど。

それに関しては、赤城にしっかりとお礼をするとしよう。

……別に変な意味では無いぞ? 瀬菜じゃあるまいしな。

にしても、もうすぐ夏か。

桐乃と一緒になってから二回目……か? お互いが本音を伝えてから、数えたとしたら。

709: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:28:38.71 ID:bVGBZrlT0
そんなことをふと空を見上げ、思う。

そして未だに薄っすら明るい空から、夏の香りが漂っているのを感じた。

後幾らかしない内に、やがて季節は変わるのだろう。

確実に時間は経過するし、誰もそれを止めることは出来ない。 だから俺は、精一杯こいつと一緒に楽しんでいきたい。

勿論、それで学業を疎かにはしないけど。

……それを気をつけないといけないのは俺の方だろうな。 桐乃は絶対に大丈夫だろうし。

桐乃「ねえ、京介」

710: ◆IWJezsAOw6 2013/11/21(木) 01:29:20.64 ID:bVGBZrlT0
そんな桐乃が唐突に口を開く。 俺は一度足を止めると、桐乃もすぐに足を止めた。

何故そうしたのかと言われれば、そうだな。 なんとなく、桐乃が大切なことを言おうとしている雰囲気が、俺に伝わったのだろう。

しっかり正面から聞かないといけないことだと、思ったから。

京介「どうした?」

俺が聞くと、桐乃は俺を掴んでいた腕を離し、自身の胸に手を当てる。

桐乃「……ありがと。 今日は、ほんとにありがとね」

この言葉はきっと、桐乃が今日ずっと俺に伝えたかった言葉なのだろう。

ミスコン 後編 終

753: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:35:10.39 ID:GVwU+c2+0
12月24日、クリスマスイブ。

その日は俺にとって特別な日であり、それはきっとあいつも同じことだろう。

今から丁度一年前、今までは特になんとも思わなかった日が、特別な日へと変わった。

そして今日はその日であり、俺は起きて早々に意識せずにはいられなくなっている。

京介「……ううむ」

ベッドの上に座り込み、考える。

754: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:35:50.29 ID:GVwU+c2+0
京介「普通に挨拶するべきか……? それとも、何か気が効いたことを言った方が良いのか……?」

朝の7時、窓から見える爽やかな青空とは違い、俺はどうしようも無く悩んでいた。

悩んでいることは一つ。 この『特別な日』である今日……その相手にどうやって挨拶をすればいいか、だ。

つい昨日までは普通に会話をしていたし、お互いに敢えて言い出さなかったのかもしれないが、この日に関してのことは何も話など無かったのだ。

あいつ……桐乃は今、俺と同じ様に悩んでいるのか?

……俺にどう挨拶すれば良いのか悩んでいる桐乃か。 妹ながら、ちょっと可愛く思えてくる。

まあ、俺があいつのことを可愛いと思っているのは今に始まったことでも無いけれど。

755: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:36:17.04 ID:GVwU+c2+0
京介「……あーくそ! 悩んでいても埒が明かねぇ!」

……よっし。 めちゃくちゃ爽やかに挨拶してやろう。 俺はやれば出来る男のはずだからな。 へへ。

京介「……ふー」

一度深呼吸をし、立ち上がる。

目指す場所は我が家の一階。 桐乃は恐らく、ソファーで雑誌でも読んでいるだろう。 さっき下に向かっていく足音が聞こえたしな。

こうして俺、高坂京介の一日が始まった。

756: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:36:43.21 ID:GVwU+c2+0
京介「……」

とりあえずは様子見も兼ねて、無言でリビングへと繋がる扉を開ける。

確か昨日の夜、お袋は近所の人らとどこかへ出掛けると言っていたっけか。 親父はいつものことだが、仕事で出ているだろう。

ってことは、この家に居るのは俺と桐乃だけで、ぶっちゃけて言うとそれはある意味好都合だったのかもしれない。

やがて視界が開かれ、リビングにいつも通り居る桐乃の姿が……。

757: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:37:10.67 ID:GVwU+c2+0
京介「ねえ!?」

ちょ、ちょっと待て。 これはさすがに予想外だ。 なんでいねえんだよあいつ!?

京介「……落ち着け落ち着け。 どうせすぐに戻ってくるだろ」

多分、風呂にでも入っているのかもしれない。 ここでエロゲの主人公だったら風呂場まで確認しに行く常識の無さを発揮するのだろうが、生憎俺は常識を弁えているからな。

決してびびっているわけではない!

758: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:37:36.32 ID:GVwU+c2+0
それから待つこと数分。

京介「……来ないな」

もしかして、この日の出だしから俺は間違えたのか?

桐乃が居ない理由……か。 あり得るとしたら、あいつがやっているモデルの仕事ってところだろう。

……だけど、なんか釈然としない。

あいつが今日この日に限って、仕事を入れると思えない。 はっきりとした理由は分からないけど、なんとなくそう思うだけ。

759: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:38:03.64 ID:GVwU+c2+0
京介「……ん。 ちょっと待てよ」

俺はこのリビングに来てから、ずっとソファーに座って桐乃のことを待っていたのだが……わざわざ家中を探すより、手っ取り早く桐乃が外出しているか否か分かる方法があったじゃねえか。

出掛ける時は当然靴を履くだろうから、玄関に桐乃の靴が無ければアウトで、あればセーフってこと。

京介「うっし」

そうと決まれば善は急げ、確認。

760: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:38:31.29 ID:GVwU+c2+0
京介「……はぁ」

結果から言うと、靴は無かった。

つまり、あいつはどこかへ出掛けているということだ。

京介「くそ……」

気分的には、出鼻を挫かれた感じ。 俺のプランだともう既に、二人で今日のことを話しているはずだったのだが……。

それが未だに、挨拶すらできていない。 下手したらそれすらままならないまま、今日が終わってしまう可能性さえある。

……それは駄目だ! ていうか、それはあいつも分かっていると思うんだけどな。

761: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:38:58.00 ID:GVwU+c2+0
一応、その、なんだ。 俺と桐乃の間には色々あったわけだし。

そんな感じで玄関前で、一人色々と想像してニヤついたり顔を赤くしているときだった。

桐乃「ただいま……って何してんの?」

俺が今一番会いたい奴が目の前に現れた。

京介「お、おう!?」

762: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:39:23.87 ID:GVwU+c2+0
ええっと、つまりこれはどういうことだ。

桐乃はどこかへ出掛けていて、帰ってきたってことか? そうとしか考えられない状況だし。

それに、右手に持っている袋からなんとなくそれは分かるわけだし。

……よし、よし。 まずは落ち着け。 当初の目的を思い出そう。

つうか、俺はなんでこんな緊張しているんだ! 相手は妹だぞ!? そりゃまあ、俺にとっては色々思うところもあるのは事実だけども!

えーっと……。 そうだ。

まずはあれをするべきだろう。 最初に会ったときしようと思っていた挨拶。

763: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:39:50.63 ID:GVwU+c2+0
京介「……桐乃」

一度咳払いをしてから、桐乃の名前を呼び、顔を正面に見据える。

何度見ても整った顔立ちで、外の寒さの所為なのだろうか。 頬の辺りが少しだけ赤くなっている。

当の桐乃は、俺が何を改まっているのか分かっていない様子で、きょとんとした目を俺に向けていた。

京介「桐乃、メリークリスマス」

こうして俺はその日にするべき挨拶を桐乃に向けてする。 これを言えば、こいつは今日の日のことを嫌でも考えなければいけないし、俺も後には引けなくなるから。

そんな意味も込めて、俺は言ったのだ。

764: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:40:22.51 ID:GVwU+c2+0
んで。

それに対する桐乃だが、こいつが何て言ったか分かるか? よし、教えてやろう。

桐乃「その、京介」

桐乃「……クリスマス、明日だけど」

本当に、正しくその通りである。

765: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:41:16.36 ID:GVwU+c2+0
京介「……で、それは?」

あれから少し経ち、俺と桐乃はリビングにあるテーブルを挟んで、向き合って座っている。

桐乃「これ? 朝ご飯」

京介「朝ご飯? ああ……それでお前、居なかったのか」

桐乃「お母さん出掛けるって言うからさ、なんか無いとあれだし」

ふうん。 冷蔵庫になんか無かったのかね? 朝飯くらい適当に作れば良い物を。

766: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:41:42.70 ID:GVwU+c2+0
桐乃「冷蔵庫になんも無かったしね。 買ってきたってこと」

俺の考えを読んだかの様に、桐乃は言う。

なるほどね。 その辺りを事前にチェックするしっかり具合はさすがの桐乃ってところか。

てか……そういえばこいつ、料理の方はアレだったんだっけか?

桐乃「……なんか失礼なこと考えてない?」

京介「全然」

桐乃「……チッ」

767: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:42:09.52 ID:GVwU+c2+0
そう睨むなよ。 もっと仲良くやろうぜ桐乃さんよぉ。

京介「つか、それなら俺もなんか買って来るかな……」

こんな寒い中、コンビニまで歩くのさえ苦痛だけども。 何も無いんじゃどうしようもないし。

俺は言いながら立ち上がり、扉へと手を掛ける。

桐乃「……ちょっと待って」

京介「ん?」

今から極寒の地へ繰り出すというのに、引き止めてくれるなよな。

768: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:42:52.04 ID:GVwU+c2+0
桐乃「その、あるから」

京介「……ある? って、何が?」

桐乃「……あんたの分も、買っといた」

あれ?

もしかして、今日って4月1日だったりすんのか? 俺が勝手に12月24日だと思い込んでたのか?

いやでも寒いしな。 それに桐乃はさっき「クリスマスは明日」って言っていたし。

ってことは、だな。

769: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:43:18.87 ID:GVwU+c2+0
京介「……お前が俺に!?」

桐乃「……そ、そんな変?」

俺の驚きっぷりが予想外だったのか、桐乃は少しおどおどと言う。 多分、俺が思うに恥ずかしさってのも混じっているんだろう。

京介「い、いや……変じゃねえけど」

桐乃「ふん。 あっそ」

つんと顔を逸らす桐乃。 そんな仕草も、今となっては大分可愛く見えてくる。

京介「むしろ嬉しいくらいだっての」

俺は桐乃の隣まで行くと、そう言いながら頭を撫でる。

対する桐乃は「手を退けろ」だの「気安く触らないで」だの言わずに、黙って顔を逸らし続けるのだった。

770: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:43:45.24 ID:GVwU+c2+0
なんとなくの流れで二人一緒に朝飯を食い始め、食べている間に会話こそ無かった物の、悪くは無い雰囲気でもあった。

むしろ、どちらかと言うと心地良いくらいの。

ちなみに、俺の分と言い手渡された物は殆ど俺の好物だったのもあり、かなり上機嫌である。

京介「……ほんとありがとな、桐乃」

桐乃「ちょ、何泣きそうになってんの?」

京介「お前って、すっげえ優しい奴だったんだなって思ってさ」

771: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:44:10.67 ID:GVwU+c2+0
桐乃「ば、馬鹿じゃん? ったく」

桐乃「……それくらいで一々喜ばないでよ」

京介「へへ。 次は桐乃の手料理が食いたいなあ」

桐乃「……ふ、ふうん」

さて、余談。

772: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:44:36.70 ID:GVwU+c2+0
この日から数日後、具体的に言うと年が明けた頃の話だが……。

今日の様に両親が居ない時、桐乃が本当に飯を作ってくれたのだ。

俺はすっげえ嬉しくて、味なんか気にせずに食べきったんだよな。

ちなみにそれから数日間、俺はベッドの上から動けなくなってしまったが、それは桐乃の料理とは関係無いと言っておこう。 兄として。

773: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:45:07.68 ID:GVwU+c2+0
桐乃「おっし」

桐乃は飯を食い終わると、後片付けをし、急に立ち上がる。

京介「どした?」

桐乃「あたし部屋戻るから、なんかあったら声掛けて。 って言っても緊急時以外は呼ばないでよ?」

京介「構わんが……部屋で何すんの?」

桐乃「ふっふっふ。 良くぞ聞いてくれた! ふひひ」

ああ、大体予想付いたわ。

774: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:45:39.10 ID:GVwU+c2+0
桐乃「じゃーん! クリスマス新作エロゲー! 『聖夜の願い、妹よ永遠に』!」

桐乃「これはね、ヒロインの夜ちゃんがもうすっごく可愛いの!! PVの時点でかなりやばかったの!」

桐乃「お兄ちゃんに対して素っ気無い態度を取ってるんだけどね、その裏ではずっっっっと! お兄ちゃんの為にって頑張ってるんだよ!? チョー健気じゃない!?」

興奮して力説しているところ悪いが、そのヒロインは多分死ぬと思う。 タイトル的に。

桐乃「そんで、クリスマスの日に夜ちゃんの願いが届くかどうかってのが主題なワケ! あー、ヤバ。 鼻血出そう」

こんな桐乃は絶対に人前には出せんな……。

775: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:46:11.10 ID:GVwU+c2+0
京介「へいへい。 分かったよ。 じゃあ、本当の緊急時以外は呼ばないでおく」

桐乃「一応言っとくケド、邪魔したらマジで許さないから。 プレイした後貸して欲しかったら、静かにしててね」

今から俺の部屋でライブでも開けば、そのゲームを貸して貰わないで済むかもしれんな。

京介「りょーかい。 大人しくしてればいいんだろ?」

桐乃「……ま、京介がどうしても一緒にやりたいっていうなら、トクベツに横で見てても良いけど?」

京介「……あー」

776: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:46:37.38 ID:GVwU+c2+0
一緒にやって欲しいんだろうなぁ! 絶対そうだろうなぁ!

もうちょっと素直に言えば俺も喜んで二つ返事をするってのに、こう、変に回りくどくされると……。

京介「うーむ。 一緒にやりたいんだけど、大学のレポートあるしなぁ」

桐乃「そ、そか」

うわ、すげえ悲しそうな顔してやがる。 分かりやす!

京介「……ま、でも後回しでもいっか」

京介「よっしゃ桐乃、一緒にやろうぜ。 エロゲー」

777: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:47:03.31 ID:GVwU+c2+0
桐乃「マジ!? ひひ、もぉ~しょーがないなぁ~! そんなにやりたいならあたしも断れないしぃ? 一緒にやるのを許したげよっかなぁ!

桐乃「それじゃ京介! 紅茶淹れて、クッキーが棚に入ってるからそれも一緒に持ってきてね。 あたし部屋で待ってるから」

京介「おう。 すぐに行く」

俺がそう返すと、桐乃はニコニコと機嫌良さそうに笑って、二階に続く階段を上がっていった。

ま、悪くはない過ごし方だろう。

778: ◆IWJezsAOw6 2013/12/30(月) 01:47:29.52 ID:GVwU+c2+0
二階に上がる桐乃を見送って、俺は台所へと向かう。

京介「……あいつめ」

そこにあったのは二つのカップ、二つのおしぼり。

あーんなことを言っておきながら、最初から俺と一緒にやる気だったんじゃねえか。 全く憎めない奴だ。

こうして俺は、桐乃が用意していたカップに紅茶を淹れて、トレイに乗せて二階へと向かっていったのだった。

日常的クリスマス 前編 終

792: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 15:54:43.82 ID:NUdeml070
今俺は、桐乃の部屋の前でうずくまっている。

理由、か。 話せば長くなるな。 まあ、聞いてくれ。

遡ること約一年前……なんてことはない。 精々、遡って5分ほど前のことだ。

桐乃が可愛らしく「一緒にエロゲーやろ?」なんて言うものだから、俺はそれに乗って、これから一緒にエロゲーをプレイすることになっていたはずだ。

ちなみに今日、クリスマスイブである。 そんな日に兄貴と一緒にエロゲーをやる妹なんて、例え話で聞いたとしても絶対に信じられないようなことだが……。 実際、俺の妹はそうであったのだ。

そりゃ、俺と桐乃の場合は色々と特殊かもしれんが。

ていうか、それはもうこの際どうでもいい。 とりあえず遡って話すとしよう。

一年前では無く、5分前に。

793: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 15:55:26.94 ID:NUdeml070
京介「……しっかし、俺も上手いこと使われている気がするな」

何気無く兄貴をパシリにするとはな。 まあ、トレイに乗せて予め用意していた辺り、優しいと言えば優しいのか? でも、それなら自身で運んでくれても良いような。

俺も俺で、嫌ってわけでは無いからいいけどよ。

京介「今に始まったことでもないさ」

多分、それがいつからかなんてのは考えるだけ無駄だろう。

いつまで経っても俺は兄貴だし、あいつは俺の妹なのだから。 兄貴は黙って妹の言うことを聞いてりゃいいのさ。 聞いて、話して、分かり合えれば尚良い。

これがいつも通りで、変わらない物なのだろう。

そしてそれが俺にとっちゃ、一番だ。

794: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 15:56:10.06 ID:NUdeml070
そんなことを考えながら階段を上がり、俺の部屋の前を通りすぎ、桐乃の部屋の前へ。

京介「……あ」

ノックは一応しようかと思ったんだけど、見事に両手が塞がっていて出来ない。

トレイを一旦下に置けば良かったし、何よりドアの外から桐乃に声を掛けるだけでも良かっただろう。

しかし、俺はどうやらものぐさなようである。 トレイを下に置くこともせず、声を掛けることもせずに「どうせ今更、いきなり開けてもいいだろ」なんて考え、肘を使って器用にドアを開くことにしたのだ。

795: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 15:56:49.41 ID:NUdeml070
京介「おーい、桐乃。 持ってきた……」

部屋の中を見ると、まず目に入ったのはデスクトップが表示されているパソコン。 そのすぐ横には先ほど桐乃が持っていたエロゲー。

そして、丁寧にベッドの上に畳んで置かれている桐乃が先ほどまで着ていた服。

……先ほどまで着ていた服。

桐乃「……っ!」

最後に、下着姿の妹が目に入った。

796: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 15:57:38.76 ID:NUdeml070
京介「待て!! 今俺を殴ったり蹴ったりしたらこれが溢れる!!」

桐乃「く……!」

桐乃はその言葉に寸でで襲いかかろうとしていた動きを止めた。 そして睨み合い。

そう睨まれてしまっては俺も動けず、桐乃も桐乃で何もできずに俺のことを睨む。

……つうか怖すぎだろ。 こういう時は、何か気の聞いたことを言うべきなのだろうか。

京介「き、桐乃」

桐乃「……」

京介「……その下着、結構可愛いな」

797: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 15:58:23.68 ID:NUdeml070
その後のことは想像に任せよう。

敢えて説明するならば、それを言われた桐乃は顔を赤くして「……そう?」と言って、最後に「ありがとね」と言った。

なんてことは当然無い。 そんな簡単に物事は進まないんだぜ。 辛いよな。

実際にあったことと言えば、桐乃は一瞬目を見開き、一度深呼吸をして、俺の腹に思いっきり蹴りを入れたってことだ。

トレイは桐乃が綺麗にキャッチして、一旦床へと置き、そして再度俺に襲いかかった。

まあ、あったことと言えばこれだけだ。 些細なもんだぜ。

798: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 15:59:17.63 ID:NUdeml070
そんな感じで俺は現在、桐乃の部屋の前でうずくまっている。 ドアは閉められ、廊下には冷たい空気がただただ流れているだけだ。

……全く、せっかくのクリスマスイブに俺は何をやっているんだか。

俺は俺で、しっかりと声を掛けるなりしていればこうはならなかっただろうし、桐乃は桐乃でやりすぎた面もあるとは思う。

しかし、俺は兄貴で桐乃は妹。 そう考えれば、悪いのは俺ってことなのだろうか。

まあ、どっちが悪いかなんてのは正直どうでもいい。 問題は桐乃と仲直りできるかどうかだ。

こんな風に真っ先に考える辺り、俺もあの頃と比べたら大分変わったのだろう。

799: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 15:59:43.26 ID:NUdeml070
そしてそれは、俺だけでは無かったようである。

唐突に目の前の扉が開き、少しだけしゅんとした桐乃の顔が視界へと入ってきた。

桐乃「……その、ごめん。 もう良いから、エロゲーやろ」

ちくしょう。 どうやら先手を打たれてしまったらしい。

800: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:00:11.24 ID:NUdeml070
桐乃「うっ……ひっぐ……」

あれから桐乃と二人でエロゲーを始め、今現在、こいつは号泣している。

ゲーム自体は終盤で、案の定ヒロインの夜ちゃんとやらが不治の病で倒れ、今にも息を引き取ろうとしている場面である。

こんなことを考えるのは無粋かもしれんが……この夜ちゃんとやらは、つい昨日まで元気に飛んだり跳ねたり兄貴のことをぶっ飛ばしたりしていたんだけどな……。 まるで即効性な毒薬並みの病気だぜ。

夜『……お兄ちゃん』

夜『さいご……最後に、ひとつ、お願いがあるんだ……』

桐乃「や、やだよぉ……最後なんて言わないで……」

801: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:01:07.92 ID:NUdeml070
京介「……」

エロゲーと会話してるな、こいつ。

というか、のめり込みすぎだろう。 桐乃はよく俺に「現実とエロゲーを一緒にするな」と言っていたけれど……こいつの方こそ大丈夫だろうか。

そんな心配とも困惑とも取れる視線を俺は桐乃に向けていた。

桐乃「……ちょっと。 なに「何でこいつは泣いているんだ」みたいな目向けてんの?」

それがどうやら桐乃にはそう見えていたらしい。

802: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:02:17.71 ID:NUdeml070
京介「んなこと思ってねーよ」

桐乃「ウソ。 絶対ウソ」

京介「マジマジ。 俺がお前にそんなこと思うわけ無いだろ?」

桐乃「ふうん。 じゃ、証拠見せて」

京介「……証拠?」

桐乃「そ。 あんたが本当にそんなこと思ってないなら、あんたもしっかり泣きなさいよ」

マジか!? どんな証拠だよそれ!?

803: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:03:06.49 ID:NUdeml070
京介「いやいや無理だって! お前だって、感動できない物に無理に感動しろって言われてもできないだろ!?」

桐乃「は? あんた、これが感動できないの?」

京介「……まあ、はい」

桐乃「チッ……ま、いいや。 分かる人にだけ分かれば良いし」

京介「そりゃすいませんでした」

桐乃「ふん……あ」

と、桐乃は何かを思いついたように声を漏らす。

804: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:03:33.37 ID:NUdeml070
京介「ん? どした」

桐乃「あんたさ、その」

桐乃「……」

京介「……なんだよ?」

やけに歯切れが悪いな。 こいつは以外と思ったことをズバズバ言う奴だとは思うんだが。

こういう感じで言い淀みされてしまうと、なんだか変に緊張するぜ。

805: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:04:08.19 ID:NUdeml070
桐乃「……その」

京介「だから、なんだってんだ?」

桐乃「あ、あたしのこと……好き、なんでしょ?」

……はぁ!? 唐突に何を言い出しているんだこいつは!? なんだ、知らない内に俺はエロゲーの世界にでも迷い込んだのか!?

ありえない……よな? エロゲーの世界へ迷い込んだことでは無くて、桐乃がそんなことを言い出すなんてことが、だ。

いやいや、でもこいつは現に今そう言ったはずだし……待て、俺の聞き間違いか? はは、なんだ、その可能性がまだあったじゃねえか。

ったく、驚かせやがって。

806: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:05:13.24 ID:NUdeml070
京介「もう一回良いか?」

俺はこうしてもう一度、桐乃が言った言葉を確認する為に聞き返したのだが……。

桐乃は俺のことをキッと睨むと、つんと顔を逸らしてしまう。

……ふむ。 この可愛い反応はともかくとして……ってことはあれか、こいつがさっき言った言葉は聞き間違いでは無い……ってことになるのか?

……どうすりゃ良いんだ、これ。

桐乃「……」

桐乃はどうやらその先を言うつもりは無いらしい。 未だに逸らしている顔は若干だが恥ずかしそうで、部屋の中は暖かいはずなのに、頬は赤く染まっていた。

808: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:05:46.51 ID:NUdeml070
京介「……桐乃」

言わなければならないだろう。 こうなってしまっては、しっかりと。

京介「好きだよ、俺はお前のことが大好きだ」

桐乃はそれを聞き、俺の方に顔は向けずに口だけを動かす。

桐乃「……あっそ」

全く面倒な妹である。 ま、そこが良いんだけどな。

809: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:06:33.55 ID:NUdeml070
京介「で、話を戻すけど」

それから少し経ち、お互いにある程度落ち着きを取り戻した頃合を見計らって、俺は切り出した。

京介「それで俺がお前のことを好きってのを確認して、どうするんだよ?」

桐乃「……あんま好き好きゆうな」

桐乃は一度息を短く吐くと、続ける。

810: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:07:23.66 ID:NUdeml070
桐乃「ええっとね」

桐乃「だから、このヒロインをあたしに置き換えてみれば感動できるんじゃない?」

とんでもない発想だな。 ましてやエロゲーのヒロインだぞ。 お前に置き換えて良いのかよ。

いや、エロゲーのヒロインってのはある意味こいつの夢である可能性も否定できないから怖い。

京介「このヒロインがお前だったとしたらか」

811: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:08:05.72 ID:NUdeml070
そして、俺もなんだかんだは思いつつも考える。 この夜ちゃんとやらが桐乃だったとしたら。

こうやって今は元気にエロゲーをやっている桐乃が、クリスマス当日……つまり明日、いきなり倒れたとして。

病院に運ばれて、窓の外を見ながら言うんだ。

「大好きだったよ。 本当は、昔からずっと」

桐乃「ちょ、何泣いてんの!?」

京介「へ? あ、ああ……」

812: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:08:31.67 ID:NUdeml070
桐乃「あたしに置き換えた瞬間に泣くとかさすがにキモイって……」

うるせえ。 そりゃ泣くに決まってるだろうが。 ニヤニヤ笑いやがって。

桐乃「……ま、感動できたなら良いや。 続きやろ」

桐乃はそう言い、マウスを握り、クリック。

夜『……あのね』

そして言う。 その最後のお願いとやらを。

813: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:08:57.50 ID:NUdeml070

『……私と一緒に、死んでくれる?』

814: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:09:24.41 ID:NUdeml070
桐乃「サイアク! ほんっとサイアク!!」

京介「お前が分岐間違えたんじゃねえのか!? それで俺に八つ当たりするのはやめてくれ!!」

桐乃「だってめちゃくちゃ良い雰囲気だったじゃん! ふっつーに正規ルートだと思うじゃん!!」

京介「分かったから落ち着けって! 俺を叩くのをやめろ!」

しかし、あの台詞と共に大きなSE音と画面いっぱいに夜ちゃんとやらの顔が表示される仕組みはヤバイだろ。 桐乃の驚きっぷりと来たら面白かったけどさ。

815: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:10:05.50 ID:NUdeml070
桐乃「はぁあああ……死ぬかと思った」

京介「お前、椅子から落ちそうになってたもんな」

桐乃「仕方無いでしょ。 あれは誰でも驚くって……。 まさかこんなルートがあるなんてさぁ……」

桐乃「こんなことになるんだったら、ちゃんと説明見とけば良かった。 あたしとしたことが……」

だいぶ落ち込んでやがるな。 大方、事前に情報を全て知ったら楽しめないだとか、そんな理由で見てないのだろう。

816: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:10:39.87 ID:NUdeml070
桐乃「もう今日は終わり! お風呂入ってこよっと」

京介「一緒にか?」

俺が言うと、桐乃は体をびくっと反応させ、口を開く。

桐乃「なワケあるかッ! でてけっ!!」

酷い奴だ。 軽いジョークだってのに。

817: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:11:28.44 ID:NUdeml070
京介「しっかし、なんだかなぁ」

部屋から追い出された俺は自分の部屋へと戻ると、ベッドの上に寝転び、一人呟く。

京介「なんつうか……」

何だろうか。 何か違う気がする。 折角のイブだってのに、やっていることと言ったらいつも通りのことだけだ。

去年は色々と事前に準備はしていた物の、今年は特にそういったことをしていないから仕方無いことかもしれんが。

818: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:11:54.66 ID:NUdeml070
桐乃がどこかへ出かけようと言えば出かける準備はしてあったし、本当に何も考えていないわけじゃない。

俺から誘う選択肢も勿論あったが、あれは中々度胸が必要な物である。 去年は聖夜たんフィギアという口実もあったのですんなりとは出来たけど、今年はなぁ。

そしてそんな感じで今みたいに悩んでいる間に、今日がやってきてしまったということだ。

京介「……」

今更考えてもどうしようもないことを考えている内に、いつの間にか俺は眠りに就いていた。

819: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:12:27.95 ID:NUdeml070
桐乃「いつまで寝てんの?」

鼻をつままれて、目が覚める。

京介「……っと、桐乃」

桐乃「どうすんの?」

京介「……どうするって、何が?」

桐乃「ご飯。 もう夜だし」

言われて、窓の外に顔を向ける。

……うむ。 確かに外は真っ暗だ。

820: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:13:08.73 ID:NUdeml070
京介「あー」

京介「なんか買ってくるか。 朝はお前だったし……俺が買ってくるわ」

さすがの桐乃と言えば良いのか。 朝の時点で昼の分も買って置いたようで、昼飯は全く困らなかったしな。

京介「つか、お袋はいつ帰ってくるんだよ?」

桐乃「ひひ。 それがさ、お父さんと一緒にご飯食べるから、あんた達二人で何か適当にやっておいて。 だって」

……なんだそれ、すげえ面白そうな場面だな。 見に行きたい。

821: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:13:37.42 ID:NUdeml070
桐乃「仲良いしね。 お母さんもお父さんも」

京介「はは……」

だからと言って俺と桐乃を放置するんじゃねえっての。

桐乃「……あんた、お母さんたちが居ないからってヘンなことしないでよ?」

京介「しねーよアホ!」

ていうかだな。 もし本当にそう思っているなら俺の部屋に『今お風呂から出てきました』みたいな格好で入って来るんじゃねえ。 そして俺の上に馬乗りになったまま話をするんじゃねえ。

822: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:14:24.58 ID:NUdeml070
桐乃「ふうん? しないんだ?」

京介「お、お前なぁ……」

桐乃「ぷ。 なにマジな顔してんの? キモッ!」

と、大変いつも通りな我が妹だ。 もうこの「キモッ」って言葉は褒め言葉にも思えてくるぜ。

桐乃「ほら、いつまでも横になってないで行くよ」

京介「行くって……飯か?」

桐乃「そ。 あんた一人に任せても不安だし、あたしも一緒に行ったげる」

823: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:14:59.62 ID:NUdeml070
京介「……へえ、珍しいな」

桐乃「……問題ある?」

京介「無い無い。 一緒に来てくれるなら何よりだっての」

桐乃「ふひひ。 でしょ?」

……あれ、まさかとは思うが。

京介「……てっきり、さっきのエロゲーが怖くて、一人で家に残るのが嫌なのかと思った」

俺が言うと、桐乃は部屋から出ようとしていた動きをぴたりと止める。

桐乃「ち、違うし。 怖くないし」

……そういうことにしておこう。

824: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:22:21.49 ID:NUdeml070
それから二人で準備をして、夜飯を買いに行く為に家を出て、街灯が照らす中を歩いている。

京介「……さっむ」

桐乃「家に引きこもってばっかいるからじゃん? あたしみたいに外に出れば良いのに」

京介「人を引きこもりみたいに言うんじゃねえよ……」

桐乃「事実っしょ?」

京介「全然事実ではない! つうか、引きこもってるって言うならお前だって休みの日は殆ど部屋でエロゲーやってるじゃねえか!」

桐乃「あれは良いの。 あたしの生きる上での義務みたいな物だから」

とんでも無い義務を課せられているんだな、この妹様は。

825: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:22:51.26 ID:NUdeml070
京介「なら寒さを感じるのは人としての義務だ。 日本の四季に対してな」

桐乃「……ふうん?」

京介「……なんだよ?」

桐乃「ふひひ。 なんか偉そうなことゆうわりには、耳まで真っ赤だなって思っただけ」

京介「ほっとけ」

俺が素っ気なく言うと、桐乃は俺の前に向き合うように立つ。

桐乃「あ~あ。 もう、仕方ないなぁ……」

826: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:23:20.06 ID:NUdeml070
京介「……」

桐乃「ま、京介がどーしても寒いってゆうなら……仕方ないなぁ」

なんだこのわざとらしい演技は。 見ていて若干面白いぞ。

桐乃「……」

桐乃はそのまま手に持っていたカバンに手を入れ、中にあった物を外へと出す。

桐乃「……はい。 いちお、クリスマスプレゼント」

827: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:23:45.33 ID:NUdeml070
京介「……へ。 お、俺に?」

桐乃「あんた以外いないでしょ。 良いから早く受け取ってよ」

京介「お、おう……」

そうやって桐乃から渡されたのは、マフラーだった。 暖かそうな、マフラー。

828: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:24:16.55 ID:NUdeml070
桐乃「……黙って見てないで、付けたら?」

京介「あ、そ、そうだな」

驚きすぎて何がなんだか分からないぜ。 ええっと、マフラーってどうやって付けるんだっけか。

さすがにそこまで馬鹿にはなっていないらしく、体がしっかりと覚えていたようで、問題なくマフラーは巻けた。

桐乃「……お。 やっぱり良い感じ」

京介「やっぱり?」

桐乃「うん。 この前雑誌で見ててさ、京介に似合いそうだなーって思って買ったの。 さすがあたし!」

829: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:24:52.17 ID:NUdeml070
京介「……そっか。 ありがとな、桐乃」

桐乃「ひひ。 京介みたいに冴えないのには、そのくらいが丁度良いよね~」

褒めるのか貶しているのか分からなくなってきた……。 俺も感覚が大分麻痺してきているかもしれん。

京介「……あ、そうだ」

桐乃「んー?」

京介「桐乃、ちょっとこっち来てくれ」

いきなり呼ばれ、桐乃は少し困惑した様子だったが、意外にもすんなりと俺の傍まで寄ってくる。

830: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:25:21.47 ID:NUdeml070
京介「ほら」

俺は言い、桐乃の手を掴む。

桐乃「……」

桐乃は黙って、その手をしっかりと握り返した。

京介「夜飯だけどさ、どっか食べに行くか」

桐乃「良いケド……お金あるの?」

京介「おうよ。 任せとけって」

桐乃「ひひ。 じゃあお言葉に甘えて」

831: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:25:52.15 ID:NUdeml070
京介「おっし。 んじゃあ行くか」

こうして、俺と桐乃が過ごしたイブは終わる。

そうだ。 これで良いんだ。

俺と桐乃の場合は、これで良い。 俺はただ、こいつと一緒に居たいだけなのだから。

無計画が良いとは言わない。 考え無しが良いとは言わない。

時にはそれも必要になっていくだろう。

832: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:26:27.19 ID:NUdeml070
だけど、今はこれで良い。

明日は桐乃を誘って秋葉原にでも行くとしよう。 折角のクリスマスだしな。 何かしらあるだろうし。

並んで歩いて、同じ道を歩いて行こう。

決して楽な道では無いだろうが、それでもこいつと一緒なら大丈夫だと俺は思う。

なんつったって、俺の妹だしな。

833: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:26:58.45 ID:NUdeml070
桐乃「なーに笑ってんの?」

京介「はは、何でもねえよ」

桐乃「ふーん」

京介「あー、つうかさ」

桐乃「んー?」

京介「俺、美味しい店とか知らないんだけど、お前知ってる?」

桐乃「……普通、それあたしに聞く? 雰囲気考えてよ、雰囲気」

知らない物は知らないんだよ! 悪かったな!

834: ◆IWJezsAOw6 2014/01/07(火) 16:27:26.91 ID:NUdeml070
桐乃「ま、良いや。 京介」

桐乃「あたしに任せて」

と、笑って桐乃は言うのだった。

日常的クリスマス 後編 終

844: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:06:08.78 ID:oM6fyUBm0
桐乃「あ、そーいえばさ」

あたしはひとつ思い出し、昼間からパソコンに向かい合ってエロゲーを嗜んでいる兄に向けて口を開く。

京介「ん? なんだ?」

京介「……いやてか、お前はどうして俺のことを可哀想な奴を見る目で見ているんだよ?」

何を言っているのだろう?

折角の休みの日、大学生である兄が一人エロゲーをやっている。 それも昼間から。 誰がどう見たって……。

845: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:06:41.83 ID:oM6fyUBm0
桐乃「だって、昼間からエロゲーとか可哀想な奴じゃん実際」

京介「お前がやってみろって言うからじゃねえか! つうか、お前が今言った台詞はそのまま全部返すぞ!!」

桐乃「あたしは良いの。 何でか分かる?」

ゲームを中断して、京介はあたしの方に体を向ける。

京介「……そうだなぁ」

少し考える素振りを見せ、京介は。

京介「美少女だから?」

と、言った。

846: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:07:11.60 ID:oM6fyUBm0
……わざわざ真顔で言わなくても。

桐乃「あたしはエロゲーを愛してるから良いの!! あんたは大して愛して無いからダメなの!! 分かった!?」

あたしが慌ててそう返すと、京介は少々呆れた様に口を開く。

あ、分かった。 どうせ「だったら愛してない俺にやらせるんじゃねえ」とか言うのだろう。

京介「だったら愛してない俺にやらせるんじゃねえ」

ね? 京介が言いそうなことくらい、最近ではもう分かってしまう。

847: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:07:51.28 ID:oM6fyUBm0
そのおかげもあって、あたしが何て返すかなんてのは頭の中で出来ていた。

桐乃「だからやらせてあげてるんだって。 京介もあたしと同じくらいエロゲーを愛せるようになるまで。 ふひひ」

京介「……よし、良いぜ桐乃」

……良いって、何がだろ? さっきは京介の言いそうなことは分かると言った物の、全部が全部分かるわけでは無いしね。 それに、京介は時々とんでもないことを言うし。

京介「要するに、お前は俺がエロゲーを愛せるように、エロゲーをやらせているってことだよな?」

桐乃「まあ……そうだケド」

848: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:08:20.58 ID:oM6fyUBm0
京介「その最終地点は桐乃がエロゲーを愛しているのと同じくらい、で良いんだよな?」

桐乃「……うん」

さっきそう言ったし。 何の為に纏めているんだか。

てかね、京介じゃあたしの境地までは絶対辿り着けないかなぁ。 素質がないしね。

京介「つまり、お前のエロゲー愛と同じくらいの愛を俺が持てば良いってことだろ?」

うんうん。 あれ……そうなのかな? なんか違う気がするような?

849: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:08:47.90 ID:oM6fyUBm0
桐乃「……」

あたしが若干困惑しているのを知ってか知らずか、京介は更に捲くし立てる。

京介「だが残念だったな。 俺はお前の持っているエロゲー愛なんかより、よっぽど強いのを持ってるぜ」

桐乃「はぁ? 京介があたしよりエロゲーを既に愛してるって? ぷ。 無い無い」

もしも本当にそうだとしたら、昼間からエロゲーなんて基本だし、夜更かししてエロゲーも基本だっての。 あたしが知る限り、京介はそんなことしていないしね。

ふん、甘い甘い。

850: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:09:22.57 ID:oM6fyUBm0
京介「ベクトルが違うんだって。 俺が愛してるのは———」

そこまで言ったところで、何を言うのか予想が出来た。

桐乃「ひひ。 あたし?」

分かっていても、嬉しい。 なんだかとても満たされる気分になってくる。

って言っても、まだまだ満ちてはいないけど。 あたしの器は大きいからね。 足りない足りない。

京介「いや違う。 俺が愛しているのはこの『あやせお手製、桐乃人形』だ!」

851: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:09:48.14 ID:oM6fyUBm0
……。

京介は言い、この前あやせから貰ったあたしをモデルにして作ったという人形を突き出す。

桐乃「……えっと」

な、なんだろうこの気分は。 嬉しいような……嬉しくないような。 京介が持っているあの人形のモデルは確かにあたしだけど、でもなんか違う気が。

桐乃「あ、ありがとう?」

と、疑問形で言ってしまう。 うーん……。

京介「へへ。 どういたしまして」

852: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:10:20.38 ID:oM6fyUBm0
桐乃「……」

なんだか靄が残る。 そんな気分で、京介を見ていた。

京介「いやぁ、それにしても本当に出来が良いよな。 この人形」

京介「この桐乃はすっげー可愛いしなぁ」

……この桐乃は!?

桐乃「京介」

853: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:10:48.09 ID:oM6fyUBm0
京介「ん? なんだよ……って、お前なんか顔が怖いぞ」

はぁ? 怖い? 顔が? 誰の?

桐乃「今言った台詞、もっかい言って」

京介「……あ、あー。 なんて言ったっけ、俺」

桐乃「は、や、く」

京介を睨みながら、あたしは言う。

854: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:12:30.24 ID:oM6fyUBm0
京介「……こ、この桐乃もすっげー可愛いしなぁ。 って言ったかな、はは」

微妙に変えてるし。 てか変えたってことは、自分が言ったこと分かってるじゃん!

桐乃「ふうん。 そうなんだ?」

京介「お、おう」

桐乃「絶対に? 嘘じゃない?」

京介「……も、もしかしたら少し違うかも?」

桐乃「あ~。 そうなんだぁ~。 じゃあ違ったら何してもらおっかなぁ~?」

855: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:13:05.98 ID:oM6fyUBm0
京介「お前のその『何か』ってのは恐ろしすぎるんだが……」

桐乃「ふひひ。 で、どうなの? 違うの?」

京介「……すいませんでした」

よし、勝った。

桐乃「ふうん?」

頭を下げる京介の顔を覗き込みながら、あたしは言う。

856: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:13:36.41 ID:oM6fyUBm0
京介「……桐乃」

桐乃「ん? なに?」

京介は顔を上げると、あたしの目をじっと見つめる。 そして、顔を近づけてくる。

ゆっくり、ゆっくりと。

……って近くない!? ちょ、ちょっと!?

あたしが何か言おうと口を開こうとしたところで、京介はあたしにキスをしてきた。

857: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:14:02.66 ID:oM6fyUBm0
桐乃「い、いきなり何すんの!」

京介「へへ、お前隙だらけだからな」

桐乃「……だからって!!」

京介「ほら、また」

京介はそう言い、もう一度あたしにキスをするのだった。

858: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:14:34.49 ID:oM6fyUBm0
京介「……大丈夫か?」

桐乃「ふ、ふひひ」

あたしは平気。 うんうん。 大丈夫。

京介「……」

京介は黙ってあたしの頬をつまむ。 つまんで、引っ張ったり。

京介「お前の肌って、ほんと柔らかいよなぁ」

桐乃「……人の顔で遊ばないで」

859: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:15:03.11 ID:oM6fyUBm0
京介「お、もう大丈夫か」

桐乃「あたしは最初から大丈夫だっての。 ふん」

京介「へいへい。 そーでした」

全く。 2回もキスしておいて、そんな余裕っぽい態度がムカつく! 後であたしからもキスしてみよっかな……。

無理だ。 恥ずかしい。

京介「それで、何だよ?」

桐乃「……何だよって、何が?」

860: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:15:44.13 ID:oM6fyUBm0
京介「いや、俺がエロゲーやってたら桐乃が「そーいえば」って言ったんだろ?」

……そんなこともあった様な、無かった様な。

てか、かなり話が脱線していた気がする。 今日に限った話では無いけど。

えっと……あ、そうだ。

桐乃「あ、明日なんだケド」

桐乃「あたし、仕事入っちゃってて帰り遅くなるからさ、ご飯とお風呂やっといてもらってもいい?」

861: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:16:34.20 ID:oM6fyUBm0
京介「あー、そうなのか。 別に構わないけど……」

桐乃「八時くらいには帰るから……ってなに? どしたの? なんか言いたそうじゃん」

京介「いや、なんつうか」

京介「そうやって言われてみると、家族だなーって思う」

家族? それってつまり……。

あたしと京介が夫婦みたいってこと!? はぁ!?

862: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:17:08.33 ID:oM6fyUBm0
桐乃「い、いきなりやめてよ! 毎回だけど恥ずかしくないワケ!?」

京介「……何焦ってるんだ、お前」

桐乃「だってあんたがいきなりヘンなことをゆうからでしょ!! た、確かに一緒に暮らしてるケド……」

顔が熱くなるのを感じながら捲し立てると、京介は首を捻りながらしばし考える素振りを見せる。

京介「……ああ、そういうことか」

863: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:17:34.67 ID:oM6fyUBm0
京介「おいおい桐乃さんよ。 お前、俺と家族だってのが恥ずかしいのか?」

桐乃「……そりゃ、いきなり言われたら。 あたしだって色々準備が出来ていないというか……だし」

京介「俺が言ったのは兄妹って意味だぜ? なんの準備をするんだよ?」

ニヤニヤと笑う京介の顔を見て、あたしはようやく言葉の意味を理解する。

……さて。 頭のどの部分を叩けば記憶は飛んで行くのだろうか。 まず始めに無くなるまで試してみることにしよう。

そう思って、あたしは京介に飛び掛る。

864: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:20:13.17 ID:oM6fyUBm0
京介「はぁ……はぁ。 お、お前……あそこまでマジで切れなくても」

桐乃「……全然怒って無いし?」

京介「明らか怒ってたじゃねえか! それに元はと言えばお前の勘ちが……」

桐乃「何か言った? おかしいな、忘れたんじゃなかったっけ」

京介「あ、忘れた。 はは、なんだっけか」

桐乃「ひひ。 良かった。 またくすぐらないといけないところだった」

京介「そ、そーですね。 ……はは」

865: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:20:40.60 ID:oM6fyUBm0
こうやって、二人ともに何も無いときはただただ、家でこうしていたりする。 そして意外にもこれが結構楽しかったり。

明日はあたしが仕事だからこうはできない。 だから多分、いつも以上に京介と居るのかもしれない。

桐乃「ねね、京介」

京介「ん?」

桐乃「ふひひ。 なんでもなーい」

京介「へへ、そうかよ」

そして、次の日。

866: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:23:19.26 ID:oM6fyUBm0
仕事が終わり、帰り道。

今日は途中から天気が崩れた所為もあり、撮影が長引いてしまった。 案の定、時間は結構遅い。

真っ暗な道を一人で歩くのは心細くもあり、不安だ。

なんだか少しだけ……昔を思い出す。

ずっと、あたしはこんな道を歩いていた気がする。 先が見えなくて、真っ暗な道を。

だけど気持ちだけはしっかり持っていて、持ち続けていた。 どれだけ光を探しても見つからないけれど、必ずどこかにあると思って。

こんな風に思うのは、大袈裟だろうか。

867: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:24:44.10 ID:oM6fyUBm0
ヤバ……もしかしてあの黒いのの性格が移ったりしてるのかな……。

桐乃「……夜ご飯なんだろ」

一人呟いて、一歩ずつ進む。

京介のことだから、下手したらスーパーのお惣菜という線も……捨てきれない。

ていうか、家に着いたら燃えて無くなってましたなんてことは無いよね? さすがの京介でもそこまでじゃないよね?

多分これは、あたしが昔「一人で料理をする」と言ったときに京介が思っていたことでもあるのだろう。

今じゃもう、余裕だけどね。

868: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:25:53.66 ID:oM6fyUBm0
さて、そろそろ家が見えてくる頃だ。

そもそも、本来だったら京介を呼び出して車でも出して貰うのが良かったかもしれないけれど、ご飯もお風呂もやってもらっておいて、それは気が引けてしまう。

桐乃「ちゃんとやってるかな? あいつ」

本当にこの場限りの話。 正直言って、こう毎日ずっと一緒に居ると、あたしが今日みたいに仕事だったり、あいつが大学とかで帰りが遅かったりすると、何だか心細くなってしまう。

……一日だけでも離れるとか今じゃ考えられないし。

あ、やめよ。 こんなことを考えていると、会ったときにどんな顔をすれば良いのか分からなくなってしまう。

869: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:26:22.17 ID:oM6fyUBm0
桐乃「……ふう」

気づいたらもう部屋の扉は目の前で、あたしは一度息を吐くと、解錠してその扉を開ける。

桐乃「たーだいま」

桐乃「……あれ?」

部屋は真っ暗。 人の気配がしない。

桐乃「京介?」

とりあえず、電気を付けよう。

870: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:26:48.32 ID:oM6fyUBm0
桐乃「……どこか出かけてるのかな?」

うーん。 こんな時間に出かけるのだろうか? それに、何かあったら電話とかメールをするだろうし。

桐乃「あ、そだ。 電話」

それで京介に連絡してみよう。

そう思い、カバンから携帯を取り出す。 取り出したところで、後ろから声が掛かった。

京介「桐乃!」

桐乃「へ? ちょ、な、なに?」

871: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:27:16.97 ID:oM6fyUBm0
今帰ってきたのか、玄関の扉が開くと同時に、京介の声がした。

京介はそのままあたしの傍まで駆け寄り、あたしを抱きしめる。

京介「……心配させんな! 馬鹿野郎!」

桐乃「え? え?」

京介「……ったく。 お前は本当に……」

872: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:27:44.44 ID:oM6fyUBm0
聞けばどうやら、京介はあたしを探しに町中を走り回っていたらしい。

帰りが予定より遅れて、それでも連絡が無かったので、気が気じゃなくなったと言っていた。

それを聞いたあたしの心にはなんとも言えない感情が渦巻いている。

そこまで心配してくれて嬉しい、とも思った。

そこまで大袈裟にしなくても、とも思った。

そこまで考えが回らなかったあたしが情けない、とも思った。

そして、そこまでしてくれた京介に申し訳ない、とも……思った。

873: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:28:50.14 ID:oM6fyUBm0
桐乃「……ごめん」

京介「ダメだ。 許さない」

珍しく京介が怒っている。 それだけ、あたしが心配を掛けたということだろう。

桐乃「ま、マッサージでもしようか?」

京介「……」

ヤバ、余計怒らせたかな?

874: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:32:09.58 ID:oM6fyUBm0
京介「……なんかエロい言い方だなそれ」

桐乃「ぶっ! そ、そんなつもりじゃないって!!」

京介「いやいや、声色とか仕草とかめっちゃエロかったって……」

桐乃「気のせい!! へ、ヘンな目で見ないでよ!」

ていうか、そういう話じゃないでしょ! 今は!

それは京介も分かっていたのか、ゆっくりと口を開いた。

875: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:32:40.08 ID:oM6fyUBm0
京介「……桐乃」

京介は一度あたしの名前を呼び、一息置いてから話始める。

京介「もっと俺を頼ってくれないか?」

桐乃「……今日のこと?」

京介「ああ」

京介「確かに大袈裟かもしれないけどさ、お前のことが俺は心配で心配で堪らないんだよ。 分かるか?」

京介「俺はお前のことが好きだしよ。 妹としても、彼女としてもな」

京介「……お前が居なきゃ、なーんもできねえんだよ」

876: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:33:10.63 ID:oM6fyUBm0
桐乃「でも、色々やってもらって……悪いし」

京介「馬鹿。 今更何言ってるんだ? お前は俺に無理だけ言ってれば良いんだよ。 つうか、変な気を使うなっての」

桐乃「……うん」

何も言い返せない。 そう言われてしまっては。

京介「それともう一つ」

京介「もっと、自分を大切にしてくれ。 これは、頼み……かな」

京介「桐乃みたいなのが夜遅くに外歩いてちゃ、何があるか分からないしよ」

京介「……それが少し、怖い」

877: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:33:46.74 ID:oM6fyUBm0
そう言う京介の顔は本当に心配そうで、怯えているようで。

そんな顔をさせているのがあたしだと思うと、心に棘が刺さるような気分になった。

桐乃「うん……うん。 ごめんなさい」

京介「……分かればいいんだけどさ」

そうだ。

878: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:34:25.50 ID:oM6fyUBm0
それが、あたしだ。

兄貴に無理を頼んだり、無茶を頼んだりして、困ったときは助けてもらったりして。

それを当たり前のことだとは言わない。 そこまで傲慢にはなれやしない。

だから、せめて一つ一つのことに感謝しよう。

桐乃「京介!」

すぐ目の前に座っていた京介に抱きついて、首に腕を回して、あたしは言う。

かつてはとても言えなかった言葉。 感謝の気持ちと、本心。

879: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:34:55.85 ID:oM6fyUBm0
京介「お、おい? 桐乃?」

桐乃「ごめんね。 ごめんなさい」

桐乃「それと……ありがと」

あたしは言って、京介にキスをする。

京介はと言うと、顔を逸らして、呟くようにこう言った。

京介「……とっくに許してるっての。 つうか、お前のそれは反則すぎるんだよな……毎回」

880: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:35:47.74 ID:oM6fyUBm0
桐乃「ひひ。 でも、あやせが同じことしてきたらどうする?」

京介「あ、あやせが?」

京介は目だけを上に向け、何やら想像し始めている様子。

……なんかむかつく。

桐乃「あんた今ヘンなこと考えてたでしょ」

京介「か、考えてねえよ!?」

桐乃「ふうん? ふーん?」

881: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:36:13.46 ID:oM6fyUBm0
京介「……それより桐乃さん」

桐乃「なに?」

京介「いつまで俺に抱きついているつもりだ?」

桐乃「っ! こ、この変態ッ!!」

不覚。 慌てて離れて、距離を取る。

京介が変態だってことをすっかり忘れていた!

882: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:36:40.57 ID:oM6fyUBm0
京介「ほほう。 変態だと言うのか」

桐乃「……な、なによ。 文句あるワケ?」

何か嫌な予感がするような、しないような。

京介「いや別に? ただ、俺は変態だからなぁ」

京介「妹にいきなり抱きついても仕方ないってことだ!」

そう京介は叫ぶと、少し離れた位置で座り込んでいたあたしに思いっきり飛びかかる。

883: ◆IWJezsAOw6 2014/01/09(木) 18:37:18.05 ID:oM6fyUBm0
桐乃「ちょ、やめ……」

京介「や~だね。 俺の気が済むまでこうしてやる」

桐乃「……ばか。 勝手にすれば」

そう言って、あたしも京介を抱きしめる。

あたしと京介が「そろそろご飯を食べよう」と思ったのは、それから1時間程後のことである。

休みの一日 終

894: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:05:26.16 ID:uaCV+eog0
7月。

少々暑くなってきた今日この頃。 朝っぱらから俺と桐乃は話し合いの場を持っていた。

今はミニテーブルを挟んで向かい合っている。

こんな感じで話し合うってのは中々に珍しかったりもするわけで、いつもならだらだらと壁に背中を預けながらとか、エロゲーをやりながらとか、布団に入りながらとかが多い。 そういったこともあり、俺は妙な緊張感に襲われていた。

自分から話を振る分には特にそんなことは無いだろうけど、今回は何を隠そう……桐乃から声を掛けられ、こんな場となっているからな。

一体どんな話なのだろうか? 俺は今、完全に寝起きだったのもあり寝間着なのだが、桐乃ときたらしっかりと着替え終えていて、気合の入った格好をしている。

895: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:06:16.75 ID:uaCV+eog0
……人生相談か?

真っ先に浮かんだのがそれである。

まあ、そうだったとしたら俺はそれをしっかり聞いて、答えてやるだけ。

何かをして欲しいってことなら、一日中走り回っても良いしな。

桐乃「……京介」

京介「お、おう? どした?」

神妙にも思える面持ちの桐乃から出された今日の議題。

桐乃「車でどっかデートいこ」

と、桐乃は言った。

896: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:06:43.51 ID:uaCV+eog0
京介「……それだけ?」

桐乃「はぁ!? それだけってなに!?」

京介「怒るな怒るな! 俺はてっきりもっと重大なことだと思ったんだよ! こんな緊張感ある場を作るから!」

桐乃「重大なことって、例えば?」

例えば、と言われてもな。 例えようの無い緊張感だったのは確かだが……。

京介「た、例えば……妊娠したとか?」

897: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:07:34.71 ID:uaCV+eog0
桐乃「す、するワケ無いでしょ!! ばか!!」

そんな声と共に飛んでくるのは脇に置いてあった台拭き。

ミカンよりはマシだ。 そう思おう。

京介「……の割にはやけに焦ってるように見える」

桐乃「そうじゃないっての! ばかじゃん!?」

桐乃はテーブルをばんばんと叩き、今にも飛びかかってきそうな勢い。

あまり叩くなよ、壊れたらどうするんだ。 安物なんだからさ。

898: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:08:00.70 ID:uaCV+eog0
つうか、やっぱこいつをからかうのは結構楽しいぜ。

京介「どうだかなあ?」

桐乃「だ、だって……まだ、そうゆうの無いし」

言いながら、桐乃は恥ずかしそうに顔を逸らした。

……よし、今日の分のエネルギーは確保できたぞ!

899: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:08:27.10 ID:uaCV+eog0
京介「冗談冗談。 話を戻そうぜ」

桐乃「……自分から逸らしといて、勝手なんだから」

京介「で、車でデートってのは?」

桐乃「ふん」

どうやら、桐乃様はお怒りの様子で。

こういう時は、どうすれば良いのか大体俺も分かってきた。 というか多分、桐乃はそれを狙っている気もしなくはないが。

900: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:08:57.10 ID:uaCV+eog0
京介「悪かったって。 ほら」

言って、俺は桐乃の頭を撫でる。

すると桐乃は不機嫌そうな顔から段々と機嫌が良さそうな顔に戻っていく。 勿論、本人は表情を変えていないつもりなのだろうけど。

桐乃「……うん」

ヤバイな。 一週間分は動けそうだぞこれで。

901: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:09:35.71 ID:uaCV+eog0
京介「で、本題だけど……」

桐乃「……んん」

桐乃は一度息を整え、口を開く。

桐乃「やっぱりさ、たまには車でどっか行きたいとか思わない?」

京介「行ってるじゃん」

桐乃「あんたが言ってるのは殆ど秋葉原とかでしょ! もっとこう……分かる?」

京介「……なんとなく言いたいことは分かるけど」

902: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:11:39.05 ID:uaCV+eog0
要するに、桐乃としてはいつもと違ったデートがしたいってことだろう。

桐乃「でしょ!? でしょ!?」

京介「でも行くって言ってもどこに?」

桐乃「……むう」

結局はそこだよな。 俺と桐乃が行きたい場所って言ってもバラバラだろうし。

桐乃の場合はそれこそ流行の物が売っているところだとか、服屋に行きたがるのだろう。

903: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:12:04.25 ID:uaCV+eog0
京介「桐乃はどっか行きたい場所とかないのか?」

しかし、俺がそう聞いてみても。

桐乃「……今は特に無いんだよねぇ」

とこいつは返す。

桐乃「逆に京介は行きたい場所とかないの?」

俺の行きたい場所か。

904: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:12:35.82 ID:uaCV+eog0
……そういえば、あやせが今度グラビア撮影をやるとかなんとか言っていた気がする。

いやいや待て俺! 行きたい場所の後にあやせのグラビア撮影を思い出したのは事実だが、決してそこに行きたいなんて思って無いからな! マジで!

だって考えてみろよ。 妹の目の前で、彼女の目の前でそんなこと考える奴が居ると思うか? 居ない居ない。 俺は桐乃一筋なんだよ。 うむ。

桐乃「おーい」

桐乃は言い、俺の顔の前で手を振る。

京介「お、おう……わりい」

桐乃「ひひ。 で、どっか行きたいとこある?」

905: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:13:01.67 ID:uaCV+eog0
……一々笑顔が殺人的だな。 いつの日か笑ったってだけの理由で警察に捕まるんじゃないだろうか。

京介「そうだなぁ……」

京介「あ、そうだ」

桐乃「んー?」

京介「今度、高校で体育祭あるとか言ってたじゃんか。 それに行きたいな」

桐乃「……歩いて行けるじゃん。 それにそれだと、あたしとデートじゃないし」

なるほど。 確かにその通り。

906: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:13:35.59 ID:uaCV+eog0
桐乃「もうちょっとしっかり考えてよ。 やる気あんの?」

なんのやる気だよ!? つうか、そういうこいつはやる気とか常に持っているのだろうか?

……持っていそうだよなぁ。 そういう奴だし。

京介「めっちゃあるぜ。 なんて言ったって、お前とのデートなわけだし」

桐乃「あ、あっそ……」

桐乃「……あ、あたしも。 京介とのデートだからやる気チョーあるよ?」

……やばいな。 今日は過充電かもしれん。 この、手をもじもじとしながら俺のことを上目遣いで見てくる桐乃の可愛さときたら。

こんな桐乃を俺が独占していると思うと、世界で一番幸せなのは間違いないと思えて来るぜ。

907: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:14:04.01 ID:uaCV+eog0
京介「そ、そりゃどうも」

桐乃「……」

京介「……」

なんだこの妙な間は!? すっげー緊張するんだけど!?

もう今日何回目だろうな? つうか、起きてからずっと緊張しっぱなしな気がしなくもないが。

桐乃はどうやら緊張というよりは恥ずかしいという思いから、コップに口を付けたまま動かない。

……そういや、こいつが緊張してるところってあまり見ないよな。 俺が気づいていないだけか?

908: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:14:31.17 ID:uaCV+eog0
京介「なあ、桐乃ってさ……緊張することとかあるのか?」

自分でも唐突だったとは思うが、どうしてもそれが気になってしまった。

こいつは一体、どんな場面で緊張するのだろうか。 それを少しだけ、知りたくなった。

桐乃「へ? あたし?」

京介「そ。 お前」

桐乃「……緊張はフツーにするケド。 てか、人を機械みたいに言わないでよ」

京介「おお……悪い悪い。 んで、どんな場面で緊張すんの?」

909: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:15:02.08 ID:uaCV+eog0
桐乃「うーん。 そう言われても中々難しいかな。 例えばだけど」

桐乃「京介といるとき」

マジか! やったね!

桐乃「はあまりしないかも。 だってもう何年も一緒だしね。 そりゃ、場面によってはするかもだけど……基本、あんたと居るときはしない」

マジか……辛いぜ……。

910: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:15:29.84 ID:uaCV+eog0
桐乃「京介といるときはさ、緊張ってゆうより……安心できる感じだから」

……なんだよ。 嬉しいことを言ってくれるじゃねえか。

京介「そりゃサンキュー。 俺もお前と一緒だよ」

桐乃「さっきはチョー緊張してたって言ってたのに?」

そんなことを言ったような言っていないような気もする。 まあ、緊張していたってのは事実だから何も言えんが。

京介「それはお前が変に真剣な顔するからだろ! 服だってしっかりしたの着てるしよ……」

911: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:15:57.37 ID:uaCV+eog0
桐乃「あ、これ? ひひ。 今からあやせと加奈子と遊びに行くからね」

京介「……あまり遅くなるなよ?」

桐乃「分かってるって。 京介寂しくて泣いちゃうもんね?」

京介「な、泣くか! 泣くわけねえだろ!」

強がる俺。 そしてお決まりの如く、桐乃はこう反応する。

912: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:16:24.13 ID:uaCV+eog0
桐乃「……そっか。 京介はあたしが居なくても大丈夫なんだね。 ごめんね」

桐乃「あたしは京介が居ないとダメなのに……京介はあたしが居なくても平気なんだね。 あーあ……勘違いだったのかな……えへへ」

京介「……お前、それってどのエロゲーのヒロインだ?」

桐乃「ふひひ。 『雨がヤンだら妹の待つ家に帰ろう』の『雨音ちゃん』!」

京介「とりあえず、ヤンデレってことだけは分かった」

桐乃「でしょ? で、どうだった?」

913: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:16:50.63 ID:uaCV+eog0
桐乃が聞いてきているのは恐らく、今桐乃が演じた『雨音ちゃん』のことだろう。

京介「……面倒くさそうな妹だなって感じ」

言い終わった後で、怒られるパターンかと思ったのだが、桐乃の反応は意外にも「あー、やっぱりかぁ」という物だった。

京介「やっぱりって……妹マニアのお前にしては珍しいな」

桐乃「妹『マニア』じゃなくて、妹『オタク』ね。 そこ大事だから間違えないで」

京介「俺には一体どんな違いなのか分からないぞ……」

914: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:17:20.62 ID:uaCV+eog0
俺が言うと、桐乃は溜息を吐き、心底呆れた顔で話し始める。

桐乃「いい? 京介。 まず、妹『マニア』ってのはね、あくまでも妹を客観的に見ているの。 妹が好きなのは変わらないケド……。 やっぱり『マニア』の人ってのはどこか枠の外から妹たちを見ているからさ」

……こいつは一体何を言っているのだ。

桐乃「返事」

京介「は、はい。 どうぞ続けてください」

桐乃「ふん。 なんか京介、聞いてなさそうで話す気失せてきたんだケドぉ」

いやいや、俺は聞いているぜしっかりと。 ただ、内容が理解できていないだけだ。

915: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:17:53.77 ID:uaCV+eog0
桐乃「んでね、次に妹『オタク』の方だけど」

結局続けるのか!? 今、めっちゃ嫌そうな顔で「話す気が失せた」って言ってたじゃんか!!

桐乃「こっちはもう全然違う。 客観的じゃなくて、主観的に見てるからね。 線引きするなら、本当の妹がエロゲーの妹を愛する。 これが真髄かな」

桐乃「自分たちが妹で、そんな自分とエロゲーの妹を被せて見るんだよ。 感情移入もできるし、そうすることで本当にエロゲーの妹たちを愛することができるから」

京介「ってことは、お前もエロゲーの妹に自分を重ねてるってこと?」

桐乃「そうそう! りんこりんとか特に……」

916: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:18:21.03 ID:uaCV+eog0
桐乃「じゃ、じゃない!! あたしはそんなことはしていない!!」

思いっきり口が滑っていたけどな。 それにしてもなるほど……。

桐乃「……よし」

桐乃はひと言そう呟き、立ち上がる。

京介「どした?」

桐乃「いや、ちょっとまたくすぐって京介の記憶を消そうかなって」

917: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:18:51.73 ID:uaCV+eog0
京介「やめてね!? お前の攻撃って本当に容赦無いから!」

桐乃「ふひひ。 そう言われるとやり甲斐があるかなぁ」

一体いつからこいつはあやせみたいになったんだ。 人の嫌がることをするなんて!

よし……そうだな。 そうと決まれば俺にも作戦があるぜ。 つっても、今考えたばっかだけど。

京介「……分かった。 大人しくされるから、場所移そうぜ? ここだとテーブルとかあるからさ」

桐乃「珍しく抵抗無し? 京介も分かってきたのかなぁ?」

桐乃「んじゃ、あっちね」

918: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:19:18.90 ID:uaCV+eog0
そう言って桐乃が指すのは居間。 俺と桐乃がいつも寝室に使っている場所である。

……ふはは。 馬鹿め。

京介「……お手柔らかにな?」

桐乃「ふひひ」

楽しそうに笑いながら、桐乃は居間へと向かう。

俺は桐乃の後を付いて行き、距離を少しだけ詰める。

一歩、二歩、進んで行き……やがて、居間へと桐乃の体が入る。

919: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:19:45.34 ID:uaCV+eog0
京介「……かかったな!!」

俺は言って、桐乃に背後から飛び掛る。

桐乃「へ? ちょ、な、何すんの!!」

そのまま桐乃を押し倒し、手を脇腹へ。

桐乃「ひっ……や、やめ……」

京介「先手必勝だぜ? やられる前にやれって言葉もあるだろ?」

桐乃「ギブギブ!! あたしが悪かった!!」

920: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:20:13.71 ID:uaCV+eog0
ギブアップ早すぎだろ。 まだ手を脇腹に当てただけだぞ。

京介「知ってるか。 ギブアップしたら五分間やられ放題ってルールがこの前追加されたんだ」

桐乃「はぁ!? き、聞いてないっての!!」

京介「おう。 言ってないもん」

……多分、俺は今物すっごく悪い顔をしているんだろうなぁ。

921: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:20:39.90 ID:uaCV+eog0
まあ、いいや! やっちゃえ!

そう結論を出し、脇腹に当てていた手で桐乃をくすぐる。

桐乃「や、やめ……あ、あはははははははははは!!」

しかし、目尻に涙を溜めて必死に堪える姿もこいつは可愛いなあ……。

なんてことを思いながら、色々な場所をくすぐっていた結果、十分くらい経っていた。

922: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:21:31.46 ID:uaCV+eog0
桐乃「ま、まじ死ぬって……はぁ……はぁ……」

京介「悪い。 桐乃が可愛くてつい」

桐乃「……こんな時に、言われても……嬉しくないっての……」

動けなくなっている桐乃を横目に、俺はお茶でも淹れようと台所へと向かう。

桐乃のも淹れといてやろう。 せめてもの罪滅ぼしだ。

923: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:21:58.62 ID:uaCV+eog0
京介「桐乃ー。 紅茶でいいか?」

桐乃「……うー」

まともな返事が返ってこない……やり過ぎた所為で桐乃が幼児退行したのか。 どんなエロゲーだよ。

いやまあ、肯定と受け取っておくとしよう。 文句があれば、俺のと変えれば良いしな。

そう思いながら台所でお茶を淹れている途中で、テーブルの上で鳴っている桐乃の携帯に気づく。

924: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:22:24.37 ID:uaCV+eog0
京介「携帯鳴ってんぞー」

桐乃「……持ってきてー」

俺をパシリにしやがって。 持って行くけどもさ。

お茶のついでだと思えば、別にどうってことは無いだろう。

俺はそのままトレイにカップを二つ置き、運んで行く途中で桐乃の携帯を回収する。

着信時間からしてメールだろうか? あやせか、加奈子か、他の友達か。

……或いは、エロゲーヒロインからか。

華の女子高生としては、前者であって欲しいと願う物である。

925: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:23:11.68 ID:uaCV+eog0
京介「ほらよ。 紅茶と携帯」

桐乃「ん。 さんきゅ」

どうやら紅茶で良かったらしい。 さすが俺だぜ。

桐乃「……これ緑茶なんですケド」

おおっと、渡す方を間違えた。 これは失礼。

京介「こっちだな。 ほら」

桐乃「……なーんか、いやらしい思惑が感じられる」

926: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:23:38.68 ID:uaCV+eog0
何を言っているんだよこの妹は。 まさか、俺がお前と関節キスをしたいから違うコップを渡したとでも思っているのか?

そうだとしたら、それは勘違いってもんだ。

京介「良いからほら、携帯」

桐乃「……」

じっとりした目で俺のことを見ながら、携帯を受け取る桐乃。

927: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:24:06.11 ID:uaCV+eog0
しかし、そんな桐乃の目は携帯を開いて確認した瞬間、変わった。

カタカタと何やら文字を高速で打つと、桐乃は俺の方へと向き直る。

桐乃「京介!!」

京介「な、なんだよ? いきなり大声出すなって」

桐乃「ちょっとこっち来て! 早く!」

なんだ、やけに慌てているな……。 何かあったのか?

京介「わ、分かった分かった。 今立つから手を引っ張るなって!」

928: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:24:37.62 ID:uaCV+eog0
桐乃「はーやーく!」

俺も慌てて立ち上がり、桐乃に引っ張られるまま、玄関へと向かう。

桐乃「……よいしょっと」

京介「……なぜ、そんなとこに座り込む?」

桐乃が座った場所は、玄関の扉からすぐの床。 壁に背中を預けながら、足を伸ばして桐乃は座っている。

桐乃「京介も座って。 あたしの正面で」

京介「言っている意味が……」

929: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:25:03.19 ID:uaCV+eog0
桐乃「いいから早く!」

なんだなんだ。 やけに急かすな。 まあ、桐乃の頼みとあっちゃ断れんが。

京介「……ほらよ。 これで良いか?」

桐乃「まだダメ。 次は片手をあたしの頭の横に付けて。 もう片方の手であたしの両手首を掴んでね」

言われるがまま、俺は桐乃の後ろにある壁へと手を付ける。 そしてもう片方の手は、桐乃の頭上で手首を抑える。

京介「こ、こうか?」

930: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:25:29.76 ID:uaCV+eog0
桐乃「うんうん。 良い感じ。 んじゃ次はそのまま肘も壁に付けて」

注文がやたら多いな……。 何がしたいんだ? こいつ。

京介「……」

んで、俺はそれを実行したわけだが……やたらと桐乃の顔が近い。 そりゃ、桐乃に覆いかぶさるようになっているわけだから当然だろうけど。

桐乃「もうちょっとこっち来て。 あたしの膝の上に乗る感じで」

京介「い、良いのかよ?」

桐乃「良いって言ってるの。 早くして」

931: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:26:00.11 ID:uaCV+eog0
……なんだかエロい格好になってきたぞ。 こいつは本当に何をやろうとしているんだよ。

桐乃「うん。 良い感じ」

桐乃「じゃあ最後に、そのままゆっくり顔をあたしに近づけて」

京介「いやいや! 恥ずかしいんだけど!?」

桐乃「……あ、あたしだって恥ずかしいし」

じゃあやるなよ!? なんだこれ!?

いやでもこれはある意味チャンス……。

932: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:26:25.36 ID:uaCV+eog0
京介「い、良いんだな?」

欲望に負けた俺がそう聞くと、桐乃はこくりと小さく頷く。

京介「……桐乃」

桐乃「……京介」

そんなとき。

ガチャりと、扉が開いた。

933: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:26:52.00 ID:uaCV+eog0
この場面で開く可能性があるとすれば、玄関の扉。

しかしそこからすぐの場所で俺と桐乃はこうしているわけで……。

つまり訪問者から、俺と桐乃は丸見えというわけである。

あやせ「お邪魔します……って、何やってるんですか!!」

934: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:27:18.46 ID:uaCV+eog0
桐乃「あ、あやせ!! 助けて!!」

はは、なるほど。 そういうことか桐乃さん。

京介「おま……ハメやがったな!?」

桐乃「京介が無理やり……あやせぇ!」

さっきのくすぐりの仕返しと言ったところだろう。 もうこれ、仕返しってレベルを超えている気がするんですけど。

とまあ、こんな感じである日の一日は終わっていく。

935: ◆IWJezsAOw6 2014/01/11(土) 17:27:45.87 ID:uaCV+eog0
あやせ恐怖症なる病気が存在するならば、俺は間違いなくかかっているだろう。

……俺が何をされたかって?

ひとつだけ言えることは……そうだな。

とても口には出来ない恐ろしいこと、とだけ言っておこう。

妹は神様です 終

京介「行ってきます」
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1378727397/)

厳選!話題の記事